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「少しは結城の気持ちを話してくれる気になったか?」
アイスを食べ終えたら、隣に座っていた有坂が俺の顔色を伺うように覗き込む。
有坂の気持ちが分からない。
俺に友達作らせて突き放そうとしたくせに、もう嫌だって喚いたらあっさりと一緒に遊んでくれた。
怖いことを言われると思って逃げようとしたけど、急かすことなく今は俺の言葉を待ってくれている。
「…俺は最初から有坂と一緒に遊びたかっただけだ」
視線を俯かせて、ぽつりと呟く。
さっきまで昼飯だって何食ったか覚えてないほどつまんなかったのに、有坂が遊んでくれた途端全部が楽しくなった。
有坂の選ぶアトラクションは俺が普段乗らないようなものばっかだったけど、それでも一緒なら全部楽しかった。
「他の奴はいらない。俺は有坂とだけ遊びたかったんだ」
有坂に俺だけ見ていてほしい。
他のやつと遊ばないでほしい。
朝宮さんのところに行かないでほしい。
「で、でも…」
慌てて言葉を紡ぐ。
それでも有坂が俺を突き放そうとしたことは分かってる。
必死に友達作らせようとしてるのも分かってる。
「そ、それで有坂に嫌われるのは嫌だ。有坂が他に友達を作れっていうなら…い、嫌だけど頑張る」
嫌わないでほしい。
有坂がいなくなったら俺はもう生きていけない。
有坂がいなかった頃の自分には、もう戻れない。
「だ、だから…俺の事捨てないで。いい子にしてるから…ほ、他の奴とも話すから…っ」
もうこれ以上、俺の事を突き放さないでほしい。
頼むから一緒にいてほしい。
言葉に出したら、心がグズグズになっていく。
もしかしたらまた怖いことを有坂に言われるのかと思ったら、心が酷く弱気になる。
いつも俺は何をするにも完璧で天才で自信に満ち溢れてるのに、有坂のことになるとなぜか自信がなくなっていく。
俺が愛されないわけないのに、有坂には愛される気がしなくなってくる。
それでもどうしても有坂と一緒にいたい。
嫌なことでも言う事聞くから、そばにいてほしい。
不意に有坂の手が伸びてきて、俺の頬を撫でる。
そのまま髪を梳かれて、後頭部に回った手にグイと力強く引き寄せられた。
額同士をコツリと合わせられて、すぐ近くで真っ黒な瞳が俺を見つめる。
「…堪らないな。そんなことを言われてはまた誤解をしたくなる」
すぐ唇が付きそうな距離で、有坂が言葉を紡ぐ。
酷く熱の籠った視線を向けられて、ドキリとした。
有坂はじっと食い入るように俺の瞳を見つめて、俺もぼーっと近い距離で有坂の瞳を見つめる。
最近前みたいに有坂が触れてくれないから、こんなに近い距離になるのは久しぶりだ。
「ご…誤解?」
熱くなった頭で呟くと、有坂はそれには何も答えず俺を離す。
有坂と触れ合った感触がまだ額に残っていて、心臓がドキドキと忙しなくなる。
「…結城は俺が突き放すために友人を作らせようとしていると思ったのか」
「え…ち、違うのか」
「違うに決まっているだろう。なぜそんな発想になるんだ」
「だ、だって今日一日朝宮さんとずっとイチャついてたし…二人で仲良く遊びにも行っただろ」
「昼の件は理由を話しただろう。それ以外はそこまで話をした記憶もないが」
有坂は理解出来ないと言うように眉を顰めたが、いや絶対イチャイチャしてただろ。
俺の目には一言でも話したらもう他の奴とイチャついたように映るんだよ。
俺以外と話した罪はめちゃくちゃ重いんだよ。
「そ、それにグループだって朝宮さんと一緒だっただろ。なんで俺と同じグループにならないんだよ」
「…それは別におかしなことじゃないが」
「え?」
