アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
----side有坂『友人としての在り方』
-
『――だって俺達さ、友達だよな?』
『俺の事好きな奴に興味ねーもん』
『俺は有坂に友達でいてほしい。有坂が俺を好きになったら…特別じゃなくなる』
『やだ、無理…っ。…ごめんなさい、ごめんなさい――』
これで一体何度目だ。
何度俺は結城に断られたんだろう。
結城の気持ちが俺にないことは、もう頭では分かっている。
だがもしかしたらと、結城の言葉や態度で今度こそ可能性があるのではないかといつも錯覚してしまう。
そしてその度に結城が友人以上の関係を望んでいない事を突き付けられ、行き場のない感情を持て余す。
もう何度これを繰り返したか分からない。
俺も存外諦めの悪い男だなと自分でも思う。
「有坂っ、今日の弁当はすごいぞ。一生懸命有坂のことを考えて作ったんだ」
「そうか」
数日のテスト期間を終えて、通常授業が戻ってくる。
最近料理がすっかり楽しくなっているらしい結城は、見る度にその腕を上げている気がする。
自炊はせず毎日の食事をほぼ学食か寮の食堂で済ましている俺にとって、手作り弁当はありがたい。
もちろん食堂の料理もきちんと栄養管理されているし馬鹿に出来るものではないが、それでも俺のために作ったと言ってくれる結城の料理に勝るものはない。
パカッと弁当箱の蓋を開けると、大きなハートマークを形取ったそぼろ弁当が詰め込まれていた。
グッと心臓が掴まれる。
ダメだ、誤解をしてはいけない。
きっとこれは純粋に友人としての愛情を意味している。
「な、美味しいか?美味しいだろ?何が一番好き?昨日の弁当と今日の弁当どっちがどのくらい好き?」
一緒に同じ弁当を食いながら、結城がニコニコと俺に微笑む。
キラキラとした青い瞳を向けられると、どうしようもなく心が緩んでしまう。
いつ見ても純粋で淀みのない瞳は、俺の心を惹きつけてはやまない。
「今日も可愛いな」
自然と言葉が口をついて出る。
結城は少し驚いたように目を瞬いた後、どことなく戸惑ったように視線を逸らした。
ああ、しまった。
今のは友人にかける言葉ではなかったか。
結城の行動の一つ一つは非常に誤解しやすくもあるが、同時に酷く愛らしいとも思ってしまう。
同じ歳で性別も同じ筈だが、無性に庇護欲を駆り立てられる。
だが行き過ぎてはいけない。
俺のために料理をしてくれたり、時に寂しいと抱きついてきたり、一緒にいたいと喚かれ可愛がって欲しいと強請る。
その全ての行動はアイツにとって初めて出来た友人を大切にしたい一心であり、決して俺に恋愛的な好意を寄せているわけではない。
誤解をして行き過ぎた行動を取り、二度も結城を泣かせたことを俺は絶対に忘れてはいけない。
「有坂くん、テストどうだった?」
さらりとした長い黒髪が視界に入る。
部活の途中だったが、朝宮に声を掛けられた。
どうやらこれから帰るところらしい。
「少しミスもあったが、自己採点では悪くない。朝宮はどうだった」
「私もそこそこ出来たかなぁ。数学は有坂君が教えてくれたところが出たから、ほんと助かっちゃった」
「たまたまだ。こちらこそ野球部の勉強を見てくれて助かった」
「ふふ、じゃあお互い様だね」
花開くような笑顔が向けられる。
ふわりと風が凪いで、色づいた銀杏の葉が朝宮の髪に舞い落ちる。
ついこの間夏休みを終えたと思ったが、気付けば文化祭が過ぎ二学期の中間テストも終わる。
木々は淡く色付き葉が落ち始め、季節はすっかり秋だ。
「――わ、ありがと」
朝宮の髪に落ちた葉を取ってやると、どことなく戸惑ったように視線を逸らされた。
なぜだかその姿に、今日の昼休みでの結城を思い出す。
自業自得かもしれないが、最近結城に視線を逸らされることが多い気がする。
「…あれ、もしかして有坂くん何か考え事してる?」
言いながら朝宮が背伸びをして、俺の眉間を人差し指で押す。
突然のことに少し驚いたが、朝宮は気にした様子もなくクスクスと笑った。
「有坂くんって言葉には出さないけど、考え事してるの分かりやすいよね。ここにねー、ギュって皺が寄ってすごく難しい顔するでしょ」
「…それは知らなかった」
「もし悩みがあるなら相談してね。有坂くんみたいなタイプって人の事ばっかりで、自分のことは溜め込みそうだし」
何でもないように朝宮はそう言ってみせたが、よく周りのことを見ているなと感心する。
文化祭以降朝宮とは度々言葉を交わしているが、やはり女性というのは考え方がしっかりしている。
だが結城に関しては人に相談するものではない。
いや、相談以前に答えは最初から出ている。
俺の諦めが悪いだけだ。
「いや、なんでもない。ただ少し…テストが終わって疲れただけかもしれないな」
そう言って会話を濁す。
友人でいると決めたが、やはりどうあっても結城が好きだ。
気を抜いたら手を伸ばして酷く求めてしまいそうで、もしそれをしても結城は俺を受け入れてくれるだろう。
アイツはずっと一人きりだったことから、友人への感覚がおかしくなっている。
俺が行き過ぎた行動をしても、怯えはしたが離れてはいかない。
好きでない相手に何かされるよりも、知ってしまった友人関係を失うことの方がずっと怖いと思っているからだ。
――苦しい。
自分で決めたことだが、好きな相手と友人で居続けることは想像以上に苦しい。
側にいられることは幸せでもあるが、時に残酷でもある。
「…ね、じゃあ気晴らしに遊びにいかない?」
「え?」
「もう野球部の大会はしばらく無いんだよね?…っあ、えっと何も二人ってわけじゃなくてね、ちょうどクラスの仲良しメンバーで遊ぼうって話が出てて――」
珍しく朝宮は少し早口で捲し立てる。
おそらく俺の言葉で気遣ってくれているのだろうが、ふと気づく。
そういえば結城も遊びに行きたいと言っていたし、クラスメイトとの友人関係を広げてやるにはいい機会かもしれない。
ゲーム研究会でも言えることだが、交友関係が広がれば自ずと結城も正しい友人関係の在り方が見えてくるはずだ。
「結城も誘っていいか」
「――えっ、ゆ、結城君!?ど、どうだろ。みんなに聞いてみないと…」
「頼む。聞いてくれ」
じっとその顔を覗き込んで告げる。
どことなく焦ったように朝宮は視線を彷徨わせたが、おずおずと頷いてくれた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
93 / 275