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パタパタと走る仲居さんの足音や、食べ終えた食器を運ぶカチャカチャという陶器の音が襖の外から聞こえてくる。
まだ昼時ですぐ側に人もいるのに、俺を抱きしめたまま有坂の唇が首筋を滑る。
「…ッあ」
不意に鎖骨を吸い上げられて、身体が震えてしまう。
ピリッとした鈍い痛みの後、有坂がどこか満足げに俺の鎖骨を指でなぞる。
「白い肌によく映えるな」
カッと身体が熱くなる。
たぶんキスマークを付けられたんだろうけど、有坂はこうやって俺にちょいちょい痕を残してくる。
有坂がしたい事なら受け入れるけど、ここは和服で過ごさないといけないから首元は見られないかちょっと心配だ。
「…あ、有坂。なんか最近エロいぞ」
「自覚はしている。正直お前に触りたくて仕方ないんだ」
「じ、自覚してたのかよ」
「嫌か?どうやら俺はお前に骨抜きにされているらしい。可愛くて堪らない」
率直な愛情表現と共に、再び首筋に舌を這わされる。
本当にいつになく積極的だ。
今まで有坂のエロモードがどこで切り替わるのか分からなかったけど、今回は本当に分かりやすいほどすぐスイッチが入る。
俺としては積極的に可愛がりまくってくれる有坂とか願ってもない展開だ。
どこまでも無限に可愛がって欲しいし、俺の人生それだけで安泰だ。
有坂がくれる愛情にとろりと甘く意識が沈み、されるがまま自分も有坂の背に手を伸ばす――が、突如俺の視界に入り込んだこの世で一番ヤバイものに気付いて一瞬で青褪めた。
「っあ、有坂。だ、ダメだ」
「そう言わないでくれ。少しだけだ」
「い、いやガチでダメだってっ、そ、そ、外っ」
「――は?」
俺の言葉で有坂が後ろへ振り向く。
そこにはホラー映画ばりに鬼の形相をした女将さんが窓の外で立っていた。
「桐吾さんは今後しばらく、館内での益男さんとの接触を禁止します。高校生ですからそういう事に興味過多になるのは分かりますが、全く猿でもあるまいし場所を考えなさい。貴方がここまで馬鹿な事をするとは思いませんでしたよ」
「すみません」
有坂が正座でめちゃくちゃに叱られてる姿を初めて見た。
確か去年もこんなことがあった気がするが、女将さんはマジで監視カメラの能力でも持ってるのか。
「わ、若旦那どうなすったんですか?あんなに女将に叱られているのを初めて見ましたが…」
「えっ?さ、さぁ…あ、有坂もまだまだ中身は子供って事だろ」
「いやー、いつも高校生とは思えない程しっかりされているので、ビックリというか逆に新鮮というか」
周りの従業員も驚いていたが、俺だって内心バクバクだ。
女将さんに俺も一緒に怒られるかと思ったが、なぜか俺は怒られなかった。
まああれは明らかに有坂が俺を襲っているように見えた、ってのもあるけど。
とはいえせっかくこれから有坂とずっと一緒にいられると思ったのに、しばらく接触禁止とかありえないことになってしまった。
最高潮になってたテンションが一気にガタ落ちに逆戻りして、仕方なく一人で勉強するため長屋へ戻ることにする。
外に出ると冷房が効いてる館内とは違って、一気に熱気が押し寄せてくる。
自然が多い環境ということもあって、同時にけたたましい程ミンミンと鳴く蝉の声が耳を劈く。
玄関横を通り抜けようとして、ふと田舎女が突っ立っていることに気付いた。
暑いのに額から汗を流しながら、じっと立っている。
ただでさえドジで人に迷惑掛けてるのに、熱中症で倒れられたりでもしたら堪らない。
「おい、お前何してんだよ。休憩中だろ」
「――えっ、わっ、益男さん。その、もうすぐ私の部屋担当のお客様が帰られると思って…」
「だからなんだよ。今は仕事時間外だろ」
「あ、えっと…」
そう言っている間に、後ろから客の声がしてくる。
休憩中だし無視してさっさと長屋へ行こうとしたら、田舎女がしっかりと頭を下げる。
「ああ、琴乃ちゃん。わざわざお見送りまでしてくれて有難う。お陰様でとても楽しかったよ」
「…わ、そう言っていただけて光栄です。至らぬ点も多々あったと思いますが、お優しい言葉本当に有難うございます…っ」
「いやいや。本当に丁寧にサービスしてもらって、また来年も家内と琴乃ちゃんの顔見にくるからね」
「あっ、有難うございますっ」
そう言って親しげになんか話をしている。
客と仲良くなるとか俺的にはありえないが、この田舎女の人柄なんだろうか。
ドジばっかして従業員には迷惑かけまくってるくせに、客からの印象は悪くないらしい。
一応場に居合わせたし、仕方ないから俺も隣に立って客が見えなくなるまで頭を下げてやる。
終わって一息つくと、田舎女がぺこりと勢いよく俺に頭を下げた。
「す、すみません。休憩中なのに」
「いやお前も同じだろ」
「あ…いえ、私のお客様だったので」
「お前のお客様って言うけどさ、別に適当に担当割り振られてるだけで見送りする奴は他にいんだから、そこまでする必要ねーだろ」
実際は女将さんが割り振ってるから、適当とかじゃないんだろうけど。
そう言ってやると、どこかモジモジしながら田舎女が顔を赤らめる。
一体なんだ。
「…その、少しでもお客様に最高の思い出を作って帰って頂きたいので。で、でもドジばかりしてる私がそんなこと言うなんておかしいですよね」
そう言ってすみません、すみませんとまた何度も俺に謝る。
挙句の果てにまた泣きそうになってるし。
ここでまた泣かれても鬱陶しいし、邪険にしたらまた有坂にチクられる可能性もある。
仕方なく小さく息を吐きだすと、ポンと目の前の黒髪に手を落とした。
「まあ、いいんじゃねーの。俺には出来ない事だし、ちょっと見直した」
俺は有坂以外の他人に媚びるのがこの世で一番嫌いだ。
仕事だから客には下手に出てやるが、それ以上の時間外サービスだとか笑顔の安売りをするつもりはない。
自分の価値の方が客より圧倒的に高いと思っている。
「わっ…あっ、有難うございますっ」
俺の言葉で感動したように目の前の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
あっという間に茹でダコみたいになって、しどろもどろに視線が泳いでいる。
まあ俺と話した奴は大抵そうなるから、見慣れた反応だけど。
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