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二時間ぴったりで有坂から電話が来た。
遅くなって有坂に送ってもらう作戦もちょっと考えたけど、さすがにテスト前だしそこは遠慮しておくことにする。
『送らなくて本当にいいのか』
「うん。勉強してるんだろ。明るいし一人で帰れる」
『…そうか。気を付けて帰ってくれ』
「ご安心を。僕がしっかりと送り届けますので」
俺の隣で水瀬が有坂にまで聞こえるような声で言って、ニッコリと笑う。
人の通話勝手に聞いてんじゃねえ。
コイツらなんか仲悪いし、また有坂が不機嫌になったらどうすんだ。
『…結城の好きなようにすればいい』
だが少しの間の後、電話口から有坂の声が聞こえてきた。
――やっぱりおかしい。
なんかやっぱりいつもと違う気がする。
モヤモヤする気持ちがあるけど、でも何を有坂に聞いたらいいのかも分からない。
あっさりと電話は終わってしまって、何も引き留めることも出来ずに電話を切る。
結局その日は水瀬と一緒に部室を出て、ついでに帰りにちょっとゲーセンに寄った。
別ゲーだから二時間条約もきっと別のはずだ。
それから家まで送ってもらって、たくさん連絡しますと名残惜しげに言われて別れた。
そして翌日から、中間テストが始まる。
テスト自体は天才の俺には物足りないくらいで、安定の問題ナシだ。
答案用紙の回収が終わったら、すぐに有坂に視線を向ける。
「なあ有坂、今日も野球部と寮で勉強すんのか?」
「その予定だ」
「…そっか」
まあどうせそうだと思ってた。
俺とテストと野球部とどれが一番どれくらいの差で大事なのか有坂に問い詰めまくりたいが、ぐっとそれは堪える。
有坂を不機嫌にはさせたくない。
「どこか行きたいのか?付き合おうか」
「えっ」
不意に有坂に言われた言葉に驚く。
ぶわっと顔が熱くなって、一気に気持ちが浮き上がる。
だけどハッと気付く。
有坂は元々他の奴と約束してたわけだし、それを破棄して俺に付き合ったりするのはあんまり好きじゃないんじゃないか。
律義な奴だし、なんか無理してるんじゃないか。
有坂には絶対に嫌われたくない。
「…いや、大丈夫。予定あんならそっち優先してくれればいいよ」
「そうか」
そう言うと有坂は鞄を持ち上げる。
あっさりと俺に背を向けたから、一気に寂しくなる。
嫌だ。
有坂が行ってしまう。
なんで断っちゃったんだろうってめちゃくちゃ後悔してくる。
別に他の奴との約束なんてどうでもいいだろ。
有坂には俺だけいればいいはずだ。
「――あ、有坂っ」
背を向けた有坂の服を、思わず引っ張る。
けど言葉とは逆に有坂を引き留める手は思いのほか消極的で、ほんのちょっと服をつまんだ程度だ。
有坂は気付いたようにその手を見つめてから、俺へと視線を向ける。
目が合ったら、心臓がめちゃくちゃドキドキしてくる。
「…どうした?」
優しい声が落ちてきて、胸がギュッと詰まる。
もっと甘やかしてほしい。
一緒にいたい。
いっぱい触ってほしい。
でも有坂は、今日も一度も俺に触ってはくれない。
「と、途中まで一緒に帰りたい」
途中までって言っても学生寮と駅は真逆の方向だ。
せいぜい校門くらいまでだけど、それでもまだ有坂と一緒にいたい。
「分かった」
有坂はなんの躊躇もなくそう言って、俺が帰り支度をするのを待ってくれる。
急いで鞄に物を投げ込んでチャックが閉まらずガチャガチャしてたら、そっと横から手を伸ばして鞄を整理して閉めてくれる。
有坂はやっぱり優しい。
それから並んで廊下を歩いて、昇降口まで降りてくる。
靴を履き替えたら、校門までなんてあっという間だ。
まだ離れたくない。
「…え、駅まで送ってくれ」
「分かった」
有坂は文句一つ言うこともなく、今度は駅まで歩き始める。
なんでそんなスタスタ歩くんだ。
そんな競歩選手ばりの歩き方したらすぐ着いちゃうだろーが。
何をするでもなくさっくりと駅まで着くと、有坂が俺を見下ろす。
「ここまででいいのか」
「う、うん」
どうしよう。
まだ全然物足りない。
本当は家まで送ってもらって、なんならうちでご飯も食べて、なんなら泊まって行って、なんならもうずっと一緒にいたい。
「それじゃ、また明日」
だけど有坂はあっさりそう言って、また俺に背を向ける。
やっぱり俺には何一つ触ってくれない。
「――あ、有坂」
その背中に声を掛ける。
有坂がもう一度振り向いて俺を見下ろす。
視線が合うと、心臓がビクリと驚いたみたいに跳ねた。
「…な、なんか変だ」
ぽつりと言葉を落とす。
有坂は俺の様子に気付いて、僅かに眉を顰める。
「どうした。何かあるなら言ってくれ」
そう言って俺の顔を覗き込む。
有坂は優しい。
ちゃんと俺を気にしてくれてるし、駅までも送ってくれた。
だけど、全然俺は満足してない。
有坂が側にいるのに、もうずっと物足りなくてたまらない。
「――あ、有坂おかしい。絶対いつもと違うっ」
ようやくそう言ったら、有坂が少し驚いたように目を瞬いた。
やっと言えた。
心臓がドキドキして、見つめられる視線に息が苦しくなる。
無性に視線を合わせるのが恥ずかしくなって、思わず顔を俯かせた。
頭の先までぼーっとするような熱が上っていく。
有坂に見られていることが、めちゃくちゃ落ち着かなくなる。
なんだこれ。
頭の上でじっと俺を見つめる有坂の視線を感じる。
少しして有坂は口を開いた。
「いつもと様子が違うのは俺じゃない。結城の方だ」
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