アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
----side有坂『恋人同士の在り方』
-
結城をしっかりと家まで送り届けて、久しぶりの寮へと帰る。
既に戻っていた同じ寮の友人達と一か月ぶりの再会を分かち合いつつ、買ってきた土産を渡す。
「――えっ、王子と一緒に実家!?…前から思ってたけど、有坂ってよく王子と仲良くできるよなぁ」
「だよな。金髪碧眼のイケメンとかファンタジーすぎて、直視するのも俺無理なんだけど」
口々にそう言われたが、確かに結城の容姿は見れば見るほど美しい。
しかもここ最近更に磨きが掛かり、美しさだけでなく男の理性を狂わせるような色気まで溢れている。
すっかりそれにやられて、受験生にも関わらず実家で結城を抱き潰してしまったのは記憶にも新しい。
「外見は確かに美しいが、アイツの中身は普通の高校生と何も変わらない。敬遠せず仲良くしてやってくれ」
「…そう言われても高嶺の花すぎるっつーか、話しかけちゃいけないオーラがなぁ」
「そんなものはない」
「いやあるだろ」
むしろ話しかけて欲しいオーラしか感じないのだが。
今日も結城を家まで送って行ったが、俺の腕にしがみ付きながら帰りたくないと可愛い事を言ってくれた。
さすがに結城の帰宅を家族が待っているのに連れて帰る訳にもいかず、後ろ髪引かれる思いで寮へ戻ってきたところだ。
自室に戻り荷物の整理をしてから、部屋の掃除をする。
一段落着いたところで、携帯が音を立てた。
見れば朝宮からで、夏期講習での大まかな内容を送ってくれていた。
朝宮は野球部での繋がりやクラスメイト、また席が近い事もあり、気付けば親しい友人の一人となっている。
帰省していて学校の夏期講習を受けられない俺のために、講習で受けた有用な受験対策等を度々送ってくれている。
素直に有難い。
代わりといってはなんだが朝宮の苦手な教科に対しての質問はよく受けていて、俺もなるべく分かりやすい形で回答やアドバイスを出来るよう心掛けている。
お互いに高め合える、良き受験戦争の仲間だ。
本来なら結城ともこのような関係を築いていけたらと思うのだが、結城にとってそれは重荷でしかない。
高校三年生が必死に取り組んでいる受験勉強など、結城は遊びの邪魔程度にしか思っていない。
だがそれは結城の性格のせいだけではなく、いまいち集中できないのは間違いなく目指す大学のレベルが自分よりも低いからだろう。
結城との進路については、自分の中でもう答えは出ている。
ただやはり、結城にどう伝えるかという点で悩んでいる。
アイツの悲しむ顔は見たくない。
だがこればかりは、結城のためにも考えを改めねばならないと思っている。
何よりも大切に思っているからこそ、アイツのためにならないような選択肢を俺は取りたくない。
携帯を見つめたまま立ち尽くしていると、不意に電話が掛かってきた。
朝宮だ。
今しがた返信したところだが、何か問題があったのだろうか。
『あ、有坂君、久しぶり。こっちに帰ってきたんだね』
「ああ。先程着いた」
『そっかぁ、お疲れ様。ごめんね、突然電話しちゃって…』
「どうした。何かまた分からないところがあったか?」
『あ、えっと…』
聞くと、電話の奥でどことなく朝宮が言い淀む。
どちらかといえばいつもハッキリとした物言いをするから、珍しい。
「なんだ。何か進路で悩んでいるのか」
『あ、うん。それもあるんだけど、夏休みの最後に少し時間を取れないかなって』
「時間?」
『うん。夏も終わったら本格的に受験シーズンだし、気晴らしに夏祭りに行こうってみんなで話してるんだぁ。それで有坂君も来れないかなって』
「…そうだな」
せっかくの誘いだが、考えてしまう。
正直今俺は、あまり遊んでいる時間などない。
夏休みはまだ一週間と少し残っているが、残りの時間はもう少し根を詰めて受験勉強に取り掛かろうと思っていた。
『あ、もちろん結城君も誘っていいからね』
「そうか。行こう」
『やった』
夏祭りと言えば、きっと結城は喜んでくれるだろう。
今年の夏は仕事や勉強ばかりで、結城にはきっと物足りない思いをさせてしまっている。
夏の最後の日くらい、アイツに楽しい思い出を作ってやりたい。
『ぷ、結城君の事出したらすぐ行くなんて、ホント二人とも仲良しだよね』
「…あ、そうだったか。すまない」
どこかバツが悪くなりコホンと咳ばらいをすると、クスクスと電話の奥で楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
確かに俺は、結城に甘すぎるのだろう。
自分でも十分に分かっているが、愛しくて堪らないのだから仕方がない。
『結城君もこの間元カノさんのことで必死になってたし、友達取られちゃうみたいに思ってたみたいで可笑しくて――』
「…なに?なぜそれを知っている」
電話の先でコロコロと聞こえる笑い声に思わず突っ込むと、朝宮がハッとしたように口を閉ざす。
が、すぐにまた声が聞こえた。
『あー…ごめん。実はちょっと結城君に聞いちゃって』
「は?」
『実家帰ったら元カノさんに会ったって話』
朝宮の言葉に驚く。
結城は一体何を考えているんだ。
「どういうことだ。なぜ結城が朝宮にそんな話をする必要がある」
『あっ、いや、ただの世間話だよ。写真が来たから、つい私も話に乗っちゃって…』
「…写真まで送ったのか?人の噂話をするにしても、それは少しやりすぎだろう」
思わずそう言うと、朝宮が言葉を詰まらせる。
一体結城は何を考えているんだ。
人様の写真を無許可に他人に見せるなど、安易にしていいことではない。
花澤が知ったらそれこそ不快な気持ちになるだろう。
『っあ、そ、そうだよね。本当にごめんなさい』
「…ああいや、朝宮を責めているわけじゃない。元々話を持ち掛けた方に非がある」
『う、ううん。私も乗っちゃったから…』
「まあいい。今後結城にそういった話をされたら、朝宮の方からも注意してやってくれ」
『えっと…うん、分かった。じゃあまた、細かい事決まったら連絡するね』
「ああ」
電話が切れる。
携帯を見つめたまま、複雑な思いで立ち尽くす。
まさか俺に黙って陰でそんなことをしているなど、思いもしなかった。
悪ふざけにしても、少しやりすぎだ。
本来恋人同士というのは、互いに高め合える存在であるのが好ましい関係だと思っている。
だが大学の件では互いの意思疎通が取れず、その上結城が俺の過去に囚われ人を貶めるような行動を覚えてしまっては、さすがに居た堪れない。
自分と付き合うことで結城に悪い影響を及ぼすようなことは、少しだってあってほしくない。
一つため息を吐きだす。
今回ばかりは、少し叱ってやる必要がありそうだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
230 / 275