聞き返したら、有坂はどこか気まずそうに視線を逸らす。
珍しくめちゃくちゃ言いづらそうな顔をするから、じとっと目を細めた。
「なんだよ。やっぱり朝宮さんと示し合わせたんだろ。絶対そうなんだろ」
「違う。そんなことはしていない」
「じゃあなんだよ」
疑いの目でじーっと有坂を見つめる。
有坂は珍しく歯切れの悪そうな顔をしたが、俺の様子を見て取ると観念したように息を吐きだした。
「正直あまり得意じゃないんだ」
「え?何が」
聞き返すと、有坂はスッと指を差し示す。
言われてその先を見てみれば、きゃーっと楽しげな黄色い声がして俺がさっき乗ろうって言っていたこの遊園地で一番長いジェットコースターがあった。
え、マジかよ。
もしかして有坂絶叫系苦手だったのか。
さっきまで俺が誘っても文句一つ言わず一緒にジェットコースター乗ってただろ。
最初から最後まで表情一つ変えないで、写真まで真顔だっただろ。
「最初に絶叫系が苦手な者と好きな者のグループ分けをしていただろう。覚えてないか」
「あ…そういえば」
そういやしたな。
俺は当然好きな方に入ったし、どっちでもいい奴は人数合わせとしてジャンケンで決めてたから、てっきりそれで朝宮さんと同じグループになったんだと思った。
「ぷ、マジかよ。全然見えねえ」
思わず笑ってしまう。
いやめちゃくちゃ意外過ぎんだろ。
というか有坂にも苦手なものがあったのが驚きだ。
意外過ぎる一面にクスクスと笑っていたら、有坂はどことなくバツの悪そうな顔をする。
が、俺の様子を見てクスリと表情を緩めた。
二人で少し笑いあったら、どことなく場の雰囲気も緩んでくる。
「他には何が不満だった」
「え?」
「全部教えてくれ。結城の気持ちが全て知りたい」
有坂の言葉に心臓がトクリと音を立てる。
やっぱり有坂は優しい。
ちゃんと俺の話を聞いてくれようとしている。
「と、友達作らせようとしたのも嫌だった」
「…そうか。それは俺が余計な事をしてしまったんだな」
「だ、だって無理に友達になっても意味ないだろ。ちゃんと話せる奴じゃないとうまくいかないし…」
「ああ、その通りだな。すまなかった」
有坂は優しくそう言って目を細めてくれる。
分かってくれた。
有坂の表情に堪らなくなって、そのまま焦るように口を開く。
「お、俺には有坂がいればいい。有坂だけいてくれればいいんだ。本当に有坂だけがよくて――」
「…分かった。もう分かった」
必死にそう伝える。
だからもう突き放さないでほしい。
ずっと一緒にいてほしい。
「結城には俺がいればいい。俺ももう余計な気は回さない」
その言葉に堪らなく心臓が跳ねあがる。
分かってくれた。
ちゃんと話したら、全部分かってくれた。
有坂が分かってくれたことに感動してたら、そっと手が伸びてくる。
今度は優しく髪を撫でられて、耳を愛し気にくすぐられた。
熱い指先と見つめられる視線にドキドキして、くらりと目が回る。
ぼーっと黒い瞳を見つめていたら、どうしようもなく気持ちを伝えたくなった。
言いたくて言いたくて堪らなくなって、俺の口から勝手に言葉が滑り落ちていく。
「――有坂、好きだ」
声に出したら驚くほど気持ちが溢れ出す。
もっともっと、たくさん伝えたくて堪らなくなる。
「好き。大好き」
有坂が驚いたように目を見開いたが、もう止まらなかった。
頭の芯が酷く熱くて、どうしようもない。
この『好き』が友達としての『好き』じゃないことは、ちゃんと分かってる。
それでも伝えたい気持ちは止まらない。
「有坂が、大好きだ」
――俺の悩みその9。
親友を好きになってしまった。
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