アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
64
-
演劇が終わればほどなくして文化祭も終わりだ。
もうすぐ閉会式になるが、写真を撮りたいという奴らが俺や朝宮さんの周りに溢れかえっている。
「結城くん、写真一緒に撮ってあげようよ」
「は?絶対嫌だ。俺はさっさと着替えてーんだよ」
「えーっ、有坂くん。結城くんが一緒に写真撮ってくれないんだけど…」
なんでそこで有坂にいくんだ。
朝宮さんの訴えを受けた有坂が、ちらりと俺に視線を向ける。
「本人が嫌だと言っているのに無理強いは出来ない」
「でもせっかく文化祭でこの格好してるのに、少しくらい記念に残しておきたくない?」
「…それは残したいな」
そう言ってどこか熱っぽい視線を有坂に向けられた。
まあ有坂がそう言うなら、別に考えてやらないこともない。
「あー、もう分かったよ。撮ってやるよ。でもちょっとだけな」
「やったぁ。後で有坂くんにも写真送るね」
「よろしく頼む」
「うん。じゃ連絡先交換ね」
そう言って携帯を取り出す二人。
ハッとして二人の間に割って入ると、有坂に邪魔をするなと追いやられた。
おい、なんなんだこれは。
なんで俺が押しやられないといけないんだ。
おまけに俺が許可したのを聞いていた奴らがドッと押し寄せてくる。
どこのマスコットキャラだというレベルでもみくちゃにされながら撮影された。
なんとか追っ払って教室に戻る。
外はもうオレンジ色に陽が傾いていて、制服に着替えたらすぐに閉会式だ。
その後は後夜祭で、中庭に設置したステージで出し物があったり、校庭ではキャンプファイヤーもやるらしい。
去年はどうせぼっちだと思って閉会式が終わったらサクッと帰っていたけど、今年は違う。
俺には有坂がいてくれる。
それに俺は有坂に話したいことがある。
あのプラネタリウムでの出来事を思い出すとまだふわふわした気持ちはあるけど、俺達はちゃんと話をしないといけない。
有坂もそれは分かってるはずだ。
体育館で閉会式を終えたら、すぐに有坂に声を掛けに行く。
が、どこにもいない。
右も左も上下見ても、どこにもいない。
有坂が速攻でいなくなるのはいつものことだが、まさか後夜祭まで忙しいやつだとは思わなかった。
もうアイツに首輪付けたろか。
しかたなく電話をかけると、どうやら後夜祭のBGMを掛けてほしいと頼まれたらしい。
掛けるだけですぐに戻るらしく、それならとステージの出し物を見て待つことにした。
――遅い。
ステージでやってる全くもって面白くないコントをジト目で見ながら、有坂を待つ。
もう一体何時間待ってるのか分からない。
と思ったが携帯を見たら電話を切ってからまだ10分程度だった。
待ってる時間てのはなんでこんなに長く感じるんだ。
我慢耐性のない俺は早くも限界を迎えて席を立つ。
おまけにキャンプファイヤーが始まると、やたらモジモジと顔を赤くした女子や男子に声を掛けられまくる。
いつもは遠くで見てるだけでそこまで声なんか掛けてこないくせに、なぜか今日はやたら積極的だ。
逃げるように校舎の中へ入る。
有坂が一緒にいればいつも誰も寄ってこないし、もうこのまま放送室へ迎えに行くことにした。
昇降口から入って階段を上ると、シンと静まり返った廊下に俺の足音だけが響く。
校舎内に人気はなくて、きっと今の時間はみんな後夜祭で外に出ているんだろう。
二階の教室を横切ってそのまま渡り廊下から職員棟へ向かう。
いや、向かおうとしてふと俺は足を止めた。
「――っ」
不意にどこかから声が聞こえた気がした。
あれ、と周りを見回す。
耳を澄ませてみると、やっぱり聞こえてくる。
それはどことなくすすり泣くような、でも少し苦しそうな女の人の声で――。
ハッとする。
これはもしやアレか。
またしてもホラー展開がきてしまったか。
夕暮れの校舎とか鉄板中の鉄板だ。
