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さて、いつの間にか本決まりになってた当日。
午前中から駅で待ち合わせして、俺たちは遊園地へと向かう。
クラスメイトっていっても数人だろと思ってたら、男女合わせて10人以上はいた。
思ったより大人数だ。
「ま、まさか結城君が来てくれると思わなかったなぁ」
「雑誌見たけど、モデル始めるの?わ、私結城君なら絶対なれるって前から思ってた」
「え、私も思ってたよー。でもさ、芸能界入りとかなんか遠くなっちゃうみたいで寂しいなぁ」
遊園地へ向かいながら、口々に女子に話しかけられる。
この間の雑誌のせいで、会話の内容はもうずっとそれだ。
いつもそう話しかけてこないくせに、さすがに遊びに行くとなれば学校とは態度も違うらしい。
「別に芸能人になる気はねーけど」
「わっ、ほんと?これから忙しくなって会えなくなっちゃうのかと思ったぁ」
「そうなったら寂しいよねっ。結城君はみんなの王子様だし――」
たった一言口きいただけで、きゃいきゃいと大げさに囃し立てられる。
ちらりと有坂を見ると、全く俺なんか無視で他の男や朝宮さんと話している。
俺だって有坂と話したい。
でも朝から有坂にだけ話しかけてぴったり側にくっついてたら、せっかくだからほかの奴と会話してみろと突き放された。
もう帰りたい。
それでもなんとか遊園地に着けば、多少はテンションが上がる。
家族以外の奴とこんな大人数で遊びに行くことなんて初めてだ。
あ、中学の修学旅行で一応あったか。
それでも学校行事抜きにしたら、初めての経験だ。
遊園地は休日ということもあって、なかなかの賑わいだった。
入場して早速有坂を誘って色々回ろうと思ったところで、クラスメイトの一人が声を上げる。
「絶叫系苦手な子もいるみたいだし、昼飯まで二グループに分けて回ろうか」
「えっ」
「そうだね。じゃあ他は適当にジャンケンしよっか。とりあえず女子と男子で別れて――」
「えっ」
なんかよく分からんが勝手に色々と決まっていく。
なんでみんな打ち合わせもしてないのにそんな段取りがいいんだ。
そして言われるままにグループ分けした結果、なぜか俺と有坂は別グループに決まっていた。
ふざけんな。
そんなの認めねえ。
じゃあ行こうかとそれぞれが嬉々としてパンフレット片手に、別の方向へと歩き出す。
有坂も全く気にすることなく俺に背を向けたから、慌ててその服を後ろから掴んだ。
「お、おいっ。有坂」
「どうした?結城はあっちのグループだろう」
「そ、そうだけど。でも俺無理だ。有坂がいないと…」
絶対楽しめない。
楽しくない自信しかない。
有坂はめちゃくちゃ必死な形相の俺を見下ろして、ふわりと優しげに目を細める。
今日初めて向けられたその表情に、やっと俺の気持ちを分かってくれたのかとホッとする。
「心配するな。みんな良い奴だし、きっと話をすればすぐに仲良くなれる。春屋も水瀬もそうだっただろう」
ダメだ。
全然分かってねえ。
いつもだったら絶対俺が言えば「そうか」って真顔で言ってくれるのに、なんで今日に限ってそんなに俺を突き放そうとするんだ。
それに水瀬は後輩だしハルヤンは詐欺師だ。
少し話した程度で簡単に友達が出来るなら、俺はこの歳までぼっちに苦労してねーんだよ。
「有坂くん、行こう」
おまけに朝宮さんの声まで聞こえてきて、イラッとする。
ちゃっかり朝宮さんと有坂は同じグループだ。
もう絶対に嫌だと喚いてやりたいが、宥めるような有坂の視線が落ちてくる。
「まだ来たばかりだろう。時間もあるし、昼食は一緒に食べよう。それまでは楽しんでくれ」
そう言って有坂は無理だって言ってんのに、俺を置いて行ってしまった。
