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新学期が始まる。
結局有坂からは一度も連絡が来なかった。
自分から何度も連絡しようと思ったけど、もう一度同じことを言われたら絶対に心が折れる。
こんな衝撃を受けたことは生まれて初めてで、マジで俺にはショック耐性がない。
だけど今日からはまた有坂に会える。
いつもより早く目が覚めて、数本早い電車に乗る。
学校に向かいながら、もう心臓がめちゃくちゃドキドキしてる。
完全に不安と期待だ。
さすがに学校始まったら毎日会うし、そしたらまた前みたいな関係に戻れるんじゃないか。
だけどもしまた話しかけるなって言われたら。
「…ゆ、結城くんおはよう」
「おはよう」
「――あ、ありがと…」
学校に辿り着くとクラスメイトの女子に挨拶された。
いつもならどうでもいい奴は大抵無視だが、反射的に返してしまったのはバイトのせいか。
つか挨拶しただけで礼言われるってどういうことだよ。
昇降口に付いて鞄から紙袋を取り出す。
それから自分の下駄箱を開けて、休み中に勝手に溜まっている手紙やらいつのだか分からん差し入れをごっそり突っ込んで、上履きに履き替える。
そのまま教室へ行って同じように机の中に入ってる手紙も紙袋にいれて、まとめてゴミ箱に突っ込んだ。
いつもの朝の流れだ。
このあと机に座って授業準備をしつつボケっと担任を待つわけだが、今日は自分の机に鞄を置くよりも先に窓へ駆け寄った。
そこから下へ視線を落とす。
校庭で野球部が朝練している姿が見えた。
秒でその中から有坂の姿を見つける。
視界にいれた瞬間、世界が一変したように胸がいっぱいになっていく。
――有坂だ。
数日ぶりだけど、めちゃくちゃ久しぶりな気がする。
夏休み中は朝から晩までずっと一緒にいて、その姿はもう見慣れてるはずだ。
それなのにいつだって俺の目を引いて、どこにいてもすぐに分かる。
朝練が終わったところなのか整備用のトンボを持ってチームメイトと話していて、有坂の姿を見れて嬉しいけどなんとなく微妙な気持ちになる。
俺だって有坂と話したい。
今すぐ有坂に飛びつきに行って、俺だけを見て欲しい。
また髪や頬に触れて、たくさん俺を甘やかしながら俺にしか分からない顔で笑って欲しい。
とりあえず教室に来たら朝の挨拶をしようとウズウズしながら待ってたが、今日に限って有坂はHRぎりぎりに入ってきてすぐに担任が来てしまった。
仕方なく一番後ろの席から一番前の有坂の席までこっちを向けと念じてみるが、有坂は全くこっちを見ない。
俺がクラスメイトなこと忘れてんじゃねーだろうな。
少し長めのHRのあと、始業式が始まるために体育館へ向かう。
すぐに声を掛けようと思ったが、どっかのクラスのモブ野郎に話し掛けられていなくなってしまった。
なんでこう邪魔者が多いんだ。
「マッスーおはよ。有坂と話せた?」
仕方なく一人で廊下を歩いていたら、隣のクラスのハルヤンに声を掛けられた。
「話せてねーよ。アイツこっち見ないし、俺のこと忘れてんのかな」
「それはないでしょ」
当たり前のように言われて、じわりと胸が熱くなる。
「やっぱそうだよな?多分有坂も時間があいて話し掛けづらくなってるだけだよな?」
「え?あーうん、そーじゃない?たぶん」
「だよなっ」
ハルヤンの言葉に元気づけられる日が来るとは思わなかった。
なんだかんだ有坂相談にも乗ってくれたし、もしかしたらハルヤンは少しだけ良い奴なのかもしれない。
現状が悲惨すぎてハルヤンがマシに見えてきたが、とはいえ有坂の事を話せるやつがいるのは結構嬉しい。
「ありがとな。俺頑張る」
ふふ、と表情を緩めてハルヤンに笑うと、どこかギクリとした顔をされた。
「…うわー。有坂が勘違いしたくなる気持ちがちょっと分かったわ」
「あ?気持ちわりーから絶対好きになんじゃねーぞ」
「うん。マッスーがぼっちなのって中身のせいもあるんじゃない?」
なんだとコラ。
最低詐欺師野郎に中身云々言われたくねーわ。
ハルヤンとグダグダ話しながら体育館へ行って、始業式が終わればまた教室へ戻る。
今日は夏休み明けということもあって始業式とHRのみの半日授業だ。
昼休みがないから有坂と話すきっかけを作ることは難しい。
どうせ放課後になったら風の速さで部活行ったり頼まれごとされたりしていなくなるんだろうから、出来れば移動時間とか休憩時間になんとか話をしたい。
――どうしよう。
そして俺は机の上で頭を抱えていた。
有坂と目が合わない。
というか全くこっちを見てくれない。
朝からずっと俺はガン見してるのに、まさかの一度もこっちを見ない。
ハルヤンに頑張るって言ったばかりだけど、まさか有坂がちらりとも俺を見てくれないとは思わなかった。
ここまで目が合わないとか、どう考えてもこんなの意図的だ。
つまり有坂は俺とまだ話す気がないのか。
それかもしかしたら、俺はマジで有坂に嫌われたのか――?
思考がそこに辿り着いた瞬間、ズシリと一気に気持ちが重くなる。
期待していた気持ちがガラガラと音を立てて崩れて、俺の心は完全に折れた。
もうダメだ。
こんなの無理だ。
心が持たない。
意図的に無視なんかされたら怖くて話し掛けることも出来ないし、俺達はマジで終わったんだ。
もう二度と有坂と友達になることも話すことも出来なくて、このまま終わるんだ。
俺はぼっちにまた戻るんだ。
まだ新学期初日だが、俺は早くも絶望した。
自分の心がここまで脆いとは思わなかったが、有坂に少しも見てもらえないことは想像を絶するほど俺の心を打ち砕いた。
今はもう夏祭りでたくさん有坂に甘やかされた思い出は遠いもので、もしかしたら全部夢だったのかもしれないとすら思える。
そして俺の心が折れたこの瞬間、俺と有坂の関係はここで終わってしまった。
――かのように見えた。
4時間目のHRで席替えがあった。
新学期になったし、心機一転新しい席でという担任の考えらしい。
クジを引いたらまさかのまた同じ席で、窓際の一番後ろだった。
寝てもバレにくい最高ポジだ。
ガタガタとクジを引き終わった生徒が移動し、あっちこっちで俺の隣を願う声が聞こえる。
どうせ誰が隣になったって同じだ。
もう今日はさっさと帰ろうと鞄に筆記用具を詰めていたら、俺の隣に大きな影が落ちた。
人よりデカイ身長。
相変わらず笑顔の欠片もない仏頂面。
夏休みで、さらに日に焼けた肌。
ハッと目を見開いてその姿を呆然と見つめる。
噓だろ。
誰が隣に来たって同じ、なんてのは嘘だ。
そんなのは大嘘だ。
心が震える。
折れていた心が一瞬で復活して、世界がまた色を変えていく。
有坂と隣の席になった。
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