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ゲー研に行く予定だったけど、そんな気分にならずに帰ることにした。
ハルヤンに散々酷い事言われた。
アイツが最低なのは分かってたことだけど、面倒だとかメンヘラだとかありもしない暴言まで吐かれた。
最終的に有坂にいっぱい慰めて貰えって言われたけど、有坂が俺の事を慰めてくれるのか今は自信がない。
昨日だってなぜかハルヤンの事庇ったし、ちょっと前までいっぱい可愛がってくれたのにまた微妙な雰囲気になってしまった。
俯きながら靴を履き替えて、昇降口を出る。
最近ちょっとずつ寒くなってきて、陽が落ちるのも早くなった。
そういえばここのところは誰かしらが俺を家まで送ってくれたから、ずっと一人では帰ってない。
ゲー研行けば水瀬がいるし、遅くなったら必ず有坂が送ってくれる。
ハルヤンもバイトが終わる度に、なぜか家まで送ってくれてた。
あれも全部詐欺するために面倒だと思いながら送ってたのかと思えば、また微妙な気持ちになってくる。
ダメだ。
もう今日は早く帰ろう。
足元の落ち葉を見つめながら校門までの道を歩いていると、不意に遠くから声を掛けられた。
「結城、帰るのか」
「…あれ、有坂」
顔を持ち上げればユニフォーム姿の有坂が、校庭から俺のところへ走ってきていた。
そういえば今は部活中で、野球部は校庭を使ってる。
この俺が有坂の姿を見ずに帰ろうとするとかありえない。
それに有坂だっていつも部活中は俺に気付かないのに、今日は気付いてくれた。
胸がどことなく詰まって、今すぐ抱きついて甘えたくなる。
「今日はゲーム研究会に寄ると言っていただろう」
「うん。でもやめたんだ」
「何か予定が出来たのか?」
「そういうわけじゃないけど…」
有坂にハルヤンのことをチクりたい。
だけどもし有坂がまたハルヤンの事を庇ったら、今度こそ完全に心が折れる。
今有坂は絶対俺に優しくしてくれないとダメなんだ。
何があっても味方してくれないと嫌だ。
「ならすまないが少し待っていてくれないか。今日は部活が早く終わる。今は一人で帰らないでくれ」
「――えっ?有坂が送ってくれるなら待ってるけど…なんで一人で帰っちゃダメなんだ?まだ時間も早いだろ」
「…ああ、いや」
珍しく有坂がどこか言い淀む。
が、すぐに遠くから有坂を呼ぶ野球部メンバーの声が飛んできた。
そういや部活中だっけ。
「分かった。じゃあゲー研で待ってる」
「ああ、そうしてくれ。終わったらすぐに迎えに行く」
「うん」
どこかホッとしたような有坂の表情に疑問を覚えつつ、再び俺は元来た道を戻る。
結局ゲー研に行くことになったけど、有坂と一緒の時間を過ごせるなら話は別だ。
落ちまくっていた気分も少しは戻って、ゲー研の部室へと向かう。
久しぶりに会長も交えて、水瀬と三人でゲームをした。
会長は受験シーズン真っ只中のはずだが、ちょくちょく息抜きしにきてるらしい。
「ラインハルト様、会長、いよいよボスですね。今サポート魔法掛けますね」
「さすがの手際の良さだね水瀬君。結城君も素晴らしいキャラコンだよ。このボスはかなりの強敵だけど、きっと三人の力を合わせれば勝てるはずだよ。最後まで気を抜かずに行こう」
「おー」
「はいっ」
会長が司令塔となって、俺たちはそれぞれの役割をしっかりと胸に刻み配置につく。
俺たちは今、強大なボスを目の前にしている。
魔王軍に長年酷い目に合わされ続けたこの世界の住人たちが、ようやく俺たちという希望を手にした。
この世界の住人の命は、今や俺達三人に掛かっている。
女や子供、姫に国王、たくさんの冒険の末に全世界の住人が俺達を応援していて、絶対に負けられない、緊迫した局面だ。
「結城、待たせたな」
が、ガチャッと音がして有坂が入ってきた。
一瞬で現実に帰還して、俺はコントローラーを投げ出して立ち上がる。
「――有坂っ」
有坂が来たらもうゲームの住人の命運なんかどうでもいい。
勢いよく飛びついた俺に、有坂は優しく目を細めて抱き留めてくれる。
