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さて、夏休みに入る前にもう一日。
兼ねてからの約束通り俺に付き合ってくれるという有坂と、放課後に待ち合わせをした。
なぜ同じクラスなのにわざわざ待ち合わせる必要があるのかというと、休みに入る前に有坂には顔を出さなければいけない場所が多いらしい。
というわけで結局有坂を待たないといけないわけだが、それでもこの後遊んでくれるなら全然いい。
おまけに夏休み前ということもあって、学校は昼で終わりだ。
時間はたっぷりある。
「へー、夏休み中有坂の実家手伝いに行くんだ。まるで彼女みたいだね」
「そーだろ。有坂の彼女より一歩リードだなこれは」
「うーん…ソウダネ」
教室で有坂を待ちながら、廊下側の窓越しにハルヤンと話す。
なぜかハルヤンが額を抑えているが、そんなことよりなんでコイツは毎度友達ヅラして俺に絡んでくるんだ。
有坂が来るまで暇だから相手してやってるが、合コンで俺を客寄せパンダにしたことは大分許しがたい行為だ。
「そっかー。休み中マッスーと遊びたかったんだけどな」
「ふざけんな、どうせ俺をまた嵌める気だろ」
「あーあー、そんな荒んじゃって。出会った頃の純粋な心はどーしたの」
「お前が打ち砕いたんだろーがっ」
なんでコイツはこう清々しいくらい悪気がないんだ。
人を騙したことへの罪悪感をもっと持て。
「ま、でも一ヶ月くらい会えなくなっちゃうしさ、そろそろ連絡先教えてよ。この間試合見に行った時も教えてくれなかったじゃん」
「お前に教えたら番号売られそう」
「そんな最低なことする奴いる?ほら、有坂相談とか乗るし」
「有坂相談?」
眉を潜めたがニッコリとした笑顔が返ってくる。
めちゃくちゃ胡散臭い。
「――結城、待たせたな」
不意に有坂の声がして、パッと視線を向ける。
どうやら用事が終わったらしい。
途端に世界が変わったように一気に気持ちが高揚していく。
有坂さえ来たら、もうハルヤンなんかどうでもいい。
「ちょっとありちゃん聞いてよ。マッスー友達の俺に連絡先すら教えてくれないんだけど。この間ありちゃんの試合見に行きたいって言ったから付き添ったのに酷くない?」
「何か教えたくない理由があるのか」
「えっ、いやそーいうわけじゃないけど…」
いまだに有坂の手前仲直りしたことになってるから、それを言われると困る。
つーか有坂の試合見に行こうって誘ったのハルヤンだろ。
秒で食いついたのは俺だが。
「あーあ、夏休み前なのに寂しーなぁ。有坂はマッスーと毎日一緒にいれていいよね」
「俺の実家に行く話を春屋にしたのか。随分仲良くなったんだな」
「あー、もうっ。分かった。分かったよっ」
このままだとなんか俺薄情なヤツみたいな流れじゃねーか。
二人の視線を感じて耐えきれなくなる。
さっさとハルヤンと連絡先を交換すると、有坂を引っ張って学校を出た。
なんかしてやられた気がしてならないが、有坂に薄情なヤツだと思われるよりはマシだ。
さて、ハルヤンなんか置いといて今日のプランは俺の中でしっかり決まっている。
まず一緒に昼飯食って、それから旅行で必要な物の買い出しに行く。
友達と遠出とか初めてだから何がいるのかは分からないが、浮き輪とかビーチボールとかトランプとか色々必要なものはありそうだ。
それで買い物終わって時間あったらゲーセン行ったりして、最終的に俺の家で一緒に夕飯を食いたい。
今日は親父は仕事でいないが母親は家にいるから、有坂が俺の親に挨拶したいと言っていたことも叶えられる。
ちなみに夏休みに有坂の実家でバイトすることは既に伝えていて、ちゃんと許可も取ってあるから別に今更畏まる必要は何もない。
本当は有坂の寮にも遊びに行きたいところだけど、俺の家に来ることを考えるとそっちは遠回りだから今日のところは我慢だ。
まあ、一気に遊び尽くしちゃうのも勿体無いしな。
そんな計画的かつ完璧な俺のプランを有坂に伝えると「そうか」といつもどおりの反応で頷いてくれた。
ようやく、今日は俺のやりたいことが出来る日だ。
「――で、どうしてこうなった」
そして俺と有坂は今、閑静な住宅街を歩いている。
とっぷりと日は暮れていて、ちなみに買い出しもゲーセンも行ってないというかなんもしてねえ。
俺のプランは一体どこ行った。
話の概要はこうだ。
まず駅前で昼飯でも食おうぜと有坂と道を歩いていたら、大荷物をもった婆さんが歩いていた。
ヨタヨタ転けそうになってるのを危ねーなと遠目に見ていたら、もう有坂が手を差し伸べに行っていた。
そしてまさかの家まで婆さんの荷物を担いで持っていってやるという奇跡のお人好しぶり。
そこから独り身の婆さんのめちゃくちゃ長い話に付き合わされたり、困っていると言うから切れた電球を変えてやったり庭の草刈りしてやっていたら、気づけばこんな時間になっていた。
「長居してしまった上に、夕飯までご馳走になってしまってすみません」
「いえいえ、今の時代にこんな親切な子達がいるとは思わなかったわ」
そう言って婆さんは有坂に満面の笑みを向けていたが、確かに有坂の時代は少しというか大分ズレている気がしてならない。
今時若い男がばーちゃんに無駄に親切にしたら、むしろオレオレ詐欺だと勘違いされる可能性のほうが高いぞ。
そんなわけでまたしても俺の希望が通ら無かったわけだが、家までの道を有坂に送ってもらいながら歩く。
「すまなかった。また結城との時間を取れなかったな」
「…いや、いーよ。別に良いことしたわけだし」
まさかこの俺に草刈りさせる奴がこの世に現れるとは思わなかったが、それでも今回に関しては責められない。
正直知らない婆さんより俺を構ってくれという気持ちはあるが、それを言ったら俺の人格が疑われる。
「とりあえず少し遅くなってしまったが挨拶はさせてくれ」
「うん…まあそれはもう言ってあるからいいんだけどさ」
とはいえ婆さんちで晩飯食っちゃったから、夕飯もいらないか。
ほんと何一つ俺のプランが通らなかった。
ちょっと微妙な気持ちにはなるが、それでも半日一緒にいれたことは素直に嬉しかったし、野球部に勉強教えた時に比べれば全然いい。
俺の心は確実に有坂のおかげで広くなっている。
家に着くと、この間と同じように有坂を招き入れる。
ワフワフいってるワンコに飛びつかれて真顔で犬を撫でてる有坂を引っ張って、今日は俺の部屋じゃなくリビングへ連れていった。
「ただいま」
そう声を掛けて母親と対面させる。
正直親に友達を合わせるのは初めてだ。
なんとなくむず痒い感覚はあるが、ここはバシッと親友なんだと言ってやろう。
「コイツが夏休みに世話になる有坂な。えっと俺の…俺の大事な――」
言いながら胸がドキドキしてくる。
もし違うって思われたらどうしよう。
いや、有坂も俺のことを大切だと言ってくれたし、あんなにスキンシップもしていた。
さすがに大丈夫なはずだ。
「し…親友なんだ」
やっとの思いでそう紹介したら、有坂がどこか顔を強張らせた。
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