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「マッスー、今日バイト行く?」
放課後になって、久しぶりにゲー研行こうと廊下に出ると聞きなれた声が飛んできた。
ハルヤンだ。
普通に話しかけてきやがった。
相変わらずその背後には違う女がくっついてて、どう見ても新たな被害者だろ。
「行かねーよ。つーかもう俺に話しかけんな」
「はい?」
突き放すようにそう言って、ハルヤンを無視してゲー研の部室へ向かう。
前回みたいに俺がフツーにまた接してやるとでも思ってんのか。
あの時はまだそんなに話したこともなかったし、めちゃくちゃ腹立ったけど有坂のこともあって一応普通にしてやった。
でも最近はハルヤンと結構話をしていただけに、さすがにそんな気にはならない。
「なーにプリプリしてんの。ありちゃんと何かあった?」
後ろから呑気なハルヤンの声が飛んでくる。
なんで追いかけてくるんだ。
もうこんな奴顔も見たくねえ。
何よりハルヤンのせいで、俺と有坂の関係までまたおかしくなった。
昨日は送ってくれたけどあっさり帰っちゃったし、今日の昼休みだってどことなくぎこちない感じだった。
授業中もずっとガン見してたけど、全然こっちを見てくれない。
「うるせーな。ついてくんな」
「あれ、もしかして図星だった?」
ニシシとハルヤンが笑ったから、カッと頭に血が上る。
渡り廊下の真ん中で振り向くと、すぐ後ろにいたハルヤンの胸倉をガッと掴んだ。
「――全部お前のせいだっ。ハルヤンのせいで有坂とおかしくなっただろっ」
「…はぁ?」
ポカンとした顔が返ってくる。
ハルヤンは俺の行動に戸惑うこともなく、シャツを掴んでいた俺の手首を掴むとそのままグイと強い力で捻り上げる。
「――っい」
「いやありちゃんとの問題は全部自分のせいでしょ。八つ当たりとか鬱陶しいからやめようね」
ギリギリと手首を掴み上げられて、めちゃくちゃ痛い。
親にも兄弟にも他人にも生まれてこの方殴られたことも叩かれたこともないのに、人から初めて痛みを与えられて思わず涙目になる。
なんだコイツ。
絶対喧嘩慣れしてる。
詐欺師だから恨み買いまくってるせいか。
ハルヤンは俺の様子に気付くとすぐに手首を離したが、ビリビリと余韻の残る痛みに心が折れそうになる。
それでも昨日騙されたことを思い出せば、負けじとハルヤンを見返す。
「う、うるせえっ。また俺の事騙したくせに…っ、もうお前の顔なんか見たくねえっ」
「…騙した?」
勢いのままそう喚くと、ハルヤンは少し考えるように視線を持ち上げる。
が、すぐに思い至ったらしくバツの悪そうな表情に変わった。
「あー…もしかしてバレちゃった?いや田中君がどうしても写真欲しいって言うからさー。でも千円しかもらってないしまだ3枚しか売ってないからさ」
「おいなんだそれは」
なんか違う犯行が発覚してんじゃねーか。
写真なんかしょっちゅう取られてるし、そんな些細な犯行はどうでもいい。
こっちはマジギレしてんのに、ハルヤンは至って呑気な顔で俺に両手を合わせて「ごめんね?」とウインクして見せる。
どう見ても一目瞭然な温度差に、気持ちがスッと冷えていく。
ハルヤンにとって俺を騙すことは別になんでもない事で、俺の気持ちなんかどうでもいいってことか。
自分が昨日俺に何したのかも覚えてないくらい、俺の事はなんとも思ってないってことか。
「…昨日バイト先にスカウトマンけしかけただろ」
「はぁ?」
「名刺にハルプロって入ってたし、あいつらもハルヤンの紹介だって言ってたし――」
言いながらめちゃくちゃムカつくのに、なぜだか悲しくなってくる。
騙されたこともムカつくけど、それ以上に少しでもハルヤンを良い奴かもしれないと思った自分が嫌になる。
もしかしたらハルヤンは俺の『友達』なんじゃないかって、ほんの少しでも期待してしまった自分がめちゃくちゃ馬鹿みたいに思えてくる。
俺は詐欺師に一体何を期待してたんだ。
ハルヤンは俺の事を騙すために一緒にいただけなのに、有坂相談したりハルヤンの話を聞いたり、一緒にバイトで働いたりしたことを少しでも楽しいと思ってしまった自分が、めちゃくちゃ嫌で堪らなくなる。
「全部嘘だったのかよっ。有坂相談聞いてくれたのも、俺をバイトに誘ったのも…っ」
こんな風に前は怒らなかったのに、止まらない。
もう二度と顔も見たくないし話もしたくないと思ってるのに、それでも言わずにいられない。
だけどこんなことを言ったって、ハルヤンはどうせなんとも思わないんだろう。
ハルヤンは少し驚いたように俺を見つめていたが、不意に何かに気付いたように視線を伏せる。
「…そういうことか。あいつら――」
何か呟いてから、その視線がどことなく鋭くなる。
珍しく怒ったような表情にビクリとしたが、ハルヤンは一度首を擦ると再び俺に向き直った。
「あー、もう分かった分かった。これだからメンヘラの相手はめんどくせーわ」
「――はぁ!?」
唐突に言われた言葉に再びカッと怒りが沸きあがる。
今コイツこの俺をめんどくせーって言ったのか。
「すこーし優しくするとすぐ本気にして懐くからさ。まあそのおかげで結構稼げたけど」
――コイツマジで最低だ。
分かっていたけど、やっぱり最低だ。
最低の最低野郎だ。
愕然とした気持ちでハルヤンを見つめていると、ハルヤンはまるで自分に言い寄ってきたメンヘラ女子に向けるような視線を俺に向ける。
それは今まで向けられていた表情とは全く違う、知らない他人に向けるような酷く冷たい視線だった。
「もう関わらないから安心してよ。あ、バイトも意味ないからもう来なくていいよ。マスターには俺が適当に言っておくし」
「…っおい、ハルヤン」
見たことのない表情になぜだか不安になってその名前を呼ぶと、ハルヤンは不意に俺の頭をポンと叩く。
そのままなぜかくしゃりと撫でられた。
「…ありちゃんにいっぱい慰めてもらってね」
そう言ってハルヤンは俺に背を向けた。
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