「…ぐっ、さすがは魔王ゼタス。この局面でラインハルト様に魅了の魔法を掛けるとは…っ」
「ちょ、ちょっと困りますよ結城君っ。今帰られたらこの世界の住民の命は誰が救うんですか…いや、その前に莫大なボス経験値とレア報酬が無くなってしまいますよっ。イベント報酬は期間限定なんですから、今しか入らないですし――」
なんかゴチャゴチャ言ってる二人を置いて、有坂と一緒に部室を出る。
冬間近の空は、もうすっかり暗くなっていた。
風もちょっと冷たくて、ふるっと身体を揺らすと有坂がすぐにジャージを肩にかけてくれる。
俺のよりサイズの大きいそれと、ふわりと爽やかな有坂の匂いにどことなく心が緩む。
黙って歩いてると、有坂が俺の顔を覗き込んだ。
「ゲーム研究会は楽しかったか」
楽しいかどうかと聞かれたら別にいつも通りだ。
有坂といた方が百倍楽しい。
だけど今日は会長もいたし、水瀬と二人じゃ行けないステージにも挑戦できた。
最後のボスだけは倒す前に終わったけど、あいつらもようやく俺の足を引っ張らなくなってきたなと最近はわりと評価している。
「まーな。会長も久しぶりにいたし」
「そうか」
落ち着いた有坂の声が落ちてくる。
それでもやっぱり、こうやって有坂と一緒にいる時間が一番好きだ。
ゲームをしなくても何もしなくても、有坂がそばにいてくれるのが一番いい。
歩きながらそっと隣の服を掴むと、すぐに有坂は気付いて俺の手を握ってくれる。
「腹が減ったのか?何か食べて帰るか」
「えっ?」
唐突な有坂の言葉に顔を上げる。
別に腹は減ってないけど、有坂がどこかに寄り道しようって言うなら行かないわけがない。
「うん。行きたい」
「そうか。何が食べたい」
「んー…」
今は特に何も思いつかない。
「駅前のファーストフード店でいいか」
「うん」
すぐに提案してくれた有坂に頷いて、二人で駅前の店を目指す。
有坂と一緒に寄り道して帰るなんて滅多にない。
適当に選んだものを有坂が買ってくれて、二人で並んでカウンターに座る。
別に俺は小食じゃないしいつもなら余裕で食えるけど、なぜだかすぐに腹がいっぱいになった。
有坂に残りを食べて貰いながら、二人でのんびり駅前の人通りを眺める。
たまにぽつぽつと有坂が話しかけてくれて、返事をしながら優しい声音に耳を傾ける。
このまま家に帰らないで、ずっと2人でいられればいいのに。
「…随分今日は大人しいな」
「え?」
不意に言われた言葉に顔を上げる。
別にそんなことねーけど。
だけどなんとなくいつもみたいに言葉が思いつかない。
有坂はじっと俺を見つめてから、もう一度口を開いた。
「まだ春屋と仲直りしていないのか」
その言葉に、考えないようにしていたはずの感情が呼び起こされていく。
有坂はまだ俺とハルヤンが喧嘩しただけだと思ってるのか。
「…ハルヤンのことはもういい」
「ちゃんと春屋と話はしたのか」
どことなく鋭い口調に、心がじくりと痛みだす。
今まで押し殺していた気持ちがぶわっと溢れ出してきて、俺はギュッと唇を噛みしめた。
「したよ。もうちゃんとしたから…っ、もう何でもいいから俺の味方してくれっ」
なんでハルヤンを庇おうとするんだ。
もう何も聞きたくないとガバッとテーブルに顔を伏せると、有坂は慌てたように俺の髪を撫でる。
「す、すまない。泣かないでくれ。結城を責めているわけじゃない。ただ少し思い当たることがあって、疑問に思っていたんだ」
「…疑問?」
別に泣いてなんかない。
テーブルに突っ伏していた顔を少しあげて有坂を見つめると、有坂はホッとしたように髪に触れていた手を俺の頬へと滑らせる。
愛しげに目元をくすぐられて、甘やかされるような指の動きに頭がジンと蕩けるような熱を持つ。
やっと触ってくれた。
ずっとこんな風に触ってくれるのを待ってたんだ。
が、集中したいのに有坂が俺に触れる度に後ろの席の女子共がキャーキャーうるさい。
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