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「結城、見てみろ」
淡々とした有坂の声が落ちてくる。
心臓が縮こまって、とてもじゃないけど顔を上げられない。
「い、嫌だ。怖い。絶対一人になって一年間誰とも話さず寂しい人生を送るに決まってる…っ」
誰かが側にいる幸せを知ってしまったから、もう一人になんか戻れない。
俺以外が和気あいあいと楽しそうにしてるクラスなんか見たくない。
それでも促すように緩く背中を擦られて、恐る恐る顔を上げる。
有坂が指し示す指の先。
名前の順だから、すぐに『有坂桐吾』の文字が見えた。
この欄にいなかったら世界の破滅だ。
有坂の服を握りしめながら、そろそろと視線を落としていく。
俺の名前は全然見当たらない。
もうダメだ。
明日から登校拒否するしかない。
そう心に決めた時、長い名前の欄の一番下に『結城益男』の名前を見つけた。
ぶわっと身体が熱くなる。
「えっ…えっ!?」
何度も確認する。
何回見ても有坂のいる列と同じだ。
一番上に有坂の名前。
そして一番下に俺の名前。
これは間違いない。
同じクラスだ。
「…き、奇跡だ」
「ああ。さすがに8クラスもあってまた同じクラスになるとは思っていなかった」
「う、運命だ…っ」
感動のままにそう言ったら、有坂も真顔で「そうだな」と返してくれる。
夢のような事態にしばらく呆然としてしまったが、じわじわとここ数日の恐怖が消し飛んでいく。
そうだよ。
考えてみればこの俺が有坂と違うクラスになんてなるわけがないんだ。
俺はめちゃくちゃイケメンで天才なんだから、絶対運もいいはずだ。
悪いわけがない。
気分が一気に高揚して、夢じゃないかと何度も隣のモブ男の頬をつねって確認する。
俺につねられて幸せそうにしてるモブ男にちょっと不安になったが、有坂に首根っこを掴まれた。
「結城、やめてやれ。現実だ」
そう言って有坂は俺を促して昇降口へ向かう。
二人で一緒に上履きに履き替えて、一緒に新クラスへと歩いていく。
やばい。めちゃくちゃ嬉しい。
心臓がまだドキドキしていて、耳まで熱くなってくる。
名前の順だから俺と有坂の席は遥かに遠いけど、同じクラスなら全然それでもいい。
教室に朝宮さんがいて、なんでまた同じクラスなんだと思ったけど今ならそれも許せる。
担任が俺の苦手な数学教師だったけど、それでも有坂と同じクラスならもう全部何でもいい。
「――ハルヤン、聞いてくれっ。有坂と同じクラスになった」
放課後、さっそくハルヤンにこの興奮を伝えに行く。
今日は半日で学校終わりだし食堂もまだ開いてないから、どうせ暇なハルヤンを誘ってやって駅前の店に飯を食いにきた。
ちなみに有坂は部活勧誘だとかで野球部員に連れられてどっかに行ってしまった。
でも心の広い俺は、笑顔で有坂を送り出してやった。
「うん、良かったね。まあそうなると思ってたけど」
「えっ」
当たり前のように言われたが、何言ってんだコイツ。
8クラスもあるんだからそんなの分かるわけないだろ。
俺と有坂が同じクラスになったのは、間違いなく運命だ。
じとりと目を細めたら、ハルヤンは俺を嘲笑うかのようにフッと息を漏らす。
「マッスーさあ、クラス替えがなんにも教師が考えず適当にランダムで決めてるとでも思ってる?」
「…え、そうじゃないのか」
多少学力とかのバランスはあっても、あとはパソコンで適当にクラス分けしてるんじゃないのか。
ハルヤンは呑気にポテトを食いながら、何でもないように話を続ける。
「このご時世さ、学校の問題なんてめちゃくちゃ多いんだからそりゃ学校側も慎重になるわけよ」
「え?うん」
「学力バランスの問題は当然あるけどさ、それよりも一番考えられるのはいじめ問題だよね。マッスーの場合特に目立つし、中学時代の情報と高校入ってからの情報で、恐らく隠れぼっちな事はもう割れてるわけよ」
「えっ」
なんだそれ。
教師ってそこまで見てるもんなのか。
つーか隠れぼっちって言うな。
「そこでようやく高二で絡みはじめたのが、ありちゃんと俺。教師側から見れば真面目なありちゃんとヤバイ噂が立ってる俺と、どっちに交友関係を広げたいかは明白だよね」
「えっ、えっ!?」
「しかもありちゃんと交友を持ち始めてから、同好会に所属したり内申点的にも良い行動をしてる。マッスーは学力トップだからこそいい大学に進学させたいだろうし、学校側も特に慎重に育てたいわけよ」
「え…ええっ!?」
「だからありちゃんと同じクラスになるのも、俺と別クラスになるのもハッキリ言って必然ってわけ」
ハルヤンの言葉に目を白黒させる。
コイツ詐欺師だと思ってたけど分析博士だったのか。
つーかそこまで分かってんならなんで先に言ってくれないんだ。
「まあさらに言うなら、マッスーはこの先の高校生活で俺達以外には簡単に友達が出来ないと判断された、正真正銘のコミュ障ってわけだよね」
「――はぁ!?」
最後の一言は余計だ。
俺はコミュ障なんかじゃない。
周りの奴が俺を分かってくれないだけだ。
「う、運命じゃねーのかよっ」
「いや同じクラスって聞いて確信したよね。8クラスもあって偶然とか中々ありえないでしょ」
「…じゃ、じゃあ朝宮さんと有坂がまた同じクラスなのは?」
「それは偶然でしょ。そっちのが運命なんじゃない?」
衝撃の一言に思わずフリーズする。
ありえない。
絶対ありえない。
俺の方が絶対運命だ。
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