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――は、と目を覚ます。
辺りは薄暗く、枕元の行燈がぼんやりと一つ付いているだけだ。
どうやら爆睡していたらしい。
身体を起こすと頭の痛みは消えていて、むしろスッキリしていた。
ホッとして隣を見ると、すぐ側に俺宛てらしい土産が山ほど積んであってちょっと引いた。
どうせ父さんだろうが、海外から帰国したから現地のお土産とかお菓子、それから服にスーツに時計、バッグ、何に使うのか分からない置物まで多種多様に揃っていてぶっちゃけ全部いらない。
その手前には大浴場に行ってくるという書き置きまであって、別にもう子供じゃないんだから勝手に行ってろ。
とりあえず時間を確認しようと携帯を見ると、有坂から着信が来ていた。
全然気づかないで爆睡してた。
ここ最近まともに有坂に返事をしていなかったし、昼だって最悪の雰囲気で終わった。
さすがにこのままだと嫌われそうで怖い。
慌てて掛け直したが出ない。
意地になって20回くらい掛け直したけど出ない。
サーっと顔が青くなっていく。
どうしよう。
怒っていたし、無視されているのかもしれない。
有坂に無視なんかされたら俺の人生一瞬で終わりだ。
慌てて飛び起きると、有坂を探しにいくことにする。
夕飯時を過ぎた旅館内は落ち着いていて、客も従業員もまったりとしていた。
今女将さんに会うのは気まずいしコソコソ探してたが、珍しく女将さんも有坂父の姿も今は見えない。
少しホッとしたが、廊下の角を曲がったところで田舎女とばったり遭遇した。
向こうも驚いたらしく、客間から下げてきた食器を落としそうになったから慌てて支える。
カタカタと揺れたがそれは落とすことなくとどまって、盛大にドジる展開にはならなかった。
「――っす、す、すみませんっ」
何か言うより先に勢いよく頭を下げられた。
そのまま無視することも考えたが、有坂に無視はやりすぎだと怒られたばっかだ。
またそれをして有坂にチクられでもしたら、今度こそ嫌われてしまう。
それに正直有坂に怒られたせいで気持ちは萎えまくっていて、今は田舎女にイラつく気にもなれない。
「…いや、気を付けろよ。俺じゃなくて客だったらまた女将に怒られてたぞ」
「っは、はい。気を付けますっ」
身体を強張らせて田舎女がそう言う。
一応最低限の会話はしたし、これでもう問題ないだろ。
田舎女も俺と関わるのは懲りただろうし、さっさと通り過ぎることにする。
「あ…あの、益男さん。体調は大丈夫ですか?私に風邪が移らないようにわざわざ避けて下さってたんですよね」
「――は?」
「その、せっかく気遣って下さってたのに、何か余計な誤解をしてしまって本当にすみませんでした」
意味分からない事を言いながら懇切丁寧に頭を下げられた。
一体何の話だ。
確かにさっきまでちょっとバテて寝込んでたけど、さすがにそれは知らないはずだ。
「…あ、桐吾さんからお昼の時に話を聞いて。益男さん今お風邪を引いていて、接客業だから周りに移さないようにピリピリしてるんだって教えてくださったんです」
「あ、有坂が?」
「はい。益男さんってやっぱりお優しい方なんですね。気遣ってくださって有難うございます」
そう言って顔を赤らめてほわほわとした笑顔になっているが、ぽかんとしてしまう。
なんで有坂がそんな嘘をつく必要があるんだ。
たぶん場を収めるためについた嘘なんだろーけど、それにしても嘘下手すぎだろ。
つかコイツもよくそれ信じ込んだな。
予想外過ぎる言葉に唖然としてしまったが、田舎女は律義にも俺にのど飴を渡して、もう一度ぺこりとお辞儀をしてから去っていった。
めちゃくちゃに嫌な顔されるか避けられるかのどちらかだと思ってたのに、なぜか褒められて礼まで言われた。
というかあの馬鹿正直で嘘とか絶対嫌いそうな有坂が、なんでわざわざそんな嘘を吐いたんだろう。
正直に俺と今恋人同士で、元カノの田舎女にムカついてたからあんな態度を取ったって言えばいいことだろ。
有坂にしてはさすがに不自然すぎる嘘だ。
そう考えてから、ハッとしてしまう。
もしかして有坂は、俺と恋人だってことを隠したいんじゃないか。
そういえば有坂父に俺を紹介した時ははっきりと恋人だって言ったのに、田舎女に最初に紹介したときは大切な人って言っただけだった。
もしかして俺達の関係を、田舎女にはバレたくないってことなのか。
衝撃的な事実に気付いて、またしても嫌な予感がしてしまう。
早く有坂に会わないといけない。
早く有坂に会ってなんとかしないと、今度こそ本当に捨てられてしまう。
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