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「アホか。何が魔王だ。余計なことすんな」
「わっ」
握られた手を振り払って、少し高い位置にある水瀬の額を小突いてやる。
水瀬は額を押さえて俺を見下ろしたが、特に気にした様子もなくニコッと笑った。
「ラインハルト様、今日も一緒に遊びましょう。帰りも送らせていただきますね」
そう言われて少し考える。
今日こそ有坂を誘おうと思ってたけど、朝宮さんが話してたから声を掛けられなかった。
俺をすぐに取ってくれると思ってたのに、いつまで経っても話してたからもしかしたら今日も遊ぶのかもしれない。
そう考えるとめちゃくちゃ腹が立ってくるが、それでも有坂のことが気になる。
「…で、でも有坂が。昨日も遊んでたらテスト期間だって怒られたし――」
「それはおかしいですね。ラインハルト様は何も悪いことしてませんよね。むしろ勉強しなくても成績を残せるなんて、褒め称えるべき事だと思いますけど…」
当たり前のように水瀬にそう言われた。
顔を上げると、不思議そうに小首を傾げている。
「…やっぱりそう思うか?」
「はい。何がおかしいんでしょうか。ラインハルト様は何も間違っていませんよ」
そうだよな。
俺どう考えても悪くないよな。
水瀬に肯定されて、心が迷い始める。
有坂にどうしても嫌われたくなくて、有坂の言っていることがきっと正しいんだと思って謝ったけど、でも有坂だって朝宮さんとまた話してた。
俺があんなに嫌だって言ったのに、そしたら配慮が足りなかったって、もう二度と喋らないって言ったのにまた仲良くしてた。
あれは有坂が悪いんじゃないのか。
「あ、有坂だって女と仲良さそうに電話したり話したりしてて…勉強してたって言ってたけど。でも俺とは全く遊んでくれなくて――」
「ええっ、あ、あんなキスマークを残しているのに、ラインハルト様を差し置いて他の女性と親しくされてるんですか?」
「そうなんだよ。やっぱりそれっておかしいよな」
「おかしいですっ。それはきっと騙されてます」
そう言われてハッと目を見開く。
ハルヤンの顔が頭に浮かんだ。
「いや、俺を騙す最低野郎はもう他にいるんだ。有坂は全然違う」
「あ、そうなんですか?」
「おー。有坂はそんな奴じゃない」
きっぱりとそう言うと、水瀬は少し考えるように顎に手を当てる。
だがすぐに納得したように一つ頷いた。
「そうですか。ラインハルト様は本当にお優しい方なんですね。そんな扱いをされてもシグルドくんを庇うなんて」
「有坂はめちゃくちゃ良い奴なんだ。ただちょっと他の奴によく目移りするだけで…」
有坂はいつだって誰かに引っ張られている。
俺だけを見てほしいのに、いつだって俺のことは後回しだ。
言葉に出したら余計に寂しくなって視線を俯かせると、水瀬は複雑な表情で俺を見つめた。
「とりあえず一度気持ちを落ち着けませんか。今日のところはモヤモヤすることは忘れて、僕と楽しくゲームしましょう」
そう言われて心が揺れ動く。
どうせテスト中だし、きっと有坂はまた遊んでくれない。
このまま帰って万が一また朝宮さんと遊んでたなんてことを知ったら、もう今度こそ絶対に心が折れる。
だったら水瀬とゲームして遊んでたほうが気が紛れるし、楽しいに決まってる。
なんだかんだコイツはゲーム上手いし。
「分かった。今日は水瀬と遊んでやる」
そう決めてニッと笑ってみせると、水瀬は嬉しそうに表情を綻ばせた。
が、すぐにその表情を変えると、俺から視線を上げる。
「――だ、そうです。ラインハルト様もそう仰られてますし、今日のところはお帰りくださいね」
唐突な水瀬の言葉は俺ではなく、俺の背後に投げかけられる。
キョトンとして振り返ると、そこには有坂が難しい顔で立っていた。
仏頂面を視界に入れて、心臓が大きく動き出す。
「あ、有坂っ」
なんでここにいるんだ。
もしかして俺を追いかけてきてくれたのか。
朝宮さんより俺を取ってくれたのか。
ぶわっと一気に気持ちが高揚して駆け寄ろうとしたが、水瀬が俺を遮るように目の前に立つ。
おいこらモブ眼鏡。
邪魔だ。
ジトッと水瀬を見上げたが、水瀬はふわりと物腰柔らかな視線を俺に向ける。
が、すぐにその視線は有坂へと移った。
「先約は僕です。いいですよね?シグルドく…――いえ、魔王ゼタス」
ハッキリと言い切った水瀬の視線が、スッとどこか変わる。
有坂もどこか気付いたように眉を顰めた。
「ラインハルト様からあなたの話を伺いましたが、どうやら僕たちは相容れない関係にあるようです。僕はあなたを今後騎士シグルドから、魔王ゼタスへと見なします」
そう言ってビシッと水瀬が有坂に指を差す。
有坂はピクリと眉を動かすと、いつも通り口を開いた。
「そうか」
いや『そうか』じゃねーよ。
絶対意味分かってねーだろ。
「先程お聞きの通り、今日はラインハルト様のお時間は僕が頂きます。…ああ、友人関係ですし断る必要はありませんね」
そう言って水瀬は有坂に口端を上げてみせる。
横から見上げていたが、さすがモデル兼俳優なだけあってその笑顔は一枚絵みたいに綺麗だ。
まあ俺の次くらいだが。
水瀬の言葉に有坂は一度俺を見る。
その表情はどことなくいつもより五割増しくらい堅い。
でもいつもと変わらないと言われれば別に変わらない。
有坂はじっと俺を見つめたあと、水瀬に視線を戻した。
「構わない」
有坂の単調な言葉が廊下に響く。
「元々結城に良い友人が出来ればと思いゲーム研究会に連れてきた。せっかく出来た友人との約束を反故にさせようなどと思ってはいない」
「そうですか。それは良かったです」
「ただし」
不意に言葉を区切ると、有坂の眉間に皺が寄る。
前にもあったが、元々怖い顔のやつが凄むとマジで怖い。
水瀬より俺が有坂の顔にビビった。
「二時間までだ。二時間経ったら迎えに来る」
「ああ、大丈夫ですよ。もちろん僕が家までお送りしますか――」
「その必要はない。いいな、結城」
有坂の視線が飛んでくる。
つまり水瀬とゲームして遊んだあと、有坂が送ってくれるのか。
それって有坂とも遊べるって事だよな。
二時間ならまだ時間も早いし、俺の家寄ってもらえるかもしれない。
一緒に飯食ったりも出来るかもしれない。
後輩とゲームのあと友達と一緒に遊べるとか絶対楽しいだろ。
え、それってめちゃくちゃフツーの男子高校生っぽくね?
そう気付いたらテンションが上がってくる。
「うん、分かった。てか最初から有坂も一緒に三人で遊べばよくね?」
みんなで遊んだらもっと楽しいだろ。
そこに気付くとはやはり俺は天才か。
俺の提案はなぜか通らなかった。
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