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すぐに話そうと思ったけど、改めて話したいことなら父さんがいた方が良いって言うから翌日話すことにした。
別に父さんなんてあんまり家にいないんだからどうでもいいだろ。
とは思ったけど、まあいい時間だしその日は大人しく寝ることにする。
そして翌日。
いよいよ帰る日を明日に控えて、今日は最後にどこへ行こうかという話で朝から持ち切りだ。
俺は有坂と一緒に帰りたいからまだ残る予定だけど、でもそれなら女将さんに謝りに行かないとダメだ。
有坂も昨日の夜早く謝れって言ってたけど、でも俺は謝られるのはいいけど謝るのは苦手だ。
どうしようかと悩んでいると、朝食を食べ終えたところで母さんが口を開いた。
「マス。何か言いたいことがあるんじゃないの?」
「え?ああ、うん」
そうだった。
一日経ったら頭から抜けてた。
どうせ母さんも父さんも俺の言うことは絶対聞くから、そこの心配はもうしてない。
「パパ、マスが何か欲しい物があるみたいよ」
「いや別に欲しい物っつーか…」
「えっ、ホント?マスくん、パパが島でも車でもなんでも買ってあげるよぉ」
いつもそんなに強請らないから、ここぞとばかりにヘラヘラ顔でそう言われた。
どうせ車持ったって運転手がいるから自分で運転なんかしないし、島だって買ったところで有坂がいないんじゃ…でも二人きりになれる場所って意味ならちょっとアリだ。
「そーじゃねーよ。進路の話なんだけど」
「あらあら、そんなことを考えるなんて大人になって…」
「ママ、泣かないで。マスくんだって成長するんだよぉ」
「パパぁ」
ちょっとイライラして来た。
有坂の家と俺の家はマジで違う。
女将さんまではいかなくていいけど、もうちょっとこう、なんかねーのか。
「もういいや。俺有坂と同じ大学に行くからな」
「あらあら、目標が出来るのはとてもいいことね」
「それこっちの大学だから。家出るけど別にいいだろ」
そう言ったら、は、としたように母さんと父さんの表情が固まる。
珍しく顔つきが変わったからビクリした。
「…あら、マス。もしかしてそれは一人暮らしを始めるって事?」
「えっ?…いや、出来ればここで住み込みで働きながら大学に通いたいなって」
「女将さんがそれを許したのかしら?」
「違うけど…で、でももし大学がダメなら就職して住み込みだってしてもいいし」
俺がここ最近ずっと考えてた事だ。
有坂と一緒にいるために、俺がこっちに来る選択肢もあるってことは田舎女の言葉で気付いた。
就職試験の参考書とかノートとかも田舎女に借りてみたけど、俺の頭脳なら何も問題はなさそうだ。
ただ一人暮らしとかそういうのはしたことないし、有坂とずっと一緒にいたいから、今みたいに旅館に住み込みで大学に通いたい。
「うーん、お母さんそれは難しいと思うわ」
「えっ」
珍しく母さんが否定的で驚く。
なんでだ。
いつも俺の言うことは何でも聞いてきただろ。
「マスくん、こっちの大学に行きたい理由は有坂君がいるからだけかな」
不意に父さんにそう言われて、コクリと頷く。
それ以外何もないけど、有坂は俺にとって何よりも大切な存在だからそれで問題はない。
「ならマスくん、父さんもそれは反対だな」
「――えっ」
「そうよねえ。それに第一女将さんも許してくれないんじゃないかしら…」
まさかの二人に否定されて驚く。
こんなの初めてだ。
親に否定された事なんて、今まで一度だってなかったのに。
「じゃ、じゃあ女将さんに俺が働けるように母さんがまた言ってくれよ。俺は有坂と一緒じゃないと絶対に嫌だ」
「そうねえ。でも子供の進路のことは、他の親が何を言っても譲らないと思うわ」
「で、でも俺は有坂と一緒じゃないと…」
「マスくん、それは有坂君も同じことを言っているのかい?マスくんがこっちで同じ大学に通うことを賛成しているのかな」
そう言われて身体が固まる。
有坂は最終的には俺と一緒の大学に行きたいとは言ってくれたけど、でも今まではどちらかというと否定的だった。
それにこっちの大学にって話は俺がここ最近考えてただけで、有坂はまだ知らない。
「ま、まだ言ってないけど。でも有坂は喜んでくれると思う。元々こっちの大学に行きたいみたいだったし」
「本当に?有坂君はマスくんがこっちに来たら逆に困るんじゃないかな」
「…はぁ?有坂が俺と一緒にいること困るわけねーだろ。夏休みだって俺が働くの助かるって言ってくれたし」
「大学に通いながら仕事をし続けるのと、高校生の長期休みに少し働くのでは訳が違うからね」
父さんにそう言われて、グッと言葉に詰まる。
なんなんだよ。
いつもヘラヘラしてなんでも俺の言う事聞いてるくせに、なんでいきなりそんな真面目になるんだ。
「う、うるせーな。なんでもいいから俺は行くからな」
「…そうだなぁ。まあ人生一度しかないし、お金にも立場的にも困らない環境に生まれた子だから、パパもなるべく好きにはさせてあげたいんだけどね」
「な、なんだよ…」
父さんの物言いに不安になる。
こんな風に両親と真面目な話をするのも初めてだし、いつもと違う反応に戸惑ってしまう。
「今回のその我儘だけは、パパもママも聞いてあげられないかな。何より人様にご迷惑を掛けてしまうからね」
「め、迷惑ってなんだよ。誰に――」
「そうだね、女将さんや旦那さんにも迷惑はかけると思うけど…一番は有坂君だね」
そう言われてカッと頭に血が昇る。
そんなわけないだろ。
有坂が俺の事迷惑だなんて思うはずがない。
有坂と俺は恋人同士で、ずっと一緒にいないといけないんだ。
俺と有坂の事、何も分かってないくせに。
「――もういいっ。話になんねえ」
そう言って立ち上がる。
部屋を出て行こうとしたら慌てたように父さんと母さんに止められたが、今日は観光には行かないって断った。
こんな気持ちで遊ぶ気になんかなれない。
心臓がバクバクしていて、苛ついているのに恐怖が次々と這い上がってくる。
今までなんだって俺の思い通りになってきたのに。
このままだとまずい。
このままだと、有坂と離ればなれになってしまう。
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