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朝起きたら有坂はいなかった。
右も左もベッドの下まで見たけど、有坂はいない。
いなくなるなって言ったのに。
テーブルの上には洗濯してくれたらしい俺のワイシャツと、新品の下着やら歯ブラシが置いてある。
それで自分の恰好を見てみれば大きめのTシャツにハーパンを身に着けていて、もしかしてこれ有坂のか。
昨日は全然気づかなかったけど、いつのまに着替えさせられたんだ。
とりあえずシャワーを浴びていたら、ガチャっと音がした。
いなくなったと思ったのに、有坂が部屋に戻ってきたらしい。
一気にぶわっと気持ちがこみ上げる。
「おいっ、どこ行ってたんだよ。もう俺の前から一生黙っていなくなるなっ」
「――っちょ、待て。そのまま出てくるな」
「えっ」
言われて気付けばボタボタと床に落ちる水滴に気付く。
全裸のまま飛び出していたが、珍しく有坂が慌てたように俺の背を押して再び浴室に戻された。
とりあえず急いで身体を拭いて服を着てから外に出ると、床は綺麗に掃除されていて部屋から焼き立てのパンの香りが漂ってくる。
有坂が朝飯の用意をしてくれているらしい。
「なあ、どこ行ってたんだよ」
声を掛けると、有坂は俺の姿を見てどことなくホッとしたように肩を落とした。
昨日俺の裸を見る以上のことしたくせに、なんなら着替えだってさせたくせに今更なんだ。
「すまない。走り込みに行っていた」
言いながらテーブルに座ってろと促されたが、構わず有坂の隣に立ち並ぶ。
包丁を持ってる有坂がどうやらこれからサラダを作ってくれようとレタスと睨めっこしているが、有坂って料理したことないんじゃなかったか。
たぶん俺のためにしてくれようとしてるっぽいが、最近料理も天才となった俺は素人の料理なんて期待してない。
「俺がやる。どいて」
そう言って有坂を押しのける。
学生寮のキッチンだからめちゃくちゃ狭くて、俺の家とは全然勝手が違う。
でも最低限ついている設備はあるし、やることは同じだ。
買ってきてくれたらしい食材を見て簡単にサラダとバター仕立てのスクランブルエッグ、それにオニオンスープと焼けたパンはホットサンドにして、それからウインナーやら余った食材で弁当を作ってやる。
その間にシャワーを浴びてきた有坂が戻ってきて、テーブルに並べた朝食と弁当箱を見て、至極驚いた顔で見つめられた。
「結城はすごいな」
シンプルな褒め言葉だが、有坂は嘘をつかない。
朝から有坂に褒めてもらえたことに上機嫌になりながらテーブルに座る。
用意した朝食に向かい合って座ると、なんだか新鮮で不思議な気持ちだ。
「な、有坂はパンのバターは多めか?それとも少なめ?卵は醤油かけるのか?サラダのドレッシングはどうする?走り込みは毎日行ってるのか?」
なんだこれ。
朝からめちゃくちゃ楽しい。
有坂の家でお泊り会をして、朝ご飯を一緒に食べて、これから二人で学校に登校出来るんだ。
こんなの初めてすぎて、表情がたまらなく緩んでしまう。
「…機嫌良さそうだな」
「え?いいよ」
「そうか」
何の確認だ。
有坂はスープに口を付けてから、どことなく安心したように俺を見つめた。
「…パンには何もつけない。卵も醤油はかけない。ドレッシングもいらない。走り込みは毎日行っている」
マジかよ。
全部回答返ってきたぞ。
どうしたんだ今日は。
というか何もいらない派すぎんだろ。
ご飯を食べ終わったら有坂が全部食器を洗ってくれて、着替えをしていたら掛け違えていた俺のシャツのボタンを留め直して、制服のネクタイまで締めてくれる。
ネクタイを結んでもらいながら、近い位置にいる有坂を見上げる。
結局昨日の夜は俺が寝るまで有坂は起きていてくれた。
といっても有坂に子供の頃の話をしてくれってせがんで、それを聞き始めた5秒後には寝てた。
それでも俺に付き合ってくれた優しさが嬉しい。
ふふ、と表情を緩めて有坂を見つめると、有坂も俺の表情に気付いて柔らかく目を細めてくれる。
伸びてきた手がいつもみたいに優しく俺の頬を撫でて――と思ったが、ふと何かに気付いたようにその手は目の前で止まった。
それから俺に触れることなく、手は引っ込められていく。
てっきり触られるのかと思ったけど、触られなかった。
あれ?と思ったけど、鞄を渡されて部屋を出ることを促されれば大人しくそれに従う。
「あれ、マッスー朝帰り?昨日はお楽しみっすかー?」
二人で寮の下まで降りてくると、学食から出てきたハルヤンと鉢合せしてにんまり顔を向けられた。
ムカつく顔だが、有坂が側にいてさえくれれば俺は大抵のことは機嫌よく返してやれる。
「うん、そうなんだ」
「いや全然意味分かってないよね」
せっかく笑顔で返してやったのに、ハルヤンになぜかツッコまれた。
首を捻っていると、有坂に早く行けと背中を押される。
去り際に有坂がちらりとハルヤンに視線を向けた。
「別にそう間違ってはいない」
「――えっ、マジで」
背後で淡々とした有坂の言葉と、なんか驚いたようなハルヤンの声が聞こえた気がした。
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