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どれくらい経っただろう。
しばらく座っていたが、ふと鈍い頭の痛みに気付く。
「…喉乾いた」
思い出したように顔を上げると、すぐ近くにあった自販機で飲み物を買おうと立ち上がる。
が、そういえば俺は基本金を持ち歩かない。
いつもご飯を食べに行っても有坂が全部出してくれるし、何か欲しい物がある時はこれを使えばいいって母さんにカードを持たされてる。
でもカードは自販機では使えない。
こういう街だからコンビニがどこにあるのかも分からないし、適当な飲食店ならたくさんあるが、一人でその手のお店に入るのはもう嫌だ。
仕方なく眺めるだけで買わずにベンチに戻ろうとすると、真後ろから浅黒い手が伸びてきた。
お金を入れて、ボタンを押す。
ガタンと音を立てて落ちてきたスポーツドリンクを手に取ると、そのまま俺に差し出した。
「熱中症になったらどうする。外に出るなら水分はちゃんと取れ」
「――有坂。なんで」
どうしてここが分かったんだろう。
というか今は仕事中のはずだ。
受け取らずに呆然としていたら、キャップを開けて飲めと促される。
「顔が真っ赤だ。体調は悪くないか」
「…平気」
頭が痛かったが、今何か余計な事を言ったら有坂に捨てられてしまいそうだ。
ペットボトルを受け取ってごくごくと流し込む。
気付かなかったけどめちゃくちゃ喉が渇いていて、あっという間にほとんど飲んでしまった。
「…あ、有坂。仕事は?」
「女将に午後の仕事は出なくていいと言われた。…それからお前の様子を見てこいともな」
「女将さんが?」
ちょっと驚いたが、有坂が自分から探しに来てくれたわけじゃないのか。
有坂は俺を追いかけようとは思ってくれなかったってことか。
「戻るぞ。ここにいてはまた去年のように体調を崩す」
「い、嫌だ」
「結城」
戻ったら有坂はまた仕事に行って、それで田舎女とイチャイチャするに決まってる。
俺はもう女将さんに仕事をしなくていいって言われたし、俺の知らないところで二人が仲良くしてるなんて耐えられない。
「結城、俺と花澤の件でお前が気に病んでいるのは分かる」
「…っ」
「だがアイツと俺はもうそういう間柄ではないし、互いに気持ちもないと言っただろう」
じゃあなんでアイツの肩を持つんだ。
どうして俺の方を追いかけてきてくれなかったんだ。
「で…でも嫌だ」
「別に花澤と仲良くしろとは言わない。だが同じ職場の仲間である以上、最低限の接触はしてやってくれ。何より仕事に支障が出る」
「…な、なんでアイツの肩持つんだよっ」
「肩を持っているわけじゃない。ただ先程の結城の行動は間違ってると言っているんだ」
そう言われてビクリとする。
まさか有坂は俺を怒りにきたのか。
謝りにきてくれたんじゃないのか。
「お、俺が悪いのか。有坂も俺の事怒るのかよ」
「頭ごなしに怒っているわけではない。自分の行動を見直して欲しいと言っているんだ。先程の態度はさすがにやりすぎだ」
「…っあ、有坂が悪いんだろっ。有坂がアイツと付き合ったりなんかするから、だから嫌な気持ちになって――」
「過去の事だと何度も言っているだろう」
「でも嫌だ、も、もうアイツと喋るなっ」
言葉が止まらない。
頭がガンガンと痛い。
蝉の鳴き声がうるさい程耳に残る。
「――なぜ分かってくれない」
落ち着いているが、どこか強くなった口調にビクリと心臓が跳ねる。
有坂が怒った。
直感的にそう感じて、一気に心臓が縮こまる。
「結城にとっては過去の俺の方が大事で、今の俺は見えていないのか」
「そ…っ、そうじゃないけど…」
「お前が何を言おうと過去は変えられない。それに俺は過去の自分を恥じているわけでも、無かったことにしたいとも思っていない。そこから学んだことがあるからこそ、今お前とこうして共にいると思っている」
「で、でも…」
「他人を無視しろなどという子供じみた考えに賛同はできない」
ピシャリと言われた。
有坂にここまで言われたのは初めてで、絶句してしまう。
いつもなんだかんだ追いかけてきてくれて、最後は俺の味方をしてくれたのに。
もう何も言葉がでなくて呆然としていたら、不意にキッと車が後ろで止まる音がした。
ガチャッと車のドアが開く音がしたが、今はそれどころじゃない。
有坂と見つめ合ったまま、立ち尽くしてしまう。
真っ直ぐな黒い瞳を見つめていたが、一気に込み上げるように目蓋が熱くなる。
「……っ」
喉がヒクリと震えて、俺の目からそれが零れ落ちそうになった、一瞬の間。
「あっれー?そこにいるイケメンさんは誰かなー?マスくんかなー?おっきくなったねーっ。パパだよぉー」
全くこの場と雰囲気に似つかわしくない声に、俺と有坂の白けた視線が突然現れたオッサンを貫いた。
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