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「…有坂?」
小さく首を傾けたら、ハッとしたように有坂が俺を見つめる。
なんだろう。
なんかちょっと気まずそうな顔をしているような。
あれ、この顔はなんか隠してるような。
ここ最近磨きに磨かれた男の勘がピンと来て、じっと目を細める。
「なんだよ。もしかして浮気してんじゃねーだろうな」
「馬鹿を言うな。浮気などするはずがないだろう」
そう言って有坂は俺の身体を離すと、一つ息を吐き出す。
「結城、落ち着いて聞いて欲しいのだが」
「な、なんだよ急に。嫌だ」
「そうか」
それきり有坂は口を閉ざしてしまった。
改まって言うから反射的に嫌だって言っちゃったけど、そこはもっと粘ってこいよ。
気になるだろーが。
「い、言えよ。有坂の事は全部聞きたいって言っただろ」
戸惑いながらぽつりと呟くと、優しい手がゆるりと俺の頬を撫でる。
気難しそうな顔で一つ頷いてから口を開いた。
「花澤とは以前、交際をしていた事がある」
「――えっ」
交際ってなんだ。
まさか、付き合ってたって事か。
もしかして元カノってやつか。
田舎女と有坂が?
「中学の時の話ではあるが。もちろん今は互いにそういった感情はない。だが弟たちはアイツに懐いているから、そういう発言をしたのだろう」
有坂は淡々と言ったが、ぐわんぐわんとその言葉が頭の中に木霊してる。
「こ、交際って…恋人?」
「そうだ」
改めて確認して、鈍器で殴られたみたいな衝撃を受けた。
嘘だろ。
頭がフラフラする。
有坂の元カノ。
前にハルヤンとそんな話をした気がするが、まさか本気でそんな奴がいたとか。
「…す、好きだったのか」
呆然としたまま、聞きたくない言葉が勝手に口から滑り落ちる。
やばい。
これは有坂に聞いたらダメなやつだ。
「い、今の俺みたいに…アイツのことも可愛がってたのか」
聞きたくないのに、言葉が止まらない。
有坂の手が宥めるように俺の髪に落ちてくる。
「結城、過去の話だ。今のお前が何か気に病むようなことはない」
「す、好きだったのかって聞いてんだよっ」
――これは絶対に、有坂に聞いたらいけないことだ。
だって俺は有坂が適当な奴じゃない事を、良く知っている。
嫌な言葉を聞いてしまう。
有坂は俺の態度に苦々しく眉を寄せたが、少ししてぽつりと口を開く。
「…ああ。もちろん大切に思っていた」
その瞬間、頭の先まで血が沸騰するような感情が込み上げる。
目の前が真っ赤になって、勢いよく有坂の身体を押しのけた。
「――っ嫌だ」
込み上げる気持ちが、爆発しそうなほど自分の中で膨れていく。
有坂が俺以外と付き合ってたことがあるなんて嫌だ。
俺にしてたのと同じことを誰かにもしてたなんて嫌だ。
俺以外を好きだったなんて、絶対に嫌だ。
「結城、落ち着いてくれ。俺は今何よりもお前を――」
「う、嘘つきっ。俺だけって言ったのに。俺の事好きだって言ったのに他の奴も好きだったのかよっ」
「過去の話だ。過去はどうしたって変えることは出来ない。受け入れてくれ」
「――無理だっ」
もう有坂の顔なんか見たくなくて、そのまま逃げるように旅館へ走る。
有坂がすぐに追いかけてきたが、旅館の中へ入ったら鋭い女将さんの声が飛んできた。
だけど今は構ってる暇なんてなく、俺は自分の部屋へと駆け抜けた。
「マスー?美味しい物いーっぱいあるわよ。お土産もたっくさん買ったのよ。マスが欲しい物もきっとあると思うわ」
「おーいマス。何があったんだ?具合悪いのか?」
布団にくるまって塞ぎ込む。
観光から帰ってきた母さんとアサ兄が布団の周りでソワソワしていて鬱陶しい。
塞ぎ込んだまま無視してたけど、とうとう母さんが医者を呼ぼうとしたから慌てて布団から出て止めた。
仕方なく二人には適当に言い訳をして、買ってきてくれたご当地アイスでも食って気を紛らわせる。
縁側の縁に座りながら、夜空を見上げてため息を吐く。
有坂から逃げてきてしまった。
あの話を聞いたら頭が真っ白になって、どうしても抑えきれなかった。
でも考えてみれば、思い当たるところがなかったわけじゃない。
有坂はちょくちょく田舎女の肩を持っていたし、俺の知らない話だって二人でしてたし、そういえば図書館でわざわざ別の席に座ったのも俺と三人だと気まずかったからか。
つーか朝宮さんならただの面食いかよと思えるけど、なんであんな素朴な田舎女なんだ。
考えれば考えるほどイライラとムカついてくる。
イライラが収まらないから、ムカついたままハルヤンに電話して愚痴ってやる。
「なんなんだよ。どう考えたってあんなドンくさい田舎女より俺の方が絶対カッコいいし、可愛いだろっ」
『ぷ、なにその当て馬キャラみたいな発言。マッスーって当て馬の才能ありそうだよね』
「はぁ?この俺が当て馬キャラなわけねーだろっ」
『いやその気弱な田舎女ちゃん目線だと、わりと少女漫画の主人公になり得るような――』
ムカつくから電話を切ってやった。
アイツじゃ話にならない。
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