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テスト返しが終わる。
返ってきたテストはいつもと変わらず高得点で、まあ俺にとっちゃそれくらい当たり前のことだ。
ぶっちゃけ高校レベルの勉強はもう済んでいる。
幼い頃から英才教育を受けてきた俺に取って、毎日の授業は復習みたいなもんだ。
悲しいことにぼっちのせいで勉強がやたら捗った子供時代のおかげで、俺という天才は生まれている。
「自分で天才とか言う?マッスーって案外アホだよね」
「うるせーな。そんなことより早くしないと試合始まる」
「はいはい」
そんなわけでテスト返しも終わった週末。
俺とハルヤンは駅で待ち合わせして、事前に有坂に聞いておいた球場へ二人で向かっていた。
試合が近いのは前から知ってたが、応援に行こうなんていう発想はなかった。
そんなワイワイやってるところにぼっちの俺が行く機会なんて一生無いと思ってたが、ハルヤンがいるなら話は別だ。
もちろんハルヤンのことはまだ警戒中だがコイツの本性はもう知れているし、早々騙されることもないだろう。
「あ、ねえそこのキミ。実はメンズ雑誌に掲載する街角スナップを撮っているんだけど、良かったら――」
「あーはいはい。悪いけどこの子専属契約の事務所があるからそういうのはごめんねー」
俺に声を掛けてきた奴らをさらっとハルヤンが断っていく。
お前はいつから俺のマネージャーになったんだ。
「専属契約の事務所なんかどこにあんだよ」
「え?もちろんいつでも俺が仕事紹介しますよ王子」
「俺を売ったら有坂にチクるからな」
「なにその小者発言」
うるせえ。
横目でハルヤンを睨みつつ休日の街並みを歩く。
夏休みも目前ということもあってさすがにジリジリとした暑さはあるが、天気は良く真っ青な空にはモクモクと白い雲が浮かんでいる。
最高の試合日和だ。
ちなみに有坂にはハルヤンと応援しに行くことはちゃんと伝えていて、少しは喜んでくれるかと思いきや安定の「そうか」だった。
アイツもブレねーな。
「それにしてもちょっと出歩くだけですぐ勧誘って、マッスーも苦労してんね」
「帽子とグラサンとマスクすればわりと平気だけどな」
「それむしろ職質対象でしょ」
とはいえさすがに今日はそんな不審者みたいな格好はしてない。
応援に行くという事もあるし、あまり悪目立ちしないようなシンプルな服装にしてきたつもりだがそれでも声は掛かる。
俺からするとどう見てもハルヤンの方が背も高いし、全体的にお洒落な感じにまとまってて周りより目を引くと思うんだが。
さて、どうせ弱小野球部の一回戦とかそこまで応援しに行く奴いないだろうと球場に来てみれば、予想外にワイワイと賑わっていた。
聞く所によれば対戦相手は去年の甲子園出場校らしく、強豪校側の応援が初戦ということもあって多くきているらしい。
どうやら我が弱小野球部はクジ運も無いらしい。
「ありちゃんて野球初心者じゃなかったっけ」
「おー、この間始めたばっかって言ってた」
「んー…まあこれは厳しそうだけどさ、最後まで応援してあげよっか」
賑わう相手側のスタンドを眺めながら、どことなく俺を宥めるようにハルヤンが言う。
予想外の優しさにちょっと驚いたが、俺としては有坂が見られればいいから試合の結果なんてどうでもいい。
「別にいいよ。むしろ早く負けて俺に構ってほしいし」
「うわ、友達がそういうこという?」
「お前にだけは言われたくねーわ」
コイツにだけは友達がどうのとか説教されたくない。
それにもうすぐ夏休みだし、まかり間違って甲子園なんていった日には有坂の夏休みが全部持ってかれる。
さすがにそんなワケにはいかない。
「結城」
そんなことを考えつつハルヤンとくだらない話をグダグダしていたら、不意に聞き慣れた声が後ろから飛んできた。
振り向いた瞬間、ぶわっと頭の先まで気分が高揚していくのが分かった。
「――有坂っ」
そこには野球部のユニフォームに身を包んだ有坂が立っていて、ハルヤンなんかそっちのけでパッと駆け寄る。
どうやらわざわざスタンドまで俺に声を掛けに来てくれたらしい。
「今大丈夫なのか?試合これから?」
「いや、もう少し時間がある。結城の姿を見つけたから声を掛けに来た」
「そっか、わざわざありがとな」
「遠かっただろう。こちらこそ来てくれて感謝している」
そう言って有坂が僅かに視線を緩める。
伸びてきた手が当然のように俺の髪を梳き、どこかくすぐったい気持ちになる。
有坂と休日に会うのは初めてで、ユニフォーム姿とはいえなんだか新鮮だ。
「…あ、相手去年の甲子園出場校なんだろ?でもハルヤンと一生懸命応援してるからな」
「ああ。この数日間監督やチームメイトと共に相手を研究し勝ち筋を見つけてきた。強豪相手だろうが負けるつもりはない」
まあ有坂ならそう言うと思ってた。
例え相手がプロだろうがコイツは臆したりしなそうだ。
「春屋にもよろしく伝えてくれ」
「うん。分かった」
たったそれだけで会話は終わってしまったが、有坂はすぐには立ち去らずじっと俺の目を覗き込む。
真っ直ぐな視線は俺には心地良く、黙ってその目を俺も見つめ返す。
もっと一緒にいたいな、と自然に思う。
ぽかぽかと暖かい気持ちになりながらスタンド席に戻ると、ハルヤンにジト目を向けられた。
なんだその目は。
「ねえ、キミ達付き合ってるよね?」
いきなりコイツは何を言ってるんだ。
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