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有坂に連れてこられたそこは『天文同好会』と書かれた教室だった。
中を覗くと半球形のドームが教室の三分の二を占めている。
どうやらプラネタリウムをやっているらしいが、よくこんなデカイもん作り上げたな。
中を覗いてみたいが上映中らしく、今は立入禁止の札が立っている。
ドームの脇に受付があって、店番らしい男子生徒がふわあっと欠伸をしていた。
「遅くなりました」
「あー、有坂。やっと来たか。全然人来ないから暇でさー…って王子!?」
眠そうにしてた男子生徒が俺を見て覚醒したように目を剥く。
もはやテンプレ級の反応だ。
「うわー…まさかこんなところでお目にかかれるとは…。ち、近くで見ると本当にお綺麗な顔して――」
「店番代わります。お疲れ様でした」
有坂が俺を隠すように前に立って、淡々と男子生徒に告げる。
いつになく有無を言わせぬ有坂の雰囲気に、男子生徒は慌てたように去っていった。
有坂と二人になって、とりあえずぐるりと教室を見回す。
半球形のドーム以外には、星座についての展示品が飾ってある。
どうせまた人が足りないって言われて入ったんだろうけど、有坂はこんな同好会にも所属してたのか。
「店番ってここか?誰もいねーけど」
「今時は星に興味がある若者が少ないと会長も嘆いていた。結城は星に興味があるか?」
「…あんまり気にして見たことはねーな」
「そうか。なら少し見てみるといい」
有坂がそう言った時、ちょうど中から聞こえていた音声ガイダンスが止まった。
どうやら上映が終わったらしく、有坂はドームに歩み寄ると入り口の幕を開ける。
結構デカい作りの割に中にはほんの数人の生徒しかいなくて、すぐに人が捌けていく。
さっきの男子生徒が暇そうに欠伸してた理由が分かった。
「結城」
ぼけっと突っ立っていたら、有坂に中へ入るように促される。
ドームの中はそこそこの広さだが、真っ暗で真ん中に機械が置いてあるだけだ。
土足は厳禁らしいが、ラグマットの上にはクッションや膝掛けが置いてあって座って見れるようになっている。
促されるまま入り込むと、靴を脱いで適当なところに座った。
こんな広い中に俺だけとかさすがに他の客を待つのかと思えば、有坂は気にせずシャッと幕を引いた。
光が一気に遮断されて、視界が暗転する。
少し不安になったが、有坂もすぐに中に入ってきてくれた。
それから真ん中にある機械を有坂が操作する。
「それ何?」
「投影機だ。ここから星を映す」
「へー」
直後、真っ暗だった部屋に小さな光が灯る。
同時に音声ガイダンスが聞こえてきて、上映が始まった。
「俺プラネタリウム見るの初めてなんだ」
「そうか」
二人きりの暗闇の空間で、俺と有坂の声が響く。
もしや有坂は店番で外にいるのかと心配したが、ちゃんと隣で見てくれてホッとした。
さすがに一人で見るとか寂しすぎる。
それから二人で天井を見上げる。
投影機から映し出される世界は俺が知っている夜空とはまるで違って、視界いっぱいに散りばめられた星は宇宙の中にいるみたいだ。
「…うわ、すげー」
「この辺りは夜も明かりが多すぎる。中々見れる光景ではないな」
「逆にこんな星空を見れる場所があるのか?」
「俺の実家は観光地だが自然も多い。少し離れればこれに似た光景が見られる場所もある」
「へー」
有坂の声を聞きながら、じっと夜空を見上げる。
目を奪われたように呆然と見上げていたが、不意に床に置いていた手に有坂の手が触れた。
そのままギュッと握りしめられる。
ちょっと驚いたけど、暗闇の中だから手を繋げるのは嬉しい。
どことなく安心してその手を握り返すと、少し形を変えて手の指を絡められる。
「結城」
そっと隣で名前を呼ばれた。
目に入る満天の星空は色を変えて横に流れていき、俺の視線を釘付けにする。
それは流れ星となり、幾筋もの線となって夜空から地上へと降り注ぐ。
「…なに」
思いのほか幻想的な光景に目が離せない。
遅れて頭に入ってきた言葉にぽつりと呟いて返すと、今度は頬に熱い指先が触れた。
それが有坂の手だと気付くと同時、グイと顔を横へ向けられる。
そのまま何を考える間もなく、あっさりと唇を奪われた。
「…っおい――」
キスされたことに遅れて気付いて、慌てて有坂の身体を押し返す。
