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うん、まあ大体予想してたけど、連れてきてもらった有坂の部屋はこざっぱりとしたシンプルな部屋だった。
勉強机、本棚、ベッド、中央にテーブルと最低限の物しか置いてない。
安定の潔癖症でベッドは毎日使ってるはずなのにピシッと整えられているし、長期休みしか帰ってこないのに埃だって一つも落ちてない。
窓までピカピカに光ってる。
正直向こうの学生寮の部屋と大して変わらない。
と思ったが、それでもふと違いに気付く。
「うわ、すげえ。これ全部有坂のか?」
「そうだ」
弓道のトロフィーやら賞状がたくさん飾ってある棚を見つけた。
中学時代のだけかと思いきや小学生の時に取ったものまであって、数が多くてビックリする。
そんなに子供の頃から有坂は弓道をやっていたのか。
見たら写真も飾ってあって、たぶんじいちゃんと思われる人と一緒に映ってる。
興味津々でキョロキョロしてたが、有坂は特に気にした様子もなく俺に背を向けた。
「別に結城が楽しめるような面白い物などない。飲み物を持ってくるから待っていてくれ」
そう言って一階へと降りて行く。
とりあえずベッドにダイブしたら、ふわりと有坂の匂いがして嬉しくなる。
思わずゴロゴロしたり、ちょっと部屋の中を物色していたらすぐに有坂が戻ってきた。
「なぜこんなに汚くなっている」
「――えっ?」
開口一番言われたが、別に有坂の中学時代のアルバムを本棚で見つけてベッドの上で見ていただけだ。
ただちょっとアルバム出した時に本を落としたり、ちょっと机の引き出し開けてみたり、ちょっとクローゼットの中が気になって服とか引っ張り出してみただけだ。
じとりとなぜか目を細められたが、有坂はテーブルにお菓子とジュースを置くと、床に散らばっている物を拾い上げては黙々と元に戻していく。
せっかく俺が来てるのに相変わらず几帳面だ。
テーブルでジュースを飲みながら、有坂の中学時代のアルバムを開く。
今と1ミリも変わってない。
どの写真を見ても真顔だし、身長もデカい。
一体いつからデカいんだ。
「そんなものを見て面白いか」
一通り片づけを終えたらしい有坂が、俺の隣に腰を下ろす。
「うん、面白い。有坂の子供の頃のアルバムとかもあったら見たい」
「この部屋にはないな。女将が管理しているから、聞かなければ分からない」
「じゃー今度見せてくれよ。子供の頃の有坂とか、すげー興味ある」
ニシシと笑って言ってやる。
考えたらキッズ二人は全然性格違うし、もしかして子供の頃は有坂もあんな風にはしゃいだりしてたのか。
だとしたらどうしてこうなった。
「…ふむ。理解できないと思ったが、逆の立場だと思えば気持ちは分かるな。なら今度結城の家へ行った時に、俺にも子供の頃の写真を見せてくれるか」
「いいけどすげーあるし、なんなら母さんが映画化してるぞ」
「なに、それは興味あるな」
全18巻だ。
毎年誕生日が来るたびに母さんが業者に頼んで一年間の俺の成長を映画化して父さんと上映会してる。
俺は興味ないから見たことないけど。
そんなことより有坂のアルバムの方が楽しくて、表情を緩ませながらページをめくる。
変わっていないと言えば田舎女も変わってない。
いや、中学の頃の方がもっともっさい。
よく有坂これと付き合おうと思ったな。
てかそもそも、なんで付き合うことになったんだ。
まさか有坂から告ったのか。
一度そう思ったら、超気になってくる。
「まだ気に病んでいるのか?」
同じページで固まっていたから、有坂にバレたらしい。
気になりまくってるけど、でも今有坂に余計なことは言いたくない。
過去より今の自分を見て欲しいって怒られたばっかだし。
なんて答えたら良いのか分からず視線を彷徨わせていたら、有坂が小さく息を吐きだす。
それから何か思い出すように、フイと視線を持ち上げた。
「…中学三年の冬だ。俺が卒業後に上京することを聞いたらしく、花澤に思いを告げられた」
「えっ」
不意に話す気になった有坂にちょっと驚いたが、それより意外すぎるだろ。
まさかの田舎女から告ったのかよ。
小心者かと思いきや、結構肝が据わってるらしい。
「雪の中俺が出てくるのをずっと待っていてくれてな。面識はクラスメイト程度だったが、健気な姿に心を打たれ、前向きな返事をした」
チクリ、と心が痛む。
有坂から好きになったわけじゃないにしろ、有坂の心を田舎女が動かしたのかと思うとやっぱりムカつく。
「だが当時アイツは母親の体調が悪くてな。俺も今と変わらず習い事や家の仕事が忙しく、お互いにあまり時間が取れなかった。卒業して遠距離になると、花澤に好きな人が出来たと言われあっさりと関係に終わりを告げられた」
「――えっ?ふ、フラれたのか」
「ああ。情けない話だが、自分に非がある事も分かっている。だからアイツが俺に気があるなどという事はないんだ」
「…そうだったのか」
ちょっとビックリした。
まさか田舎女から告って田舎女から振ったとか。
「薄情な奴だと見損なったか?」
「ぜ、全然っ。むしろアイツが振ってくれて良かったっ」
慌ててそう返したが、マジで有坂を振るとかありえない。
間違いなく人生全部損してる。
むしろ有坂ナシとか人生詰んでる。
「だからお前が気に病むことは、本当に何も無いんだ」
「…で、でも嘘ついただろ」
「嘘?」
俺の言葉に有坂が眉を寄せる。
ちょっとビクリとしたけど、でもここまで言ったらもう聞かない訳にはいかない。
「こ、琴乃に…俺が風邪引いたからピリピリしてるって。だから怒ったんだって嘘ついただろ」
そうだ。どう考えたってそこはおかしい。
有坂は父親には堂々と言ってたのに、田舎女には俺とのことを隠した。
あの有坂が下手くそな嘘を吐いてまで隠すとか、絶対におかしいんだ。
俺の男の勘が、めちゃくちゃに浮気警告を発動している。
「確かにあれは見苦しい嘘だが、お前との関係を隠すためには止むを得ないと思った」
「な、なんで隠す必要があんだよ。正直に言えばいいだろ」
「結城は俺たちの関係を人に知られるのが嫌なのだろう?」
「…えっ?」
そう言われてぱちりと瞬く。
俺の反応に、有坂が怪訝そうに首を傾げる。
「違うのか?両親に友達と言われて紹介されたから、ずっとそうだと思っていたのだが…」
「――っあ、あれは…」
ハッとしたが、確かに母さんにも父さんにも有坂を紹介したときは友達だって言った。
もしかして有坂は、ずっとそれを気にしていたのか。
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