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結局昨夜は有坂に送ってもらって熱を持て余したまま家に帰った。
ここしばらくの俺はずっと可哀想だったから、もっと有坂に可愛がってもらわないと気が済まない。
休み明けは仮病を使ったせいなのか手紙の量がいつもの倍になってたが、特に気にせずいつも通り紙袋へ突っ込む。
なぜか新品になってる上履きに履き替えていると、朝宮さんが昇降口から入ってきた。
「おはよ」
「…えっ、あ、おはよう。結城君」
挨拶してやったら少し驚いた顔をされた。
有坂が知人にはちゃんと挨拶しろって怒るから、仕方なく無視しないで挨拶してやったわけだ。
俺から声を掛けて貰えるとか有難いと思え。
そのまま教室へ向かおうとしたが、朝宮さんは何故か俺の横に並ぶ。
「体調はもう大丈夫なの?」
「おー。気のせいだった」
「ふふ、なにそれ」
適当に返したらクスッと笑われた。
この間はあんなにラスボスに見えたのに、有坂と一緒にいない朝宮さんはそこら辺にいるただの女子だ。
「有坂くんなんて部活休んで結城くんのお見舞いに行ったんだよ。二人ともすごい仲良しだよね」
「まーな。でもアイツ栄養ドリンクじゃなくて間違えて精力剤買ってきたけどな」
「えーっ、あの冷静な有坂くんが?」
有坂の話を振られればどうしようもなく表情が緩んでしまう。
朝から有坂の話が出来るなんて幸せだ。
なんて思ってたら、隣で朝宮さんも同じように幸せそうな顔していて逆に冷静になった。
俺の方が有坂の話してて幸せだ。
とはいえ俺の悩みゴトは結局のところ有坂の行動次第で、朝宮さんに限らず他の奴と話してるところを見ればめちゃくちゃ腹が立つ。
絶対に今日こそ問い詰めてやろうと息巻いて昼休みを迎えても、有坂に触れられるとドキドキして幸せで堪らなくなる。
「有坂、有坂…っ」
抱き着いてその胸に頬ずりすると、髪を撫でて返してくれる。
もっとしてくれと強請ったが、そっと身体を離されて切なげに見つめられた。
「可愛がりたいがここは部室だ。この間監督に注意されてしまっただろう」
「でも今見てないぞ」
「そういう問題ではない。咎められているものを見ていないから良いというのは、倫理的にも――」
有坂の言葉が止まる。
しっかりと目の前の首に手を回して、自ら唇を重ねる。
俺からキスをするのは初めてだ。
自分からしたのに熱い唇の感触に、ぶわっと体温が上がっていく。
押し付けるだけでそっと話すと、いまだフリーズしたままの有坂の目を見つめた。
「…だ、大好きなんだ」
呟くようにそう言ったら、がばっと勢いよく抱き締められてすぐに唇を奪われた。
さっきの言葉なんてすっかり飛んでったように貪られて、むせ返るような深い愛情にくらりとする。
なるほど、身体で落とすってこういうことか。
ハルヤンナイス。
求められてしまえば一気に頭が真っ白になって、麻薬のような甘いひと時にすっかり陶酔しきってしまう。
日に日に有坂ナシじゃ生きられなくなっていく。
だけど俺にはまだ、めちゃくちゃデカい悩みが残っている。
こればっかりは有坂に言ったところでどうにもならない。
――そう、クラス替えだ。
真冬が通り過ぎ、二学年最後の期末テストも終えあっという間に三年生の卒業式がやってくる。
桜のつぼみが膨らみ始め雲一つ無い快晴の元、昇降口前で最後の別れの挨拶をする卒業生と在校生たち。
卒業式ってのは俺にとって正直恐ろしい。
今までに俺を物陰で見ていた奴らが、最後だからとこぞって人の物を奪いにくる。
ボタンやらなにやら俺はまだ卒業しないのに自分勝手な都合でクレクレ言われて、時にはもみくちゃにされ剥ぎ取られ、めちゃくちゃ疲れる。
いつもなら別れを惜しむ奴もいないしさっさと帰るに限るが、それでも今年は挨拶出来る奴がいる。
なんだかんだ言っても一応俺の先輩で、最初こそ俺に対して遠慮はあったが、途中からは普通に話せてゲームもたくさんして遊んだ。
会長が他と同じように俺にずっと気を遣うような態度だったら、俺は有坂がいない日のゲー研なんか行かなかっただろう。
「…っう、み、みんな本当に、本当に有難う。思えばゲーム研究会設立当時は――」
会長がずぶずぶに泣きながら、ゲー研メンバーに最後の別れの挨拶をする。
相変わらずグダグダ長い話が続いて、最初はちょっと寂しかった気持ちがだんだん萎えてくる。
この光景前にも見たな。
「とはいえ会長が希望の大学に進学出来て本当に良かったです。また集まりましょう。僕ももっと腕を磨いておきます」
水瀬が良い感じにまとめてくれて、ようやく会長も話を辞めてコクコクと嗚咽交じりに頷く。
今日は卒業式で半日で学校も終わりだし、部活もないはずだから早く有坂と遊びに行きたい。
呑気にそんなことを考えていると、会長は俺達を見てグズッと鼻を啜りながらようやく笑顔を見せた。
「うんうん…っ、絶対に集まろうね。水瀬君もドラマで忙しいのに一緒に遊んでくれて本当に有難う」
「…えっ」
「結城君と有坂君も恋人同士なのに二人でいる時間をゲー研に使ってくれて有難うね」
「ええっ」
俺と有坂、水瀬の三人が会長の発言に驚く。
全部気付いてたのか。
とはいえ有坂だけはふと我に返って「ドラマとはなんだ?」とあれだけ水瀬といるのに天然発言をかましてたが、まあそもそも俺のことすら知らなかったような奴だからしょうがない。
それにしてもこの会長、思いのほか侮れない。
そして春休みに入る。
春休中は有坂も実家に帰らずこっちにいたから、部活やら同好会で忙しそうだったけど俺ともそれなりに遊んでくれた。
何より俺が学生寮に入り浸って有坂の飯を作りに行っていた。
有坂と過ごす日々は驚くほど短く、1日が5分で過ぎていく。
楽しくて堪らないと、こんなにも時間の流れが速いのか。
それでも新学期が近づくにつれ俺の心はどんどん恐怖と不安でいっぱいになっていく。
俺の学校は8クラスまであるから、有坂と一緒のクラスになる確率なんてもう絶望的だ。
クラスが同じになるように賄賂とか何とかできないのかって母さんに頼んでみたけど、微笑ましそうに「クラス替えは学校行事の醍醐味よ。有坂君と一緒のクラスになれたらいいわねえ」としか言われなかった。
もうダメだ。使えねえ。
「有坂、やだ。嫌だ。違うクラスになったらもう俺の人生終わりだ…っ」
「そんなことはない。同じ学校内にいるんだ。昼休みは変わらず一緒にご飯を食べよう」
「食べるけど嫌だ。有坂がいないと無理だ…っ」
「お前は本当に可愛いな」
そう言ってエロいことされて話を誤魔化された。
三学年は修学旅行だってあるし、俺の悩みはマジで深刻だ。
中学の時みたいにほぼ強制参加なのに三泊四日の一人ぼっちとか絶対嫌だ。
焦る俺を他所に、周りの奴らは驚くほど冷静に毎日を過ごしていく。
つぼみだった桜が花開き、少しずつ暖かくなり春が訪れていく。
――そして、俺達は三年生になる。
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