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「――えっ、今日帰国しちゃうのか?」
翌日、朝食を食べながらサダ兄の言葉に驚く。
起きたら夢じゃなく有坂もちゃんといてくれて、幸せの絶頂だったのに。
「さすがに仕事があるからな。夕方の便で帰る予定なんだ」
「…そっか」
気分が落ち込むけど、まあこればっかりは仕方ない。
仕事は大切だって有坂も言ってたし。
「あれ、今回は聞き分けいいね。いつも嫌だってサダ兄に縋ってるのに」
「そ、そんなことしてないっ」
アサ兄の言葉を慌てて否定するが、母さんまでクスクスと笑っている。
有坂の前で変な事言うな。
今日は有坂と初詣に行く予定だったけど、サダ兄が帰国してしまうなら時間まで一緒に過ごしたい。
なら別の日にしようと有坂が俺に提案したが、夕方までは時間もあるし、せっかくだからみんなで有名どころの神社にでも行こうかという話になった。
父さんはいないけど俺の家族と有坂が一緒に行動するのは、なんだかくすぐったくて不思議な感じだ。
もしかしたら有坂も夏休みの時そんな気持ちだったのか。
趣のあるデカい鳥居をくぐって、有坂と長い石畳を歩く。
いまだに有坂が帰ってきたことが嬉しくて堪らなくて、自然と表情が緩んでしまう。
それなりに大きい神社なだけあって人はそこそこにいて、先にいる参拝客の列に並ぶ。
「なあ、昨日はサダ兄と何話してたんだ?」
俺が見てないところの有坂の行動は全部把握しておきたい。
隣を見上げると、有坂は少し考えるように視線を持ち上げた。
「結城の事だ」
「俺?」
「そうだ。結城はとてもお兄さんに可愛がられているんだな」
「まーな」
有坂の言葉に素直にそう返す。
俺が可愛がられていることは別に当たり前のことだから、今更なんとも思わない。
「それだけか?」
聞いたらどことなく言いづらそうに視線を逸らされた。
一体なんだ。
俺と有坂の間に隠しゴトなんか絶対に許されない。
有坂の事は何でも知ってないといけない決まりだ。
「なんだよ。教えろっ」
「別にそうわざわざ伝えるような話じゃない」
「知りたいっ。絶対に知りたいっ」
有坂の腕にぴったりと縋りついて必死に聞き出そうとしてると「そこの二人っ」とサダ兄が割って入ってきた。
それから俺を背にしてびしっと有坂に指を差す。
「仲良しなのは構わないが、き、昨日の夜みたいに人前で破廉恥な事したら許さないからなっ」
「破廉恥…?ああ、お兄さん海外に長く滞在していると聞いていたので、あれくらいは許容範囲かと」
「た、確かにあっちでは挨拶代わりだが…っ。いやちょっと待てっ。それよりまだお兄さんと呼ばれる覚えはないぞっ」
「すみません、お兄さん」
有坂が真顔でサダ兄に返しているが、この二人何気に仲いいんじゃないか。
やっぱり俺の知らない間に仲良く内緒話をしていたのか。
なんなら二人で枕投げしてたまである。
大好きな人同士が仲良くなるのはいいけど、どっちも俺より仲良くなるのは許さない。
特に俺をハブるのは絶対に許していいことじゃない。
二人のやりとりを唇を噛み締めて見つめていると、アサ兄にポンと肩を叩かれた。
「とりあえずマスの心がもう少し広くなるように神様にお願いしとくね」
俺の心は決して狭くなんてない。
人よりちょっと知りたがりで寂しがりやさんなだけだ。
参拝を終えたらすぐに有坂を引っ張る。
神社には元旦にも家族で来たけど、有坂と来るのは初めてだ。
そもそも有坂とは休みの日にゆっくり出かけることだって貴重だから、心残りがないようにしておきたい。
「なあ、あっちで甘酒配ってるから貰いに行こう。あっ、でもおみくじも引きたいんだよな…あ、あと一緒にお守りも買いたいし――」
「そうか」
やりたいことがありすぎる。
どれも方向が違うからどっちにいこうと迷っていると、有坂がぐいと俺の手を引いてくれる。
ちょっと混んでたけど俺の分まで甘酒を貰ってきてくれて、飲み終わったらおみくじ所まで連れてってくれた。
言葉は少ないけど、俺のやりたいことはちゃんと叶えようとしてくれてるらしい。
さりげない有坂の優しさが伝わってきて、どんどん気持ちが浮き上がっていく。
「そういえば有坂は何をお願いしたんだ?」
「お願い?」
「神社に行ったら普通お願いするだろ。俺は有坂とずっと一緒にいられますようにってお願いしたんだ。有坂は?」
ワクワクしながら聞き返す。
有坂も俺の事が好きなら、絶対に願いは同じはずだ。
違うはずがない。
「俺は昨年を無事に過ごせた感謝と、新しい年への挨拶をした」
「――は?お願いは?」
「初詣とは本来そういうものだ。あえていえば皆が健康に過ごせればいいと願っている」
お前はどこの爺さんだ。
普通好きな人と神社に来たら一生一緒にいられますように、とかじゃねーのかよ。
相変わらずクソ真面目な有坂に頭を悩ませつつも、時間はどんどん過ぎていく。
サダ兄と写真撮ったり本殿に上がらせてもらったり、屋台へ寄ったりとしているうちに帰国する時間が近づいてくる。
いよいよ見送りのために空港へ向かったが、やっぱり気持ちが落ち込んでしまう。
有坂と離れる時と違って毎年決まっていることだけど、サダ兄と離れる時はやっぱり寂しい。
去年有坂に会うまでは、ずっと俺の遊び相手は兄弟だけだったんだ。
アサ兄はいつもいるけどサダ兄には滅多に会えないから、ずっと俺の一番の楽しみだった。
「マス」
有坂と空港の土産コーナーを見ていると、不意にサダ兄に名前を呼ばれた。
どうやら搭乗手続きが終わったらしい。
またしばらくお別れなのかと思うと、やっぱり心臓が縮こまる。
思わず有坂を引っ張ったが、最後くらい二人で話しておいでと背中を押された。
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