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「あら、益男さん。お久しぶりです。遠いところまでよくお越しくださいましたね」
「お、お久しぶりです」
久しぶりといっても三者面談以来だが、有坂母は相変わらずぴしっとした着物を着て温和な笑みを湛えている。
一見優しそうに見えるが、去年がっつり絞られたトラウマで自然と身体が反応して背筋が伸びる。
「お母様から話は伺っていますよ。都会で騒音のあるご実家だと勉学に集中できないので、是非環境の良いこちらで社会の仕組みを学びながら受験勉強をさせたいのだと」
「へっ?あっ、はい」
「こちらも益男さんに今年もお手伝い頂けるのは願ってもないことですが、お仕事は勉学に支障のない範囲でお願いしますね。学生の本業は勉強ですから。それから昨年は熱も出されましたし、絶対に無理はしない事。体調の異変を感じたらすぐに言う事。必ずお約束して下さいね」
「は、はい」
あれ、なんか優しい。
すっかり警戒心MAXだったが、今日の女将さんはニコニコしていて上機嫌そうだ。
いやいつもニコニコはしてるんだけど。
「ふふ、益男さんに似合うと思って新しい作務衣と前掛けも用意したんですよ。きっと桐吾さんもお喜びになるでしょう」
そう言われてカッと顔が熱くなる。
有坂に褒めてもらえるかもしれない。
もしかしたら超喜んで可愛がりまくってくれるかもしれない。
仕事も勉強も捨てて遊んでくれるかもしれない。
有坂母は俺の様子を見て、クスクスと楽しげに笑う。
「どうやら昨年よりもずっと仲良くなったみたいで。ぜひ今後ともうちの桐吾をよろしくお願いしますね」
「…っえ?あ、こ、こちらこそ」
丁寧に頭を下げられて、慌てて俺も下げる。
有坂母の前で変な態度は絶対にしちゃいけないというのは、もう本能レベルで身体にしっかりと染みついている。
いつもみたいに「ふーん、仲良くしてやるよ」とか言ったら絶対俺の命が危ない。
有坂が俺の荷物を長屋に置きに行っている間に、また女将さんに着付けをしてもらう。
去年は赤に近い臙脂色の作務衣に若草色の前掛けだったが、今年はサーモンピンクのような色合いだ。
朱華色(はねずいろ)というらしいが、ピンクに近い色に女じゃねーぞと若干不満を覚えつつ着せて貰う。
それでも鏡の前で着替えた姿を見れば、思っていたより落ち着いた色彩にハッとする。
イケメンの着こなすピンクはおしゃれな雰囲気と柔らかさの二面性を兼ね備えていて、ただし緩み過ぎないように瑠璃色の前掛けでしっかりと全体を引き締めている。
まあこの俺ならどんなものでも着こなせないわけがないが、自分で見ても似合ってるんじゃないかと思う安心と信頼の出来栄えだ。
「とても素敵ですよ。本当に益男さんにはいろんなお召し物を着せたくなります」
「あ、有難うございます」
姿見の前で慌てて礼を言うと、ちょうど襖の奥で「失礼します」という有坂の声がした。
どうぞ、という女将さんの声で有坂が入り込んでくる。
俺と目が合うと、その瞳が僅かに見開く。
「――可愛い。お前は何を着ても似合う」
「あら、桐吾さん。一年経ったのに去年と全く同じ台詞ですよ。精進がありませんね」
「…む、そうか」
有坂は居心地悪そうに首を擦ったが、女将さんの言うとおりだ。
有坂はもっと成長してたくさん俺を可愛がりまくった方がいい。
女将さんにお礼を言って、一先ず部屋の整理へ行く。
母さんたちが来たら同じ部屋に行っていいらしいけど、とりあえずは前と同じ長屋に泊まることになってる。
俺的には別に部屋にはこだわらないし、同じところを使えるならそっちの方がいい。
「あれ、有坂。俺の部屋に入ってきていいのか」
「今年は特に何も言われていない」
「へー、じゃあ夜も一緒に寝られるな」
ニコリと笑って言ったら、有坂にじっと目を見つめられる。
突然エロモードに入ったみたいな熱っぽい視線に、ゾクリと背筋が震える。
「な、なんだよ」
「…いや。さすがに夜結城の部屋へ行くわけにはいかない。俺が部屋にいない事を知ればすぐに居場所もバレるだろうしな」
有坂はそう言って俺が散らかした荷物を勝手に整理し始めているが、ドキドキしながら立ち尽くしてしまう。
なんだろう、今のめちゃくちゃビリビリくるような視線は。
まるで酷く喉が渇いた獣が水を探し求めるような、荒々しくも切羽詰まったような鋭い視線。
そういえばこの間は中途半端に終わらせちゃったし、確かその時に修学旅行の夜がどうとか言って、なんかめちゃくちゃ根に持たれていたような。
あの時は漏らした羞恥心と自分がスッキリしてたのもあって拒否っちゃったけど、そういや珍しく有坂はめちゃくちゃ真顔で凹んでいなかったか。
あれ、てかその前はいつ最後までしたっけ。
ちょっと背筋にひやりとした物を感じたが、有坂が着替えてくるというので慌てて頷く。
「結城」
「っえ?」
出際に突然腕を引かれて、耳裏に押し付けるようなキスをされた。
思わずヒッと声が裏返る。
有坂は何を言うでもなくすぐに部屋を出て行ったが、一瞬掴まれたその手は驚くほど熱を持っていた。
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