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昼休み後のHRで、文化祭についての取り決めがあった。
なるほど、だからこのタイミングで俺に話し掛けに来たのか。
有坂に夢中すぎて文化祭とか忘れてた。
結局昼休みは女子に有坂を取られたし、俺の作戦が台無しだ。
おまけにさっきから何か物言いたげな有坂の視線をひしひしと隣から感じる。
とっさに有坂が出るならやる、とか口走ってたが、部活でクソ忙しい有坂を巻き添えにするのはまずかったかもしれない。
強引に頼まれた有坂が断るわけがないし、満場一致で出し物が演劇になっているところを見ると承諾したんだろう。
そうなればもう俺の意思関係なく文化祭の進行は進んでいく。
演目は『白雪姫』らしい。
あれ、白雪姫って王子最後に出てくるだけじゃなかったっけ。
めちゃくちゃ楽じゃね。
出来レースのように役も決まっていく。
心配してた有坂は王子の家来役に決まってて、恐らく俺の気持ちを組んで近場の配役にしてくれたんだろう。
「あの…結城くん、よろしくね」
HRが終わったら女子に挨拶された。
誰だコイツと思えば白雪姫役らしい。
「その…私こういうの全然慣れてなくて。お姫様役になっちゃってすごく不安で…」
「ああ、俺がいるから大丈夫」
何の疑いもなくそう言ってやると、女子の顔がカッと赤く染まった。
どうせみんな俺が見たいんだろうし、白雪姫なんかおまけだろ。
嫌がってはいたがやるとなったら俺はやるし、やる気になった俺が最高の結果を残さないわけがない。
そんなことより俺が王子で有坂が家来ってことは、一緒に台詞合わせしたり練習したりする機会もあるよな。
そっちのほうが楽しみだ。
なんて悠長に思っていたが、翌日渡された台本に俺は目を剥いた。
白雪姫のはずだがその内容はかなりアレンジされていて、王子の出番がめちゃくちゃ多い。
学祭だし今時ただの白雪姫を演じてもつまらないという配慮のアレンジなんだろうが、さすがにこの台詞の多さは練習にもしっかり参加しないといけなそうだ。
そんなわけで今日から昼休みも返上して、文化祭の準備や劇の練習に時間を取られることになる。
役者は教室で飯を食って、すぐに台本の読み合わせだ。
学祭とはいえやたら本格的で、小道具や衣装作りも既に手を掛け始めている。
とはいえ有坂はそう台詞も多くないし、野球部は新人戦を間近に控えているらしく練習にはほとんど参加しない。
一緒に出来ると思ったから役を引き受けたのに、こんなの聞いてない。
「へー、マッスーのクラス白雪姫やるんだ。白雪姫役の朝宮さんって学校一可愛い子だよね」
昼休み。
早々に教室から逃げ出した先で、ハルヤンに捕まった。
「そーなのか?どうでもいいけど有坂と話せなくてハゲそうなんだが」
「ハゲのイケメンとかマジで需要ないから気をつけようね。隣の席になったんじゃないの?」
「そーなんだけどさ…」
渡り廊下の壁に寄りかかりながら、小さくため息を吐き出す。
俺のいつか友達に戻れるかもしれない作戦はちゃんと進行中で、コツコツと有坂に話し掛けている。
有坂は無視したりしないし、聞けば淡々と答えてくれる。
それだけでも嬉しいけど、でもやっぱりぎこちない。
あんなに楽しかった夏休みの記憶があるからこそ、どうしても今が物足りないと思ってしまう。
「…やっぱり有坂は俺ともう関わる気はねーのかも。隣の席でも全然見てくれないし」
あんなことを言った手前、関わりづらくなってるだけだと信じたかったが、この様子を見るとそうでもない気がする。
本気でずっとこのままになってしまいそうだ。
「有坂と元通りどころかそれ以上になれる簡単な方法あるけど聞く?」
「は、マジで?聞く」
目を丸くする。
そんな裏技があるなら最初から言え。
「付き合えばいいんじゃないの。恋人として」
「…お前俺達が男同士ってこと忘れてるだろ」
「性別はとりあえず置いといてさ、マッスーは有坂のこと好きじゃないの?」
「好きに決まってんだろ」
大好きだ。
世界で一番好きだし、人生で一番好きな自信がある。
「そこは恋人にはならないの?」
「当たり前だろ。有坂は唯一無二の俺の親友なんだよ。大事な親友の人生俺が壊してどーすんだ」
「え」
ハルヤンにキョトンとした目で見つめられる。
さっきから何言ってんだコイツ。
「フツーに考えれば分かるだろ。第一有坂なんて旅館の跡継ぎだし、俺と付き合う選択肢なんて元々ありえねーと思うんだけど」
「…へー。予想外にちゃんと考えててちょっとびっくりした」
逆になんでそう簡単に男同士で付き合うとかいう発想になるんだ。
有坂だってそう思ってるから俺にそこは突き詰めてこないんだろーが。
「…うーん。なら俺思うんだけどさー。マッスーの気持ちって一種の刷り込みみたいな感じなんじゃない?」
「刷り込み?」
そう言われて頭に思い浮かべる。
それってつまり卵から孵ったひな鳥が初めて見たものを親と認識するあれか。
「初めての友達が有坂だからそこまで依存してるけどさ、実際他に仲良しの友達出来たら有坂じゃなくてもいいんじゃない?」
「…それは」
どうなんだろう。
有坂と同じくらい仲の良い友達なんか出来たことないから分からない。
「ありちゃんも気の毒だよねー。こんな無自覚イケメンに煽られて生殺しにされてさ」
「…はぁ?」
「ま、とりあえず演劇のチケット俺の分取っておいてよ。美男美女カップルなら絶対満員で入れないし」
「それはいいけど。何枚?」
「とりあえず30枚くらいかな。友達いっぱい呼びたいからさー」
「お前絶対それ売る気だろ」
ジトっと横目で話していると、クラスの女子に声を掛けられた。
白雪姫役の朝宮さんだ。
「結城くん、一緒に練習しよ?本番で失敗したくないからお願い」
俺の腕をとって上目遣いに言われる。
そうなれば仕方なく教室に戻って練習再開だ。
文化祭まではなんだかんだ日にちがなくて、毎日が目まぐるしく過ぎていく。
有坂との距離は隣の席になっても、どうしても縮まらない。
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