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「…薄くなってる」
風呂から出て、鏡の前でじっと首元を見つめる。
有坂に二度も付けられたキスマークはしばらくそこにあるのが当たり前になってたが、日に日にその色が薄くなっていく。
そっと手を伸ばしてさらりと首筋を撫でてみたが、もうあの時の感触は覚えてない。
なんだか有坂との繋がりまで薄れていっているような気がしてくる。
毎日顔は合わせているし、一緒にご飯も食べてる。
ヤバイ事もした関係だし、有坂の中で俺は絶対特別なはずだ。
だけど朝宮さんとイチャついてた。
ここのところ俺には全然触らないのに、朝宮さんには触ってた。
今日の放課後の光景を思い出すと、どうしようもなく気持ちが落ち着かない。
「あれ、珍しいじゃん。友達出来た?」
風呂から出てソファでスマホを弄ってたら、アサ兄が俺の隣に座る。
テレビのリモコンでチャンネル変えてるところを見ると、毎週飽きずに見てるドラマがやるらしい。
「友達っつーか、後輩だけど」
「へー。マスもちゃんと先輩やってるんだ」
「まーな。すげー尊敬されてるし」
フンと鼻を鳴らして言ってやったら、凄い凄いと頭を撫でられる。
まあ当然の反応だ。
水瀬にはしばらく会ってないが、宣言通りちょいちょいメッセは届く。
撮影は忙しいみたいだが、写真付きで送られてくるところを見ると自分で言うだけあって確かにマメだ。
内容は大体新作ゲームとかアニメの話とかが多いが、たまに撮影の様子とか美味そうな飯とかファンが見たら大喜びしそうな画像も送ってきたりする。
「水瀬涼也って最近よくテレビ出てるけどさ、相当遊んでそうだよね」
「ゲームで?」
「…いや女でしょ。なんでそこでゲームが出てくるかな」
そう言われても。
テレビを見ればドS幼馴染役らしい水瀬が、ヒロイン役の女の子に顎クイしている。
こうやって見ると普段の賢者エトワールとはマジで別人だ。
一個下とは思えないほど大人びた表情と、落ち着いた物腰。
というかドラマの役のせいで世間に変な先入観持たれてんぞ。
とりあえずめんどくさそうだから、アサ兄には水瀬と交流がある事は言わないでおく。
ぼんやりとソファにもたれ掛かりながら水瀬に返事を返す。
有坂からもこれくらい連絡があればいいのに。
俺は朝起きたら『おはよう』って送って家着いたら無事に帰ったことを報告して、夜寝る前にも『おやすみ』って毎日送ってる。
その他楽しいことがあればその都度送るし、休みの日にも今何してるか聞くし、声が聞きたくなって電話しようかどうかスマホ見ながら迷ったりする。
でも有坂は返事クソ遅いうえにいつも一言だけで、しかも向こうから送ってきてくれたことは一度もない。
そう思ったらまたしても気持ちが凹む。
何もやる気がおきなくなってぐったりとソファで目を閉じると、具合が悪いんじゃないかと母親とアサ兄に心配された。
鬱陶しいと追い払ってたら、俺のスマホが音を立てる。
どうせ水瀬だろと思ったけど、いや待て。音が違う。
この着信音はそう――有坂だ。
一瞬で心が復活してガバッと飛び起きると、すぐに電話に出る。
誰にも邪魔されたくなくてそのまま立ち上がると、急いで自分の部屋へと向かった。
『結城か。夜分遅くにすまない』
すぐ耳元に、落ち着いた低温ボイスが聞こえてくる。
心臓が大きく跳ねて、頭の芯がカッと熱くなる。
みるみるうちにさっきまでとは世界が変わっていくような、部屋のどこかに置いたはずなのにどこ探しても全然見つからなかったゲームキャラの超激レアカードが、ある日突然見つかった時みたいな感覚。
有坂だ。
有坂が俺に電話を掛けてくれた。
「あ、有坂ぁ…」
堪らなく気持ちが込み上げる。
思わず甘えるようにその名前を呼んだら、有坂が息を詰めたのが分かった。
『…どうした?今は都合が悪かったか』
「わ、悪くない。超暇だった。一生話せる」
慌ててそう答えたら、クスリと電話の先で有坂が笑ったのが分かった。
笑ってくれた。
嬉しくなって自分も自然と表情が緩んでしまう。
さっきまで絶望しまくって心がぽっきり折れてたのに、有坂の声を聞いたら驚くほどテンションが上がっていく。
やっぱり俺には有坂がいないとダメなんだと、改めて実感してしまう。
『休日だが、良ければ出かけないか』
突然すぎる誘いに驚く。
まさか有坂から遊びの誘いがあるなんて思わなかった。
ぶわっとテンションが上がってベッドにダイブすると、ゴロゴロと寝転がる。
「行く。絶対行くっ。嬉しい。すげー嬉しいっ」
『そうか。まだ詳細は決まっていないが、クラスメイトもいる。少し賑やかな場所になると思うが苦手ではないか』
「――えっ」
返ってきた有坂の言葉に固まる。
ちょっと待て。
二人じゃないのかよ。
めちゃくちゃ上がってたテンションが一気に下がる。
「嫌だ。有坂と二人がいい」
はっきりとそう言う。
他の奴らはいらない。
せっかく有坂と休日に遊べるなら、二人で遊びたい。
『…すまないが約束をしてしまっている。結城が乗り気でないなら、無理はしなくていい。この話は無かったことにしてくれ』
そう言ってあっさり電話を切ろうとしたから、慌てて引き留める。
いやなんでそんな要件だけなんだよ。
業務連絡じゃねーんだよ。
「あ、有坂は俺が行かなくても行くのか?」
『ああ』
「どうしても行かないといけないのか?俺とその日二人で遊ぶのはダメなのか?」
『俺を気遣って誘ってくれた約束なんだ。…すまないが、結城とは他の日にまた時間を作る』
その言葉に気持ちがガクリと凹んで、悲しくなってしまう。
有坂は俺よりクラスメイトを取るのか。
俺を一番に優先してくれない奴なんて、本当にこの世で有坂だけだ。
だからこそ有坂と友達になれると最初は思ったけど、でも今になるとそれはすごく寂しいんじゃないか。
俺は有坂が一番なのに、有坂は俺が一番じゃないのか。
気持ちが落ち込んで、心が折れそうになる。
有坂は時間を作るって言っても忙しくて、いつもすぐには遊んでくれない。
というか暇な日があるなら今度から先に言え。
もう暇な日のシフトを俺に提出しろ。
「…賑やかな場所ってどこ。遊園地とか?」
『興味を持ったのか?結城がそこに行きたいと言うのなら、希望は伝えてみる』
「――えっ、マジで」
ちょっと待てよ。
てことはなんか邪魔な奴らはいるけど、有坂と遊園地に遊びに行けるのか。
めちゃくちゃ鬱陶しい奴らはいるけど、それでも有坂と遊園地に行けるなら絶対楽しくないか。
しかもよく考えてみれば遊園地なら人も多いし、着いたら人ごみに紛れて有坂を引っ張って二人で別行動してもいい。
それなら実質有坂と二人で遊びに行くのと一緒だ。
それに遊園地ってペアで遊ぶ乗り物多いし。
「やっぱり俺も行く」
『それは本当か。結城がそう言ってくれて良かった。これを機に友人が増えるといいな』
「うんっ。すげー楽しみにしてる」
再び上がったテンションで返事をすると、有坂はどことなく嬉しそうに『そうか』と返してくれた。
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