ちょっとビビったが好奇心が勝って声のする方へ足を向ける。
もしかしたら病人の可能性だってあるし、放置は出来ない。
探してみると、それはとある実習室の中から聞こえてきているようだった。
ドキドキワクワクしながら、そっと中を覗いてみる。
「――っあ、やぁ…あっ、あっ、もー…春屋くんてばぁ」
「…っねえ、あんまり大きい声出すとバレるんだけど。そういうのが好き?」
「えー…やだぁ、あっ、あっ」
目に入った光景にフリーズする。
俺にとって非日常的すぎる光景に一瞬何が起きてるのか分からなかったが、一拍置いてドカッと足先から頭の天辺まで熱が上がった。
おいおいおい。
ちょっと待て。
なにやってんだアイツは。
部屋の中にはハルヤンと知らない女生徒がいた。
ハルヤンが女生徒を机の上に押し倒して、えーとその、あれだ。
何が行われているのかと言うと、ちょっと童貞の俺の口からはめちゃくちゃ言いづらい行為が部屋の中で行われている。
慌てて引き返そうと思ったところで、ふと顔を上げたハルヤンとバチリと目が合ってしまった。
バクリと心臓が跳ねる。
最強に気まずい。
偶然とはいえ知り合いのそんな所を目撃するとか、複雑というか居た堪れないというか、今後どんな顔して俺はハルヤンと顔を合わせればいいんだ。
とっさの事に内心慌てまくっていたが、ハルヤンは特に動じた様子もなく俺を見つめる。
その表情はいつものフザけたハルヤンとは違って、別人みたいに大人っぽかった。
不意にハルヤンの目が挑発的に細められて、その唇が妖艶に弧を描く。
それからそっと自分の唇に人差し指を当てた。
恐らく黙ってろ、ってことなんだろうが、そんなの当たり前だ。
間違ったって声なんか掛けるか。
慌てて扉を閉めて引き返す。
カッカッと顔に血が上り、今しがたの衝撃的な光景にめちゃくちゃ動揺してしまう。
マジでやばいものを見てしまった。
これだったら幽霊見たほうがマシだ。
ともかくその場から離れようとダッシュすると、角を曲がったところで出てきた誰かにぶつかった。
「――わっ」
前を見てなかったから思いっきり相手の胸に突っ込んだが、大きな手のひらが俺を抱きとめてくれる。
ふわりと鼻をくすぐる香りはよく覚えのあるもので、俺はガバっと顔を上げた。
「あ…有坂っ」
「そんなに慌ててどうした」
ずっと待っていた黒い瞳が不思議そうに俺を覗き込む。
思わずガシッとその服を掴んだ。
「は、ハルヤンがっ。ハルヤンがえっと…実習室で――」
「春屋がどうした。何かされたのか」
そう言って眉を顰められたが、そうじゃない。
何かされたというより何かしてたというかアレをしてたわけだが、それを有坂に言ったらそのまま説教しに行きそうだ。
慌てて何でもないと言って誤魔化すと、有坂は不審そうに目を細めた。
「顔が赤い。本当に何かされたわけじゃないだろうな」
「さ、されてないっ。有坂が遅いからちょっと遊んでただけで――」
「…そうか。待たせてすまなかった」
そう言ってゆるりと髪を撫でられた。
そんな風に優しくされると一気に甘えたくなる。
さっきまで我慢していた不満が、次々と込み上げてくる。
有坂が最初から俺と一緒にいてさえくれれば、あんな光景なんて見なかったのに。
つまらねーコントだって見ることもなかったのに。
「な、なんですぐいなくなるんだよ。俺が一緒にいたいの分かるだろっ」
「すまない。すぐ戻るつもりだったが」
「おせーんだよっ。もうめちゃくちゃ待ったし――」
「そうか。不安にさせてすまなかった」
有坂は噛み付くような俺の言葉には全く動じず、そっと俺の身体を引き寄せる。
愛しむように唇を耳裏に押し付けられて、濡れた感触に頭がショートするかと思った。
有坂に話したいことがある。
俺達はちゃんと話をしなければいけないんだ。
でも今はちょっと、頭がいっぱいいっぱいだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
69 / 275