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球技大会は難なく学年優勝を飾り、さてこれからはいよいよ修学旅行シーズンになる。
今までは学校行事の旅行なんて俺にとって苦痛以外の何物でもなかったが、今は楽しみで仕方がない。
有坂とずっと一緒に観光して、一緒に美味しい物を食って、夜も寝るまでずっと一緒にいて朝も一緒だ。
しかも部活とか同好会に邪魔されない。
修学旅行は三泊四日の北海道旅行らしいが、せっかく有坂がいるなら三ヶ月くらいかけてワールドツアーに行ったっていいのに物足りない。
とはいえ一日中有坂と一緒にいられるなら結局のところ何でもよくて、今から心臓がドキドキしている。
控えめにいって修学旅行最高過ぎだ。
「はーい、それじゃこれから修学旅行の班決めをします。協議の結果クジ引きになったんで、そういう方向で委員長進行よろしくー」
「――は…っ!?ちょ、ちょっと待ったっ!」
慌ててガタッと席を立つ。
今なんて言ったんだこの担任。
修学旅行の班をクジで決めるとか聞こえたが、絶対にありえない。
一体どこのクソ協議会の決定だ。
「しゅ、修学旅行は高校生活で最も思い出に残る行事だと思います。せっかくなら慣れ親しんだ友人と班を組むべきだと思うんですが」
この俺がこんな提案をするなんてありえないが、今は緊急事態だ。
懇切丁寧に真心を込めて言葉を選びながら熱弁すると、クラスメイト達がハッとした表情を俺へ向ける。
一人、また一人と俺の言葉に感銘を受けたクラスメイトが増えていき、それぞれがウンウンと頷き始める。
初めてクラスメイトの奴らと共感出来た気がする。
「うーん、確かに結城の言いたい事は分かるけど。今ほら、教育委員会が色々とうるさくてさー。変なわだかまりが起きないように、くじ引きって事で学年主任が決めちゃったんだよな」
「で、でも圧倒的に自分たちで班決めしたいって人の方が多いと思います。学校は集団生活ですし、多数派の意見を中心に取り入れて欲しいです」
いつもは圧倒的少数派というかいっそ個人派の俺だが、ここは譲れない。
球技大会は我慢したけど、修学旅行は絶対に楽しめるとワクワクして待ってたんだ。
有坂と一緒の班になる約束だってちゃんとして、事前に俺と有坂が離ればなれになるフラグはへし折ったはずなのに。
「まーほら、クラスメイトなら慣れ親しんだ友人だろ。もう決まっちゃったことだし学校の方針ってことで納得してくれ」
あっさりそう言ってテヘッとウインクした担任に、今世紀最大の殺意がわいた。
「結城、そんなに拗ねないでくれ」
「もう嫌だ。絶対嫌だ。修学旅行行きたくない」
昼休み。
有坂と弁当を食いながら、さっきのHRでの出来事を愚痴る。
結局どうにもならなくてクジになった結果、有坂と違う班になった。
もう泣きそうだ。
「昨今は確かに班決めや二人組、といった人間関係でのトラブルに対して非常に学校側も慎重になっている。事前に対策を取るのは仕方のないことだ」
「……」
有坂の言葉に視線を落として唇を噛みしめる。
確かに有坂に会うまでの俺も、その問題には頭を抱えていた。
心当たりありまくりだが、でもそんなのもう過去の話だ。
俺は今、どうしても有坂と同じ班になりたかった。
「それに結城の熱意とクラスの意見を受けて、せめて部屋割りくらいは自由に決められるように取り合ってみると七海先生も言ってくれただろう」
「…それは、そうだけど」
それでも気分が落ち込んでしまう。
弁当も食う気が起きなくて箸を下ろしたまま黙りこくっていたら、有坂が口に卵焼きを運んでくれた。
パクリと口を開けて頬張ると、ほんのり効いた和風ダシの味が口の中に広がる。
めちゃくちゃ美味い。
さすが俺が作っただけある。
飲み込んだら、次は炊き込みご飯を運んでくれる。
食べたら次にミニトマトが口に運ばれてくる。
なんかちょっと嬉しい。
「次ウインナー食べたい」
「ふ、少しは食欲が出たか?」
「食欲は出ても元気は出てないぞ」
「そうか」
そう言って有坂は俺の口にタコさんウインナーを運ぶ。
されるがままに食べさせてもらっていると、なんだか去年有坂の実家で熱出してお粥を食べさせてもらった時のことを思い出してくる。
あれからもう一年になるのか。
有坂に出会って、一年。
何をしてもつまらなかった人生はいつのまにか変わっていて、今は有坂がいないと何も始まらない人生になっている。
頭の中がこんなにも誰かでいっぱいになる日がくるなんて、思いもしなかった。
ぼーっと黒い瞳を見つめていると、有坂が困ったように微笑む。
「…そんな物欲しそうな目で見つめられると、穏やかではいられないな」
言葉と同時に、意図したように唇に親指が触れる。
口端についたケチャップを拭ってくれただけだが、その視線は食い入るように俺を見つめたまま外れない。
エロスイッチが入った時みたいな強い視線を向けられて、ドキリと心臓が跳ね上がった。
やっぱり俺は、ちゃんと愛されてる。
求めるような視線はビリビリと背筋が痺れるほど強くて、耳まで熱くなってくる。
このままドロドロに甘やかされて可愛がられまくってしまうのかと期待に胸が高鳴ったが、不意に有坂は力抜けたように小さく息を吐きだした。
緩く首を振ってから、ぺろりと指についたケチャップを舐め取る。
「ほら、後はちゃんと自分で食え。俺は走り込みに行ってくる」
「…えっ?あ、うん」
あっさりとそう言って立ち上がった。
なんだよ。
なんもしねーのかよ。
肩透かしくらった気分になりながら、ジャージに着替える有坂を見つめる。
モヤモヤとする気持ちは、なんだか覚えのあるものだ。
ここ最近感じている、有坂への違和感。
ちょっと前は部室でめちゃくちゃねちっこいキスしてきて担任に怒られたことだってあったくらいなのに、最近はどことなくそっけないような。
俺はもっとイチャイチャベタベタして構いに構いまくって構い倒して欲しいのに、有坂はそうは思わないのか。
『ありちゃんの悩みねー。なんだろ、マッスーがべったりしすぎてウザくなったとか?』
不意にハルヤンの言葉が蘇ってくる。
そんなことはありえないはずだが、一気に血の気が引いて慌てて俺は首を振った。
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