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「…あれ。ここどこだ」
むくりと身体を起こす。
真っ暗な部屋の中できょろきょろとしていたが、少し経ってようやく状況が呑み込めてきた。
ここは有坂の部屋で、ベッドの上でしっかり布団をかけられているところを見るとどうやら俺は爆睡していたらしい。
有坂はいない。
いや、いないと思ったらいた。
俺にベッドを譲って、自分はカーペットの上でタオルケット一枚かけて寝ている。
カーテンの隙間から差し込む月明かりがその姿を照らしていて、寝起きでぼーっとしたままその姿を見つめる。
――あれは夢か。
いや、どう考えても有坂とやばいことしたよな。
どう考えても最後までされたよな。
思い返せばめちゃくちゃ恥ずかしい記憶がある。
しかも二回も連続でイッたせいで体が怠かったのと、大泣きしたせいもあって見事に爆睡したらしい。
有坂が寝てるところを見るとたぶん今は夜中で――ってことは俺泊まったのか。
なんで起こしてくれなかったんだ。
まさかの初めて友達の家に遊びに来ていきなりお泊りのコンボとか、いつもならめちゃくちゃテンション上がる展開だ。
枕投げしたりトランプしたり、寝る前は怖い話で盛り上がったりとかしたい展開だ。
だけど今はちょっと事情が違う。
そっとベッドから降りると、起こさないように有坂に近寄る。
スーッと静かな寝息を立てているその顔を、まじまじと覗き込んだ。
いつも不機嫌そうな切れ長の目は閉じていて、綺麗な寝顔がそこにある。
その姿はどっからどう見ても男で、俺よりずっと体格もいい。
有坂は俺の初めての友達で、親友で、特別な人だ。
勘違いはあったけど今はちゃんとお互い理解していて、文化祭の時にずっと友達でいるって約束もしたばかりだ。
だけどヤバイ関係になってしまった。
有坂に可愛がられていっぱいキスされまくって、めちゃくちゃドキドキした挙句あっさりとイかされてしまった。
しかも二回とも5分と我慢できなくて、ちょっとムカつく事に驚いた顔までされた。
俺の悩みその8がまさかの早漏とか知りたくなかったが、とりあえずそこは初めてだったってことで自分の中で言い訳をしておく。
静かに寝息を立てるその顔を、じっと眺める。
いつもすぐいなくなっちゃうから、こんな風にそばで見ていられるのは貴重だ。
見つめていると、心臓がドキドキしてくる。
あれ、よく見ると有坂ってめちゃくちゃカッコいいかもしれない。
もしかしたら、ありえないことに俺よりカッコいいのかもしれない。
「…起きたなら声を掛けてもらえるか」
「――わっ」
ずっとガン見してたら、不意に有坂が目を開けてビクッと心臓が跳ねた。
いつ起きたんだ。
「…み、見入ってた」
「見入る?」
有坂は不思議そうに眉を寄せたが、すぐに身体を起こす。
目を覚ますように額に手を当ててゆるく頭を振ってから、俺に視線を向けた。
月明かりだけの室内で、有坂と近い距離で目が合う。
あんな事されたのもあって、なんか気まずい。
「…あ、有坂の方こそなんで起こしてくれなかったんだよ」
「声は掛けた。だがしっかり寝込んでいて起きなかったし、あまり強く起こすのは気が引けた。結城の家には連絡してあるから安心してくれ」
「え、マジで」
「夏休み前に結城の親へ挨拶に行っただろう。その時に結城を預かるということで、連絡先の交換をしておいた」
いつの間に。
安定の律義さだ。
「泊まるために最低限必要なものは揃っていると思うが、何か欲しいものがあったら言ってくれ」
「あ…うん。まあ一日くらいだしそれは平気だけど――」
言いながら顔が熱くなってくる。
思わず視線を逸らして顔を俯かせた。
やばい。
有坂にあんなことされたと思うと、どうしても意識しまくってしまう。
いや意識すんなって方が無理だろ。
「…俺が怖いか?」
不意に落ちてきた言葉にドキリとする。
有坂がどういうつもりでその言葉を言ったのかは分かる。
やっぱりアレは夢じゃなかったのか。
「こ、怖くない」
「もう何かするつもりはない。俺が側にいて不安なら出ていくから安心してくれ。冷蔵庫に飯は入ってるし、部屋にシャワーもある。鍵は学校で返してくれればいい」
