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「ハルヤンって将来の夢あんのか?」
バイト先でグラスを磨きながら、カウンター横で頬杖ついて携帯弄ってるハルヤンに聞いてみる。
ちなみに客はいる。
俺目当ての女子がきゃいきゃい言ってるが、誰一人としてハルヤンの仕事態度を咎めていない。
有坂母ここに招待してやろうか。
「俺?美容師かな。モテそうだし」
「なんだその適当な理由。実家の芸能事務所はいいのか?」
「入れとは言われてるけどやりたくないからしゃーないよね。だからこうしてお金稼いでるわけだし」
「――えっ」
ちょっと驚いた。
完全に遊ぶために金稼いでるのかと思ってた。
唖然としてたら、ハルヤンは携帯を弄る手を止めて俺を見る。
「え?何その顔」
「…いや、ハルヤンが予想外にちゃんと考えててびっくりした」
「今適当な理由って言わなかった?」
動機は適当でも、それに向けて行動してるところに驚きだ。
何でもないようにハルヤンは再び携帯に視線を落としたが、あのハルヤンですら進路を考えていたとか。
有坂も俺を差し置いてちゃんと考えてたし、何も考えてないのはマジで俺だけなのか。
とはいえまだ三年は始まったばっかで、進路表だって別に目安程度だ。
とりあえず適当に書いて提出して、今は有坂と一緒の時間をたくさん楽しみたい。
「有坂、ちょっといいか」
「はい」
そう思っていたのに帰りのHR後、担任に有坂が呼び出された。
今日は有坂が久々に俺と遊んでくれるって言ってたから、ドキドキして待ってたのに。
とりあえず有坂にくっ付いていったら、数学教師に俺は呼んでないと押し戻された。
この俺を邪険にするな。
それでも廊下で話をしていたからコッソリ聞き耳を立てることにする。
「お前まだ進路表が出てないぞ。とりあえずでいいから出せって言っただろ」
「すみません」
「三者面談ではやりたい事もハッキリ決まってたよな。何か心配事でもあるのか?」
「…いえ。少し悩んでいるだけです」
珍しい。
あの有坂がまさか進路表だしてなかったとか。
てっきり昨日の昼休みの言葉でもう決まってるのかと思ってたけど、まだそういうわけじゃないらしい。
てか有坂も悩んだりするのか。
いや別に悩みくらい人として当たり前のことだけど、いつも有坂は余裕だし真顔でエロいこともしてみせる猛者だから想定してなかった。
悩みがあるならなんで俺に相談しないんだ。
教室に戻ってしばらくすると、有坂が帰ってくる。
その表情は特にいつもと変わらない。
「結城、すまない。待たせた」
「おー。…よ、呼び出しなんだった?」
さすがに盗み聞きしたとかちょっと気まずいからそこは隠して聞く。
有坂は何でもないように俺の上着を持ち上げて着せてくれる。
「別に大したことじゃない。それで結城はどこに行きたいんだ?」
はぐらかされた。
もしかして俺じゃ悩みの相談相手にならないのか。
確かに人から相談とか一度もされたことないけど、でも俺は恋人じゃないのか。
有坂が教えてくれないことにモヤモヤしたけど、それでも一緒に遊べるのは嬉しい。
カラオケ、映画、ゲーセン、ショッピング、行きたいところはたくさんある。
だけど有坂と遊べるとなると気持ちが浮き上がって、すぐに考えがまとまらない。
それにせっかく久しぶりに遊べるなら、絶対に楽しんでほしい。
有坂が楽しめる場所って一体どこだ。
視線を彷徨わせてソワソワしてたら、有坂が優しく背を押してくれる。
「俺の行きたい場所でいいか?」
「――うんっ」
有坂が行きたい場所なら、俺も有坂も絶対楽しめる。
二人で学校帰りの並木道を歩く。
ふわふわと気持ちが舞い上がって、隣を歩いてるだけで楽しくて堪らない。
思わずその腕を取ると、有坂はどことなく困った顔をしたけど俺の耳を優しくくすぐる。
熱い指先の感触に顔が熱くなって、幸せな気持ちでいっぱいになる。
ずっとこうしていたい。
この時間が俺にとっては何よりも一番で、それこそ俺の望む進路は有坂とずっと一緒にいることだ。
夢のようなひと時に思考回路が一瞬すっ飛んだけど、そういや忘れちゃいけないことがあった。
俺は有坂の悩みゴトを聞いてやろうと思ってたんだ。
「なあ、有坂。悩みがあるなら俺に相談しろよ」
「え?ああ、有難う」
いや礼じゃなくて。
内容を聞きたいんだが。
「何か悩みないのか?あるだろ?絶対あるはずだっ」
「どうしたんだ?いきなり」
いまいち教えてくれない有坂に縋りついて聞き出そうとしたが、有坂は教えてくれない。
それどころか「クラス委員だから気配りをしようとしてるのか。偉いな」って褒められた。
そうじゃないけど褒められれば悪い気はしない。
上手い事聞きだせないまま目的地へ付いて、俺は予想外のその場所に目を丸くする。
「――えっ、なんでここ」
たどり着いた場所はアミューズメントパークでも夜景の見えるレストランでもなかった。
俺の目の前にそびえ立つのは、何の変哲もないただの図書館。
唖然とする俺を他所に、有坂は何でもないように足を進める。
「お互いに受験生なのだから、学生らしく共に勉強をして高めあいたい」
そうだ。
有坂はそういう奴だった。
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