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風呂から出て携帯を見たら、有坂から着信が来ていた。
すぐに掛け直そうと思ったが、携帯を見つめたまま立ち尽くしてしまう。
有坂に本当の事を聞いて、もしまたはぐらかされたら。
少し不安になったが、それでも電話をすれば有坂の声が聞ける。
そう思えばどうしても心が突き動かされて、スマホの画面に指を伸ばす。
『結城か、気付くのが遅れてしまってすまない』
「…うん、大丈夫」
全然大丈夫じゃないけど、すぐ耳元で聞こえる声は優しくて暖かい。
有坂だ。
今日は一日話せてなかったから、やっと聞けた声に張りつめていた心がジンと溶かされていく。
『何かあったのか?』
「な、何かないと電話しちゃダメなのか」
『そんなことはない。お前の声を聞けるのは嬉しい』
当たり前のようにそう言われた。
俺も同じことを思って電話したから、ギュッと胸が詰まって嬉しくなる。
けど流されちゃダメだ。
有坂は真顔で甘い事だって囁ける猛者だ。
「…あ、えっと。有坂、今日放課後誰かに引っ張られてたよな。何かあったのか?」
『別に大した要件じゃない』
ばっさりとそう言われた。
やっぱり俺には何も話す気がないのか。
教えてくれないことにグサッと心が抉られたけど、まだめげるには早い。
ちゃんと話をしないと、きっと有坂だって分からない。
「で、でも気になる」
『結城が気にするような事は何一つないが』
「い、いいからっ。何があったんだよ。俺に言えないことなのかっ」
『隣のクラスの田中にゴキブリが出たから退治して欲しいと頼まれただけだ』
おい、ほんとにクソ程大したことねーな。
ゴキブリくらい自分で処理しろ。
そんなことで有坂引っ張ってくんじゃねーよ。
「あー…えっと。じゃ、じゃあ今日は部活じゃなかったのか」
『今日は部活には顔を出していない。なんだ、もしかして野球部に来たのか?』
「えっ、いや――」
『あの時間に電話してきたと言うことは…まさか俺の事を待っていたんじゃないだろうな』
「あ、いやえっと…」
『一人で帰ったのか』
有坂の声色が変わってビクリとする。
なんで俺の行動パターンが一瞬にして読まれたんだ。
しかもこのままだと何故か俺が怒られるいつものパターンになる。
「ちゃ、ちゃんと迎えに来てもらったから平気。有坂の方こそ毎日部活で忙しかったんじゃないのかよ」
『夏の大会が近いからな。野球部の方はこれからもっと忙しくなるだろう』
淡々とした声が返ってきたが、でも野球部は週三しか行ってないんだろ。
それなら俺にもっと時間を取れるんじゃないのか。
『…どうした?何か思うところがあるのなら教えてほしい。お前のことは何でも聞きたい』
「お、俺だって有坂の話聞きたい」
『別に俺の話など、そう面白いものではないが』
「そんなことないっ。俺は有坂の事もっとたくさん知りたいんだ。もっともっと知りたいのに、なんで何も話してくれないんだ…っ」
思わず声を荒げたら、有坂が息を詰めたのが分かった。
それから少しの沈黙が訪れる。
怒鳴ったのは俺なのに、突然黙りこくってしまった有坂に心がビクついてしまう。
もしかして怒ったのか。
別に有坂と喧嘩したかったわけじゃない。
『…まさか春屋から何か聞いたのか』
「え…ハルヤン?」
突然予想外の言葉を言われて驚く。
なんでここでハルヤンなんだ。
朝宮さんじゃないのか。
確かハルヤンが言ってた事なんてくだらねー暴言ばっかで、有坂が俺の事ウザいと思ってるとかそういう冗談だったけど。
えっ、マジで?
いやさすがに冗談だよな。
いやいや、ありえないだろ――とは思うが、電話だから相手の顔が見えない。
まあ有坂だから真顔なんだろうけど、それでも直接話せば伝わるものはある。
「な、何の話だよ。やっぱ俺に何か隠しているのか」
『ああ…いや――』
有坂が言い淀んだから、ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
またはぐらかされる。
そう直感して、身構えてしまう。
やっぱり俺には何も話す気が無いのか。
俺は有坂の全部が聞きたいし知りたいのに、有坂はそう思ってくれないのか。
通話の先で、小さなため息が聞こえた。
『…いや、この言い方では余計に不信感を持たれてしまうな』
「――え?」
『いずれ結城にちゃんとした形で話をしなければと思っていたのだが…すまない。まだ自分の中でも答えを出せずにいる』
「な、何の話」
『電話で話すのではなく、また今度。改めて話をさせてくれ』
なんか重たい雰囲気のまま、話は終わった。
電話を切ってじっとスマホを見つめる。
話って何なんだ。
良い話なのか、悪い話なのか。
心臓がバクバクしていたが、それでも有坂の態度は思ってたより誠実だった。
不信感を持たれたくないって言ってたし、俺が今まで聞かなかっただけで聞けばちゃんと答えてくれそうだった。
会話の感じからしても、俺のことが嫌いになったわけじゃなさそうだ。たぶん。
もちろん疑問は残ったままというかむしろ深まったが、少なくとも俺に嘘を吐こうとかそういう感じでもなかった。
むしろ嘘を吐いてた奴は有坂じゃなく、他にいる。
「アイツ、俺に何か隠してんな」
俺の怒りの矛先はハルヤンへと向かった。
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