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二人で手を繋いで祭りの道を歩く。
男同士だとか、俺が目立つだとか、そういうことを有坂は一切気にしない。
射的をしたり買い食いをしたりして手が離れても、終わったらちゃんとまた繋いでくれる。
「な、花火どこで見る?どこも人混みだよな」
祭りのラストには打上花火があるらしい。
周りから口々に花火を楽しみにしてる声が聞こえてきて、つられて待ち遠しくなってくる。
「神社の裏手に小さな公園がある。そこなら多分人も少ない」
「へー、さすが地元民」
「子供の頃偶然見つけたんだ」
有坂の子供の頃って、まさかあの有坂弟妹みたいな悪ガキじゃないよな。
きっと不愛想な子供だったんだろうなー、なんて勝手に想像してニシシと笑う。
のんびり神社へと足を向けながら、露店を楽しむ。
今日が有坂とこっちで過ごせる最後の夜だと思うと、後悔なく見て回りたい。
櫓でひょっとこのお面を被ってパフォーマンスする催し物を見て笑ったり、俺のヨーヨー釣りの腕前を披露してやったり、有坂の中学友達に話しかけられてジトッと睨んだりしているうちに時間はどんどん過ぎていく。
ペコペコとオレンジ色のヨーヨーを鳴らしながら歩く。
神社へと続く長い石段を登りながらふと振り向くと、眼下に祭りの景色が広がっていた。
等間隔に並ぶ提灯の明かりがずっと遠くまで続いていて、夕闇に浮かび上がるようなそれにハッと目を奪われる。
「…すげー」
「綺麗だろう。ここの神社は高台にあるからきっと花火もよく見える」
「へえ、楽しみだな」
有坂を見上げて笑いかけると、俺の手を握る力がほんの少し強くなる。
神社に来たついでに二人でお参りもして、それから有坂に手を引かれて裏手に回った。
その辺りまで来るとさすがに人も少なくなってきて、カラコロと下駄の音が静かになった境内に響く。
どことなく淋しげなひぐらしの声がカナカナと鳴いていて、夏の終わりを告げている。
明日で帰るのかと思うと、なんだかやり残したことがあるような、まだまだ物足りないような気がしてしまう。
一日一日を大切に過ごしていたはずなのに、本当にあっという間だった。
有坂が一緒にいてくれたおかげで、俺はずっと夢みたいな時間を過ごすことが出来た。
「今年の夏は結城と一緒にいれて良かった」
不意に落ちてきた言葉に驚く。
思わず隣を歩く有坂を見上げると、その目がどこか眩しげに細められる。
「…なんだよ、いきなり」
「いや、結城がいてくれたおかげで随分楽しかったなと思って」
まさか有坂から楽しかった、なんて言葉がでるとは思わなかった。
毎日のように俺は楽しい楽しい言ってるが、有坂はいつだって「そうか」としか言わなかったから。
神社の裏からすぐの所にこじんまりとした公園があって、柵越しに二人並んで街を見下ろす。
さすが長い石段を登ってきただけあって、ここからなら花火がよく見えそうだ。
周りに人もいないし、超大穴スポットだろこれ。
ウズウズしながら待っていたら、程なくしてスッと一筋の光が空に上がった。
「あ」
声をあげたと同時、パアッと夜空に大輪の花が咲く。
一つ上がったらまた一つ、そしてまた一つと、次々に色とりどりの花火が打ち上がっていく。
ドン、と大きな音が鳴り響き、どことなく火薬の匂いも漂ってくる。
二人で手を繋いで、夜空に広がる花火を見つめていた。
有坂の連れてきてくれたその場所は本当にいい眺めで、目の前の光景にただ魅入ってしまう。
珍しく俺は黙って花火を見ていて、なんだか胸がいっぱいになっていた。
夏休みの最後にこんな光景を有坂と一緒に見ることができて、実は結構感動していた。
くっそつまんね、と思っていた毎日はもうどこにもなくて、有坂が俺の世界を変えてくれた。
ちらりと隣を見上げると、すぐに有坂と視線が合う。
ちょうど有坂もこっちを見たところだったらしい。
自然と胸が熱くなる。
俺のずっと欲しかった、初めての友達。
大切な親友。
「…な、さっき有坂が言ったことさ。俺も同じこと思ってた」
「え?」
「俺と一緒にいれて楽しかったって言っただろ。俺も有坂が一緒にいてくれてさ、夏休みめちゃくちゃ幸せだったなって思ってた」
「…そうか」
そう伝えたら有坂の手がふわりと俺の髪を梳く。
優しい手付きで耳を撫でられたが、不意にグイと身体を引き寄せられた。
気付けば抱き締められていて、思いのほか力強い腕に息が詰まる。
「ふ、苦しいって。花火見れねーだろ」
「すまない。触れたくなってしまった」
そう言って俺を見下ろす有坂の視線はどこか切なげで、きっと有坂も俺と過ごした夏休みを惜しんでくれてるんだろう。
俺と同じで、寂しいと思ってくれてる。
だってもうじき終わってしまう。
花火が消えたら、全部終わってしまう。
――夏が終わっていく。
「…好きだ」
唐突な言葉に目を見開く。
有坂の目は真っ直ぐに俺を見下ろしていて、その瞳はどこか熱を含んでいるようにも見えた。
「結城が好きだ。誰よりも結城が愛しくて堪らない」
そんな風に他人に言葉をぶつけられたのは初めてだ。
身体がカッと熱くなって、自然と自分も口を開いていた。
「俺も好き」
口に出したら、どうしようもなく心が震えた。
俺の人生の中で有坂は、間違いなくかけがえのない大事な存在だ。
「俺も有坂が大好きだ」
もう一度そう言って、いっぱいの笑顔を向ける。
そう。今の俺には有坂が全てだった。
俺は誰よりも、何よりも有坂が全てで、大好きだった。
――友達として。
有坂の手がゆるりと俺の頬を撫でる。
不意に近づいた黒い瞳にハッとしたと同時、唇に柔らかい感触が当たった。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、それは数秒後。
急激に俺の背筋が凍りついていく。
――なんで。
俺は有坂に、友達として絶対にあってはならないキスをされていた。
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