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ハルヤンと別れて家に帰る。
それから携帯を見ながら夕飯を食べて、携帯を見ながらテレビを見て、集中できなくて携帯持ちながらウロウロして、風呂入ろうかと思ったけど携帯見れないから後にして、もう落ち着かず携帯片手にソワソワしまくる。
なんでこんなにソワソワしているのかというと、部活が終わったら電話すると有坂からメッセが届いた。
遅くなるかもしれないとも入っていたけど、有坂から電話が掛かってくるのかと思えばじっとなんてしてられない。
まだかまだかと最終的にベッドの上で正座して携帯と睨めっこしながら待っていたら、ようやく有坂から連絡がきた。
秒でスマホの画面をタップする。
「――有坂っ」
受話口から声が聞こえるより先に待ち侘びていたその名前を呼ぶ。
少し向こうで驚いたような間があった後、聞きたかった声が耳に届いた。
『結城か。すまない、ミーティングが長引いて遅くなった』
「うん。めちゃくちゃ待ってた」
『そうか』
どことなく通話先からガヤガヤとした声が聞こえてきて、本気で今終わった所なんだろう。
ちらりと時計を見たら結構良い時間だ。
『今日は遠いところまですまなかった。それから弁当美味かった。初めてとは思えないほどよく出来ていた』
率直な褒め言葉に胸がカッと熱くなる。
今日一日、ずっと俺はその言葉を待っていたんだ。
「…ほ、本当か?初めてでちょっと失敗もあったし、ホントにちゃんと出来てたか?」
『ああ。どこが失敗なのか分からなかった。結城は料理も器用にこなせるんだな』
そう言われてぶわっと一気に嬉しくなる。
同時にちょっと不安だった気持ちも吹き飛んでいく。
有坂が褒めてくれた。
おまけに口調はどことなく優しくて、機嫌も良さそうだ。
「な、じゃあまた弁当作ってもいいか?俺次は絶対もっと上手く作れる自信あるし、家帰ってから卵焼きの練習したら上手くできたんだ。有坂が食べてくれるなら毎日だって作りたいし…」
『料理が好きになったのか?』
「違うっ。有坂に喜んで貰えるのが嬉しいんだ。笑ってくれたのがめちゃくちゃ嬉しくて…ほんとに、久しぶりで――」
言いながらギュッと胸が詰まっていく。
嬉しいのと一緒に、夏休みの思い出が蘇ってくる。
あんな風にいっぱい笑い合って、楽しかった頃にまた戻りたい。
有坂の貴重すぎる笑顔をまた見たい。
拒絶したり怒るんじゃなくて、俺と一緒にいることを楽しいと思って貰いたい。
『…結城』
だけど電話口の有坂の声がどことなく詰まった気がして、ギクリとする。
ダメだ。
せっかくあんな風に笑ってくれたのに、また何か不機嫌にさせたくない。
「あっ…そうだ。試合すごかったな。まさかホームラン打つとは思わなかった」
『…ああ、あれはそれまでの展開があってこそだ。チームメイトと監督、それから結城にも感謝している』
「え?俺は何もしてねーけど…」
『弁当を作ってくれただろう。それに結城が応援してくれていると思うと気持ちの入りようも違う』
なるほど。
つまり俺のおかげか。
ならこのまま俺が応援し続けたら、有坂はずっと喜んでくれるのかもしれない。
ずっと機嫌がいいのかもしれない。
「な、次の試合いつ?また応援に行きたい」
『次は平日なんだ。残念だが来てもらうことは出来ない』
「別に学校行かなくても勉強困らないからいーけど」
『駄目だ。勉強が出来る出来ないの問題じゃないだろう』
「えーっ」
まあ有坂ならそう言うか。
もし無視して行ったらあとでめちゃくちゃ長い説教されそうだ。
でもワンチャンあるかもと駄々を捏ねてみたら、優しく説得された。
俺のどんな言葉でも有坂はちゃんと真剣に向き合ってくれて、ふふ、と表情が緩んでしまう。
『なにを笑っているんだ』
「んー?別に」
『…全く。本当はちゃんと分かっているんだろう』
「うん。次はちゃんと待ってる」
『いい子だ』
電話口から聞こえた有坂の声は、どことなく甘ったるい。
柔らかくなった雰囲気に、堪らなくくすぐったい気持ちになってしまう。
心臓がトクトクと速くなって、今すぐ会いたいな、なんてぼんやり思ってしまう。
『…ああ、そうだ。一ついいか。結城に話がある』
「え?」
ドキリとする。
話っていきなりなんだ。
まさかこの展開から俺に何かトドメ刺すつもりじゃねーだろうな。
今超絶いい雰囲気になったところだったのに、頼むから地獄に突き落とすようなことは言わないでくれ。
夏休み後から有坂に突き放され続けた傷口はマジでデカすぎて、ちょっとのことで不安になる。
なんならいつでも傷が開く準備も、心が折れる準備さえ出来ている。
『文化祭は朝宮と回ることにしたのか』
「――は?そんなわけねーだろ。俺は有坂以外となんか回りたくねーし…」
『分かった。なら結城のためになるべく時間を作る』
「えっ」
あまりにあっさり言われた言葉に驚く。
おいおい、マジで今日はどうしたんだ。
有坂のとんでもない笑顔は見れるし、文化祭だってあんなに渋ってたのになんでいきなり気持ちが変わったんだ。
これは本気で弁当最強説始まったか。
「…ま、マジで?いいのか?」
『構わない』
「あ…後からダメって言うのは絶対ナシだからな」
『ああ。そんなことは言わない』
ハッキリとした有坂の言葉に堪らなくなる。
携帯を握りしめたまま、身体がぶるっと震えるほどの嬉しさがこみ上げてくる。
――やばい。
どうしよう。
マジで嬉しい。
文化祭を友達と回れる。
有坂と回れるんだ。
高校ではもちろんだが中学の時だってずっと一人ぼっちだった。
楽しそうに文化祭を回ってる奴らを、ずっと一人で眺めてた。
俺の周りにワイワイ人はいたかもしれないけど、それでも本気で一人ぼっちだったんだ。
「…っ嬉しい。すげー嬉しい。有坂と一緒に回れる…っ」
『そんなに俺と回るのが嬉しいのか』
「うん。有坂がいいんだ。有坂は俺の特別で…有坂以外とは回りたくなくて、ずっと一緒に回りたいと思ってて…っ。だからすげー嬉しい」
どうしようもなく込み上げる気持ちを、捲し立てるように有坂に伝える。
俺がめちゃくちゃ嬉しいこと、感動しまくってること、有坂にも分かって欲しい。
『…結城。お前は本当に俺を――』
有坂が何か言いかけたが、不意に電話奥で声がした。
どうやら誰かに呼ばれたらしい。
良いところなのに、電話中でも忙しい奴め。
結局その言葉の先を聞くことは出来なかったが、俺は来たる文化祭が今は楽しみで仕方なかった。
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