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「ど、どうしたんですかラインハルト様」
「うるせーな、なんでもねーよ。さっさと動かせ。賢者がまごついてたら何も進めねーだろうが」
「あ、はいっ。ここのボス強いですよね。回復頑張りますね」
そう言って水瀬はニコニコと微笑みながらゲーム画面に視線を戻す。
いつもだったら時間を忘れてすぐ夢中になれるのに、ゲームをしていても気分は全く晴れない。
結局昼休みは有坂と言い争いみたいになって終わってしまった。
色々言ったけど、俺はもっと有坂と一緒の時間を過ごしたかっただけだ。
だけど有坂が朝宮さんの肩を持ったから、カッとなってしまった。
それでもまさか苛立ちに任せて部室を出てくとか、そんな有坂との時間を無駄にするようなことはしてない。
かなり微妙な空気だったけどちゃんと一緒に飯は食ったし、有坂の練習もいつも通り隣でガン見してた。
不満があろうが有坂との時間は貴重なんだ。
「あ、悪い」
「いえ、大丈夫ですよ。ちょっと待っててくださいね」
画面の中の俺のキャラが敵に倒されて、水瀬がすぐに魔法をかけて復活させる。
再び動き出したが、いまいち集中出来ない。
ダメだ。
有坂のことが気になりすぎる。
帰りのHRが終わったら有坂と話したかったけど、有坂は教師に呼ばれてどこかに行ってしまった。
なら家に帰ろうとも思ったけど、どうせ一人でいてもモヤモヤするし仕方なくゲー研に足を運んだわけだ。
でももしかしたら今頃用事が終わって、また朝宮さんと遊んでたら――とか想像したら窓からコントローラーぶん投げたくなってくる。
本当だったら今すぐ電話したい。
電話して今すぐ会いたいって言って、もっと構ってほしいって言いまくりたい。
だけど昼休みに有坂に言われた言葉が、ずっと俺の中で引っかかっている。
――お前を友達として見ていいのか、分からなくなる。
それってもしかして友達やめるってことか。
俺の言葉が、有坂には重いってことなのか。
そう思ったら愕然として、何も言えなくなってしまった。
有坂に嫌われたらと思うと、怖くてそれ以上の言葉が出てこなかった。
有坂は黙りこくった俺の様子を見て話をやめたけど、だからといって不安は消えない。
確かに朝宮さんとの話はもしかしたらほんのちょっとだけ俺も言い過ぎた感はあるけど、でも本当に嫌だったんだ。
有坂が朝宮さんに助けられた、って話を聞いたら余計に我慢できなくなった。
俺にはすぐ怒るし時間を全然使ってくれないのに、他のヤツを褒めてるのを見たら一気に腹が立った。
だけどもしそれで言い過ぎて有坂に嫌われてしまったら、マジでこの世の終わりだ。
「あー、くそっ」
画面の中の俺のキャラが再び倒れる。
ダメだ。いつもみたいに全然うまくいかない。
飽きたとばかりにポイとコントローラーを投げて、椅子に寄りかかる。
「今日は会長もいないですし、二人だと難易度が違いますね」
「あー…そういやいないな、会長。どこ行ったんだ?」
「会長は今日テスト勉強するそうですよ。一応受験生なので」
「えっ、アイツ先輩だったのかよ」
それは予想外だ。
だとしても今更敬語に切り替えたりはしないが。
「はい。なのでラインハルト様が入ってきて下さってよかったです」
「…は?なにが」
聞けば水瀬の話によると、同好会の存続には三人必要らしい。
会長がこのまま卒業したら来年同好会存続の危機なんだとか。
だから俺が入ってくれて助かったと言われたが、ちょっと待て。
「俺別に入る気ねーけど。書類書くのとかめんどくせーし」
「――ええっ、そ、そんなこと言わないで下さいよっ」
そう言ってオロオロと慌てたように水瀬は俺に縋る。
必要なんです、一緒に遊びたいです、と何度も必死に言われてちょっと驚く。
「…そんなに俺と遊びてーの?」
「はいっ、もっとたくさん一緒に遊びたいですっ。シグルドくんはたまにしか来てくれないですし、会長もこれから受験生になってしまいます。だからラインハルト様が来てくれて本当に嬉しくて――」
「…ふーん」
俺は少し考えると、むくっと寄りかかっていた身体を起こす。
それから再びコントローラーを握った。
「じゃあこの勝負で俺に勝てたら同好会に入ってやるよ」
「――え!本当ですかっ。分かりました。このエトワール、ラインハルト様が相手だろうとこの勝負だけは絶対に勝ってみせますっ」
何気なく言った言葉だったが、水瀬の予想外の宣戦布告にこっちも煽られる。
勝負となれば一気に燃えてきて、二人でゲームに熱中する。
水瀬は俺とゲームするのが本当に楽しいらしく、素直にハイハイと話を聞いて一緒に遊んでくれる。
テスト期間中でもお構いなしに遊んでくれる。
「そういやお前テスト勉強はしなくていいのかよ」
「あ、僕もう先にテスト受けさせてもらってるんです。テスト期間中はちょっと撮影があって出れないので」
「へー、そんなことできるのか。俺も三学年までのテスト先に全部やらせてくれねーかな」
「わあ、ラインハルト様はやっぱりとても聡明な方なんですねっ」
「当たり前だろ」
フフンと鼻を鳴らしてやると、「すごいですっ」と褒められる。
まあ俺が褒められるのなんて天才だから当然ではあるが、悪い気はしない。
有坂だって本来ならこれくらい俺を褒めてくれたっていいのに。
褒めて褒めまくっていっぱい可愛がってほしい。
もちろんたまに怒るところはあっても、怒ったらその五倍くらいは褒めて欲しい。
ゲー研入りをかけた勝負はかなり白熱した試合になったが、俺の勝利で終わった。
やっぱり俺が本気をだすと右に出る者はいない。
「ああ…悔しいですっ。最後あそこでミスしなければ…」
「言い訳は見苦しいぞ。俺の勝ちは勝ちだ」
「うわあ…すごく残念です…っ。ラインハルト様にどうしても入ってもらいたかったのに…」
そう言って全力で落ち込んでる水瀬に、思わず笑ってしまう。
マジで涙目になって悔しがっていて、余計に笑える。
「…あっ、何笑ってるんですかぁ」
「いやお前がマジすぎて面白くて」
「マジですよっ。僕は趣味の友達が本気で欲しいんですっ」
まあ友達が本気で欲しい気持ちは分かる。
俺は笑いながら水瀬に手を伸ばすと、元々ぐしゃぐしゃなその髪をさらにかき回してやった。
「いいよ。入ってやるよ。ゲー研」
「――えっ」
「その代わりお前が入会届とかめんどくせー物は全部書けよ」
「は、はいっ。もちろん全部書きますっ」
従順に頷いている様子に、また笑ってしまう。
真っ直ぐに俺と遊びたいっていう気持ちが伝わってきて、必要とされている感じが素直に嬉しい。
クスクスと笑っていたが、ふと水瀬がじっと俺の顔を見つめる。
どことなく呆然としたまま、ぽつりと呟いた。
「ラインハルト様って普段はとても格好いいですけど…笑うとすごく可愛らしいんですね」
眼鏡の奥の瞳がどことなく熱を帯びたその時、不意にコンコンという無機質な音が部室に響いた。
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