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「春屋くんてイケメンだけどチャラいよねー」
「あー、あの三年の綺麗な先輩ともしたんでしょ」
「えっ、一年の可愛い子ともしたって聞いたし、この間泣いてたよ」
「ヤリ捨てとか酷くない?最低すぎでしょ」
そもそもハルヤンは付き合う気無いし、合意じゃないとしないって言ってたけどな。
頬杖付きながらクラスの女子の噂話を聞く。
今まで全然気にしてなかったけど、ハルヤンもわりと女子の中で人気があるらしい。
「今日はどうするんだ」
放課後になって、有坂に予定を聞かれる。
そういえばここ最近ずっと放課後の予定を聞かれてたけど、俺を心配してくれてたからだったのか。
「有坂は部活か?」
「ああ。だが一人で帰るなら送っていく」
「…いや、今日は――」
いつもなら大喜びで送ってもらうけど、ちょっと迷ってしまう。
有坂は俺の様子に気付くと、優しげに目を細める。
「必要だったらすぐに連絡してくれ。一人では帰らないように」
「うん、分かった」
そう返して、一度じっとお互いの目を見つめ合う。
今日もあっという間に有坂との時間が終わってしまった。
もっといっぱい一緒にいたいけど、でも今日はやることがある。
隣の教室を覗いてみたけど、ハルヤンはいなかった。
聞いてみたけどハルヤンの動向を知ってる奴はいない。
昨日の事もあってめちゃくちゃ気まずいけど、どこにいるのかメッセを送ってみる。
が、何秒待っても返事は返ってこない。
少し考えて、俺はバイト先の喫茶店へ行ってみることにした。
有坂には一人で帰るなって言われたけど、まだ明るいし駅までの道は帰宅する生徒で賑わってる。
喫茶店は相変わらず暇そうだった。
中を覗いたけどハルヤンはいなくて、今日はマスターだけらしい。
ここのバイト先って従業員は俺とハルヤン以外いないのか。
この間のスカウトマンの件もあって一応礼を言うと、じいさんマスターは人の良さそうな笑顔を浮かべる。
「事前に春屋くんからそういう人達が来るかもしれないと話を聞いていたからね。もしまた何かあったら、いつでもここに逃げにきなさい」
朗らかな口調でそう言われたが、マスターまで事情を知ってたのかよ。
やっぱりハルヤンの行動の意図が分からない。
ハルヤンを探してることをマスターに伝えて、少しバイトしながら待ってみることにする。
どうやらマスターはまだハルヤンから俺が辞めることは聞かされてないらしい。
が、しばらく時間を潰しても俺目当ての客が賑やかしに来るだけでハルヤンは来ない。
仕方なく真っ暗になる前に喫茶店を出る。
このまま家に帰ろうかとも思ったけど、少し考えてから俺は学生寮へ向かうことにした。
寮には有坂と一緒に何回か行ったことがあるから、道は分かる。
群青色の夕闇が掛かる通学路にはまだ人通りもあって、来た道を戻りながら学生寮を目指す。
結局携帯には何も返って来てないし、この俺が探してやってるだけでも罪は重いのに、無視するとかもう有罪確定だろ。
やっぱりアイツはただの詐欺師じゃないのか。
そもそも俺はハルヤンに本当の事を確認して、それでどうしたいんだ。
仲直りしてまた前みたいに話したいのか。
今回のことが誤解だとしてもハルヤンが詐欺師な事には変わらないし、一緒にいたらまた騙される可能性だってある。
陽が落ちていく。
群青色だった空が黒に染まり、長い影が消えていく。
モヤモヤと考えながら歩いていたら、不意に車の音がした。
それは一度俺の横を通り過ぎてから、キッとブレーキ音を立てて止まる。
閑静な住宅街。
気付けば周りには誰もいないし、真っ暗だ。
なんでもない場所で車が止まったことにあれ?と疑問に思うと同時、バタンと音がして人が出てきた。
数人のスーツの大人を視界に入れて、ハッと身体が強張る。
――あいつらだ。
また俺に話をしにきたのか。
慌てて引き返そうとしたが、すぐに取り囲まれてしまう。
店でもなければマスターもいないし、誰もいないこの場所では助けてくれる人もいない。
「い、いい加減にしろよ。芸能界とか入らねーって言ってんだろ」
「そうですか。今日は他のご提案もあるんです。今後の人生に関わる大事なご相談ですし、結城くんの将来に決して悪いお話ではありませんよ」
「嫌だ。もう帰る…っ」
何度そう言っても帰してくれない。
丁寧な口調とは裏腹にその態度はめちゃくちゃ威圧的で、ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
もういっそのこと言いなりになってやれば、さっさと家に帰してくれるのかもしれない。
真っ暗な夜道で知らない大人に囲まれて、逃げ場もなく頭がパニックになる。
怖くて足が竦んで、動けなくなる。
「こんな場所では落ち着いた話もできませんし、一度場所を変えませんか?結城くんのために美味しい食事もご用意しているんです。…ああ、そうだ。お友達の春屋くんも待ってますよ」
「――え、ハルヤンが?」
その言葉に反応して顔をあげる。
どこに行ったのかと探してたけど、アイツ何してんだ。
呑気に美味い飯食ってるだと。
俺の反応を見て取ると、すぐに背中を押されて車へと連れていかれる。
少し迷ったけど、まあハルヤンが待ってるなら別に危なくないか。
そう思って車に乗り込む。
――が、不意に伸びてきた手にグイと腕を掴まれた。
強い力で勢いよく車から引きずり出されて驚く。
スーツの大人を割って入ってきたのは、ハルヤンだった。
「あれ、ハルヤンなんでここに――」
呆然とそう言った俺の言葉には返さず、ハルヤンは俺を車から降ろすとスーツの大人達へと視線を向ける。
その横顔は怒っているようで、見たことのない表情にビクリとしてしまう。
「お前ら親父の差し金だろ。コイツからは手を引け」
「れ、蓮斗様。ですが我々は社長命令で…」
「なら親父に言っておけ。コイツは俺が既に契約済みだってな」
状況が全く分からない。
だけどいつものハルヤンとは口調も雰囲気も違くて、身体を強張らせたまま事態を見守る。
しばらくして、ハルヤンの言葉にスーツの大人たちが引き下がっていく。
俺が何言っても帰らなかったのに、ハルヤンの一言ですんなりと車に戻って行った。
車が走り去ると、再び住宅街に静けさが戻る。
心臓はまだドクドクしていて治まらない。
車が行ったのを見ると、くるりとハルヤンは俺に振り向く。
何を言われるのかと身構えたが、ハルヤンは俺を見下ろすと力が抜けたように盛大に息を吐きだした。
「ちょっと何してんのマッスー。知らない車に乗り込むとかただの馬鹿でしょ」
その口調はただのいつものハルヤンだった。
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