が、絡んでいた指先が力強く俺の身体を引いた。
「――んん…ッ」
再び唇を塞がれる。
それは数度押し付けるように触れてから、強引に舌先が俺の口内に入り込んでくる。
驚きに引っ込めようとした舌を無理やり絡め取り、ジュッと濡れた水音を立てて吸い上げられる。
ビクリとして繋いでいた手に力を入れると、気を良くしたように何度もそこに吸い付かれた。
「…っん、ふ…っ」
唇の端からお互いの息遣いが漏れる。
こんなキスをされるのは、前に家まで送ってもらった時以来だ。
離さないとばかりにしっかりと腰を引き寄せられて、めちゃくちゃに深いキスをされる。
有坂の舌が無遠慮に人の歯列をなぞり、上顎を舌先でくすぐられる。
ピクリと反応すればそこばかり丹念に舐められて、ビリビリと電流が走り抜けるような感覚が背筋に這い上がる。
堪らず俺は目の前の身体を押した。
「…っふ、はぁ…っ。も…無理…っ」
顔を俯かせて、必死に酸素を取り入れる。
心臓がバクバクと音を立てていて、頭が焼けそうなほど熱を持っていく。
「まだ足りない。もう少しさせてくれ」
だが有坂は構わずそう言って、グイと俺の身体を押し倒した。
ラグマットやクッションのおかげで衝撃は無かったが、天井の星空がぶわっと視界一面に広がる。
たくさんの星座が空に浮かんでいるのが見えたが、それに魅入る暇も無くデカい身体に視界を塞がれた。
再び唇を奪われそうになって、慌てて有坂を押し返す。
「…ちょっ、ちょっと待て。お前ここがどこだか――」
「分かっている。上映中の出入りは禁止にしているから大丈夫だ」
「いやそういう問題じゃなくて…っ」
全くもって何も大丈夫じゃない。
珍しく強引すぎる有坂の行動に頭が混乱してしまう。
まさかあの律儀で常識人の有坂が、こんな誰が来るかも分からない場所でこんな行為をしてくるとは。
しかも上映中は立入禁止とか、やたら用意周到じゃねーか。
なんて思ってから、ハッと気付く。
「…っお、お前まさかそういうつもりでここに誘ったな!?」
「俺も男だ。あんな風に煽られて平常心でなどいられない」
「あ、煽ってなんか――」
言葉の途中でまた唇を奪われた。
どうやら言い訳はしないらしい。
再び唇を何度も吸われて、引き摺り出した舌を優しく甘噛みされる。
堪らず有坂の服を掴んで身体を震わせたら、唇から目蓋にキスをされた。
そのまま愛しむように何度も頬やこめかみにもキスをされる。
むせ返るような甘ったるいキスを繰り返されて、頭の芯がくらりとした。
それでもどこかでこの関係は絶対にいけないという理性があって、必死に俺を押し留める。
「…あ、だ…ダメだ。もー…ダメだ、って…」
「本当にダメか?」
「…だ、だって俺達は友達で――」
遮るようにまた唇にキスされた。
すぐに深い口付けに変わるそれに、頭が全く追いついていかない。
やばい。
脳が痺れて、蕩けそうだ。
「――っふぁ」
不意に強めに舌を吸い上げられて、ビリッと腰に甘い疼きが走る。
もう無理だ、限界だとふるふると首を振って訴えたが、有坂は離してはくれない。
「可愛い。もっと俺に愛させてくれ」
星空の下で優しく目を細めた有坂の姿を、まるで夢の中にいるような気持ちで見上げていた。
絶対にダメだと分かっているのに、じっと俺だけを食い入るように見つめる視線が堪らなく心地良い。
気付けば頭が真っ白で、途中からはただ有坂にされるがままキスを受け取っていた。
どれくらい経ったのかは分からないが、気付けば音声ガイダンスも星空の映像も止まっていた。
ようやく身体を離されると、少しずつ外の賑やかさが戻ってくる。
酸素が足りないせいか、目眩がするように頭はくらくらしている。
身体を起こせないまま、ぼんやりと俺は口を開いた。
「…どうしよ。有坂」
「なんだ?」
優しい手が落ちてくる。
髪を撫でてから、そっと有坂は俺の身体を起こしてくれた。
名残惜しげにその手が俺の両頬を包み込む。
目の前の黒い瞳をぼーっと見つめながら、俺は再び口を開いた。
「…全部セリフ飛んじゃった。白雪姫の」
「――何っ!?」
有坂が焦ったように目を丸くしたが、俺はもう力が入らずくたりと目の前の身体にもたれ掛かった。
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