アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
122
-
「ふ…っ、はぁ…」
必死に声を抑えながら射精した。
頭がぼーっとするような余韻の後、すぐに気怠さが襲ってくる。
眠気と一緒に泣き出したいような気持ちまで襲ってきて、モヤモヤしたままシーツにしがみ付く。
身体はスッキリしたはずなのに、心は全然晴れないままだ。
後処理するのも面倒くさくてこのまま寝てしまおうかと目を閉じると、不意に携帯が音を立てた。
ビクリとして携帯を見る。
有坂だ。
「――も、もしもし…っ」
『結城か。すまない、忙しくて気付くのが遅れた』
電話越しに聞こえる声は、低くて暖かい。
聞きたくてしょうがなかった声に、胸がいっぱいに詰まっていく。
「…っあ、有坂…っ」
『息が切れているな。走り込みでもしていたのか』
「――へっ!?」
突然の指摘に声が裏返る。
「し、してないっ。何も変なことしてないっ」
『…ん?何を慌てている』
今しがた自分がしていたことを思い出して、ドカッと顔に血が昇る。
なんなら携帯を持ってない方の手はまだ白濁に濡れていて、どろりとしたままだ。
有坂に会えなくて寂しいあまり一人でシてたとか、絶対に言えない。
こんなの有坂にバレたら、絶対に嫌われてしまう。
あたふたしていると電気がパッと付く。
どうやら停電が治ったらしい。
「…っあ、いやっ、えっと…っ、今停電だったんだ。そっちは大丈夫だったか?」
『こっちは晴れている。今一人か?怖い思いをしていないか』
有坂の言葉に心がぐらりと揺らぐ。
やっぱり有坂は優しい。
今すぐに帰ってきてくれって喚きながら全力でお願いしたら、もしかしたら帰ってきてくれるかもしれない。
だけど旅館は今繁忙期だって言ってたし、それをしたらきっと有坂は困ってしまう。
サダ兄も言ってたけど、男は相手を安心させてやるくらいの気概を持たないとダメだ。
めちゃくちゃ会いたいけど、俺は有坂を困らせたいわけじゃない。
「だ…大丈夫」
『そうか。今ようやく休憩に入れたところだ。もし不安ならずっと話していようか』
「え…っ、い、いいのか」
『ああ』
心臓がトクトクと音を立てる。
ちょっと我慢してみたら、嬉しい言葉を有坂がくれた。
頭が熱くなって何を話したらいいのか分からなくなる。
だけど電話が繋がってるだけで嬉しい。
我慢をしたら何も先に繋がらず有坂とのやり取りが全てそこで終わってしまうような気がしてたけど、そんなことはないのかもしれない。
やっぱり男なら心に余裕くらいないとダメだろ。
そう悟りを開いた瞬間、不意に有坂の後ろで声が聞こえた。
『――桐吾さん、女将さんが呼んでいますよ』
鈴の鳴るような、女の声。
落ち着いてるけどちょっと高めの女の声は、年配ばっかの有坂旅館では聞いたことのない声だ。
『ああ、分かった』
『女将さん相変わらず桐吾さんには厳しいですね』
『…まあ、俺にだけじゃないがな』
『ふふ、確かにそうですね』
おい何親しげに話してんだ。
一体誰だ。
俺以外と話すんじゃねえ。
一瞬で頭に血が昇ったが、有坂の声が電話越しに再び聞こえてくる。
『結城、すまないがまた後でかけ直す』
「はぁ!?今一生話してくれるって言っただろ」
『女将に呼ばれてしまった。仕事の話だろう』
せっかく有坂のために我慢したところだったのに、こんなの酷すぎる。
今話そうって言ったのにやっぱりダメとか余計に心が折れてしまう。
「嫌だ。今話したい」
『あとで必ずかけ直すから、少しだけ待っていてくれないか』
「嫌だっ。もう三日も待ってる…っ」
こんなに我慢しているのに、冬休みは長くてまだ終わらない。
一度嫌だって言ったらもう絶対嫌だって譲れない気持ちになる。
「今話してたの誰だよっ。夏休みの時あんな声の奴いなかったぞ」
『ああ。人が足りないから手伝いを雇っているんだ』
有坂は淡々と返してきたが、だけど俺が聞きたいのはそこじゃない。
もっと嫌なところがある。
「な、名前で呼んでた…っ」
『少し付き合いのある女性なんだ。毎年冬は手伝いに来てくれている』
「――は!?」
そう言ったところで、電話先で有坂母の声がした。
夏休みに散々怒られた若干トラウマのある声にビクリとする。
『結城、掛け直す。またあとで』
「――あ、おい…っ」
ぷつ、と有坂の声が途切れる。
電話を切られた。
側にいないからこそ余計に不安でしょうがないのに、こんな仕打ちをされたらいくら悟りを開いた俺でも我慢の限界だ。
極めつけに有坂のことを名前で呼ぶ知らない女の声。
俺はすぐにベッドから降りるとキャリーバッグを整理し始める。
冷静に考えたらゲームも漫画も枕もいらない。
いるものだけを考えてあれこれ整理して、そしてようやく俺のキャリーバッグは完成した。
雨はまだ降ってるし雷もまだ少しゴロゴロしてる。
外は真っ暗だ。
それでも俺は今から有坂のところへ向かうことにした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
130 / 275