そう言って有坂は立ち上がる。
鍵を机の上に置いてあっさりと部屋を出ていこうとしたから、ハッとして顔を上げた。
「ま、待てって。怖くないって言ってんだろ」
「無理をするな。友人だと思っていた相手にあんなことをされれば、誰でも恐怖を覚える」
「だから無理なんかしてねーって…それに部屋出たら有坂はどこで寝るんだよ」
「寮長の部屋で世話になる。普段から交流を持っているし、事情を話せば一日くらい問題はないだろう」
「――は?絶対に嫌だ」
有坂の言葉にカッとしてそのシャツを掴む。
俺にあんなことしたのに、俺以外の奴と仲良くなんかすんな。
有坂が他の奴と楽しくお泊り会するのかと思うと、めちゃくちゃ腹が立つ。
そんなことは絶対にさせねえ。
「…あんな事をされてもまだ、結城は俺を友人として側に置きたいのか」
「あ、あれは…その…っ、少しは…ビビったけど…」
「少し?泣いていただろう」
そこを指摘されて、ぶわっと顔に血が上る。
そりゃいつもと違う有坂の様子にかなりビビって大泣きした自覚はある。
まさかエロ本見るより凄いことされるとは思わなかった。
「そ、そりゃあんなこと人にされたの初めてだし…フツーに考えてビビるに決まってんだろ。し、しかも最後までされたし――」
「最後まではしていない」
「えっ」
「え?」
お互いに顔を見合わせる。
いやしたよな。
絶対したよな。
二回も最後までしたよな。
お互い一度見つめあったが、少しして有坂が息を吐きだした。
「結城が望むことはなんでもしてやるつもりだ。それだけのことをしてしまった自覚はある。結城が俺に不信感を抱いたのなら正直に言ってくれて構わない」
「お、俺は有坂がいないと嫌なんだ。有坂がいなくなるくらいなら、何されてもいい」
「…っ結城、それは――」
俺の言葉に有坂が息を詰まらせる。
自分が今ヤバイ事を言った自覚はあるが、それでも有坂を掴む手が離せない。
俺が一番怖いのは、どうしても有坂が俺の側からいなくなることだ。
それだけは何があっても絶対に嫌だ。
想像したら足が竦むような恐怖に、ギュッと目の前の服を掴む手を強める。
すぐに有坂の手が俺に伸びてきたが、それは頬に触れる寸でのところで、何か気づいたように下ろされていった。
「…分かった。結城がそう言うのならどこにもいかない」
「本当か?起きたらいなくなってたりとかすんなよ」
「ああ」
そう聞いて、ようやく掴んでいたシャツを離す。
もちろん今回のことで、有坂に対して思うことはある。
だけど今は有坂がそれを気にして、俺からいなくなろうとする方が嫌だ。
再びベッドに戻ると、有坂が布団をかけてくれる。
そのまま自分はまた下で寝ようとしたから、その服を引っ張った。
「お前下で寝んの?一緒にベッド使えばよくね」
「いや、さすがにそれは出来ない」
「別に詰めればもう一人くらい寝れるだろ」
床とか身体痛そうだし。
この俺が優しさでそう言ってやってんのに、有坂はじとっと俺に目を細める。
え、なんで。
「頼むからもう煽らないで貰えるか」
そう言った黒い瞳が僅かに熱を含んだから、慌てて俺は布団に潜り込む。
有坂のスイッチがどこで入るのかマジで分からん。
布団越しに、そっと有坂の手が落ちてくる。
寝かしつけるように何度かポンポンと優しく叩かれて、さっきまでどことなく強張っていた気持ちが緩んでいく。
「…俺に対する結城の気持ちはちゃんと分かっているつもりだ。今日は怖がらせてしまってすまなかった」
「う、うん。大丈夫」
布団の中でそう返すと、有坂は少ししてベッド下に横になったみたいだった。
しばらくして規則正しい寝息が聞こえてくる。
思わず布団から手を伸ばして、タオルケットを引っ張った。
「有坂、先に寝たらやだ。寂しい」
その言葉ですぐに目を開けた有坂が、何か言いたげに俺を見つめる。
一緒にいるのに先に寝られたら、どう考えたってつまんないだろ。
それに2回も抜いたのと爆睡したのもあって、俺の頭は今めちゃくちゃスッキリクリアだ。
有坂は一度もどかしそうな顔を俺に向けたが、すぐにくしゃりと自分の髪をかくと大きくため息を吐いた。
一体何なんだ。
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