おかしいだろ。
有坂が俺を誘ったくせに、なんなんだよこの仕打ちは。
仕方なくグループ分けされた方の仲間に交じって、午前中を過ごす。
とはいえ午後まではすぐだし、飯を食ってからはさすがに有坂も俺と遊んでくれるはずだ。
「あのっ、結城くんですよね。わ、本物…っ。握手してくださいっ」
「えーっ、やばい。雑誌もイケメンだったけど実物はもっとイケメンなんだけど。顔ちっちゃいー」
「ゆ、結城君は何乗りたい?結城君の乗りたいものに乗ろう」
人が多いということは、それだけ俺に気付くやつも多い。
雑誌のせいで今はマジでタイミングが悪く、行く先々で声を掛けられるし握手を求められる。
おまけにグループの会話も俺に気を使ったものばかりだ。
だから有坂以外はつまんねーって言ったんだ。
昔からずっとこんな感じだった。
友達と遊んでもみんな俺に気遣うばかりで、全然楽しくなかった。
「あ、あの…私が結城君の隣でも大丈夫?」
「え?いいよ」
「あ…ありがと…」
そう言ってクラスメイトの女子が俺の隣におずおずと座る。
一緒に来てるのに隣に乗らないでどうすんだ。
俺に一人でジェットコースター乗せる気かよ。
せっかくの遊園地なのに楽しさ8割減で過ごして、ようやく昼になる。
俺の発した言葉なんて大してないのに、何が楽しかったんだか女子は俺の話題で盛り上がっている。
「結城君すごい大人っぽかったよ。平気な顔してジェットコースター乗ってたし、私苦手だったから終わった後フラフラしてたら背中擦ってくれてね」
「やば、イケメンすぎるー」
ただ単に吐かれたら困ると思っただけなんだが。
なんか勝手に美化した話をされてるが、そんなことより有坂だ。
もう一つのグループと合流したが、そこに有坂の姿はない。
「あれ、有坂は?」
「え?あ、有坂君は朝宮さんと…ちょっとね」
「ちょっとって何だよ」
グループの奴らに聞いてみたが、なんか顔を見合わせてみんなクスクスと笑っている。
この全く話に入れない感じはいつも通りだが、有坂の事ならそのままには出来ない。
電話をしてみようとしたら、慌てたように止められた。
「ゆ、結城君は知らないかもしれないけど…今日は実は朝宮さんに協力しようって話になってて――」
「協力?なんの」
そう聞いたら、しーっと他の女子が内緒話するような仕草を取る。
ワイワイと俺以外が楽しそうに話をしていて、何か示し合わせたようにほくそ笑んでいる。
有坂も朝宮さんもここにはいなくて、ということは二人でどこかに行ってるのか。
昼飯一緒に食おうっていったくせに、有坂はここにはいない。
――ズシリ、と気持ちが重くなる。
この様子を見れば、さすがに俺だってそれがどういう意味なのかは分かる。
朝からやたら有坂が俺に友達を作らせようとしてた意味もなんとなく分かってきた。
なんだろう。
ショックなことも心折れたと思うことも、悲しいことも世界滅亡みたいな気持ちも、有坂に出会っていっぱい知ってきた。
だけどこんな気持ちになったのは初めてだ。
どこにぶつければいいのか、どうしたらいいのかも分からない気持ちに、ただただ呆然としてしまう。
「…結城君、どうかした?」
ふと一人が俺に声を掛ける。
目が合うとその顔がぶわっと赤く染まって、戸惑ったように視線が逸らされる。
他人事みたいな気持ちでそれを見ながら、ふと気づく。
ああ、俺コイツの気持ち分かるかもしれない。
「…いや、なんでもないよ。なら俺達は別で楽しんでいようか」
そう言ってほんの少し表情を緩めて見せると、周りがハッとしたように俺の顔を見つめた。
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