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「…っあ、あっれー?なーんでそんな怖い顔してるのかなー?マスくーん、パパの顔忘れちゃったかなぁ?」
麦わら帽子に、アロハシャツ。
ここに海はないがなぜか浮き輪までつけて、相変わらずヘラヘラした顔を浮かべている。
不意にグイと腕を引かれて有坂の背後へ引っ張られた。
「結城、危ないから下がっていろ。変質者なら俺が――」
「あ、ま、待って有坂。違うんだ。と、父さん」
「…は?」
「だ、だから俺の父さん」
完全に有坂に不審者扱いされそうになってるが、さすがにそこは訂正しておく。
母さん同様バカンス気分で来たんだろうが、間が悪すぎる。
そしてチャラついた格好の父さんの後ろで、ザッとスーツに身を包んだボディーガード達が並んでいる。
見るからに暑そうな黒スーツはどう見ても観光地には不釣り合いで、周囲を歩く人たちもドン引いている。
一応これでも父さんは大手企業の社長で、普段はちゃんとスーツも着ているし、母さんの話では会社では冷酷と呼ばれるほどかなり厳しい人らしい。
見たことないけど。
「マスくーん。会いたかったよぉー。ママも一緒じゃないのかな?」
が、クソがつくほど家族バカだ。
こんな家族に囲まれて生きてきたら、そりゃ俺の人生もおかしくなるってわけで。
「…あれ、隣の子は?ま、まさかうちの可愛い子をイジメようとしているんじゃ――」
そうこうしているうちに有坂の顔付きで勝手に誤解したらしい父さんが、ハッと表情を強張らせる。
同じように後ろのボディーガード達の視線が鋭くなったから、慌てて割って入った。
「ち、ちげーよ。今回泊まりに来てる有坂旅館の息子なんだ。俺の同級生で、有坂はえっと俺の大事な――」
言葉の途中で、言い淀む。
でもすぐに口を開いた。
「と、友達」
さすがにいきなり恋人とか言えない。
つーかいきなり親にカミングアウトとか普通出来ないだろ。
「初めまして。同級生の有坂桐吾です。益男君にはいつもお世話になっています」
「あーっ、キミがあの噂の。ママから話は聞いてるよー。マスくんの大親友なんだってね」
「…はい」
「ほら、ここは暑いだろう。車に乗って。旅館まで二人を送っていくから」
「有難うございます」
そう言って父さんは俺達を黒塗りのリムジンへと促す。
正直なんか頭痛いしフラフラしてきてたから助かった。
それにタイミングは最悪だったけど、父さんの登場がなかったらあのままあそこで大泣きしていたかもしれない。
父さんの到着で、また旅館の中が騒がしくなる。
ちなみに俺の父さんは純粋な日本人で、金髪でもないし普通に黒髪黒目。
まあ俺の親父だから顔立ちはそこそこ整ってるとは思うが、それでもその辺によくいる中肉中背のオッサンだ。
「パパぁ、もーおそーいっ。ずっと待ってたのよー」
「ママごめんねぇ。仕事が中々片付かなくてね。明日からは一緒に観光行こうね」
「ふふ、パパと行きたい場所がたくさんあるんだぁ」
俺とアサ兄がシラケた視線で見つめる中、さっそくイチャイチャキャッキャと盛り上がっている。
うちの両親は年甲斐もなく馬鹿が付くほど仲が良い。
二人でしょっちゅう旅行に行ってるし、お互いにベタ惚れなのが周りに迷惑なほど伝わってくる。
子供そっちのけであっという間に二人の世界だが、俺はようやく冷房が効いた部屋に戻れたことでぐったりと横になった。
結局有坂とはタイミングを失って、あのまま話はしてない。
旅館に着いてからは女将さんやら有坂父やらが挨拶に来て一気に忙しなくなったし、俺は頭も痛かったからさっさと部屋に戻った。
布団に横になっても、頭に思い浮かぶのは有坂しかいない。
俺に謝りに来てくれたと思ったのに、むしろ思いきり怒られた。
有坂は俺に一言も謝らなかった。
それは自分が悪いと思ってないからだ。
俺を置いて田舎女の肩を持ったことも、悪いと思ってないのか。
それどころか俺の方が間違っていると、なんで分からないんだと、子供だって言われた。
親にも言われたことのない暴言をたくさん吐かれた。
「……っ」
今頃また苦しくなってきて、ぼろりと涙が零れる。
でも有坂がそう言うなら、そうなのかもしれない。
もしかしたら俺は悪い事をしてしまったのかもしれない。
いつだって有坂の言うことは間違ってない。
だけど素直に全部を受け入れるのは、どうしても苦しい。
有坂が大好きだから、俺以外を少しだって見て欲しくなかった。
俺には有坂しかいないから、俺の気持ちを分かって、俺だけの味方をして欲しかった。
一度流れ出した涙はなかなか止まらなかったが、日中の疲れもあっていつの間にか眠りに落ちていた。
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