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「――や、やってないっ」
「なぜ嘘を吐く」
「ほ、ほんとにやってないっ」
怖い顔して責められると、思わず否定してしまう。
有坂と旅館から帰ってきた翌日。
せっかく朝からワクワクしながら学生寮に遊びに来たのに、いきなり怖い顔で怒られた。
朝宮さんが田舎女の写真を送ったことチクったらしく、なぜか俺がいけないことしたみたいになってる。
共犯者のくせに俺にだけ罪を押し付けて逃げるとか卑怯だ。
「…結城。呆れた行動の上、嘘まで吐くのか。誰が何と言おうと、朝宮が知っていた時点でお前の口から聞いた意外にないだろう」
確かにそうだけど。
でも俺は今有坂に嫌われるわけにはいかない。
身体を強張らせていると、有坂がため息を吐く。
「結城、やってしまったことはもういい。だが嘘は吐かないでくれ。本音で話してくれるのなら怒りはしない」
「や…やった」
「やはりやったのだな。なぜそんな行動を取った」
「はぁ?怒らないって今言っただろっ」
有坂だって嘘ついた。
逆ギレして声を荒げたが、さらに怖い顔で凄まれると心臓が縮こまる。
「そういう問題ではないだろう。そこに座れ」
そして正座で座らされて朝から説教された。
地味に長くてだんだん不貞腐れてくると「その顔はなんだ」と突っ込まれる。
「もうやってしまったことはいいんだろ。俺は有坂と遊びに行きたいんだよっ」
「お前がそれを言うな。…結城、俺は真面目な話をしているんだ。人を嘲笑うような行動をするお前の姿など、俺は見たくない。二度と同じような真似はするな」
ぴしゃりと言われて驚く。
有坂にそこまで言われたら、会心の一撃レベルで効いてしまう。
思わず黙りこくって俯く。
確かに言われてみれば、良くない事をしたかもしれない。
でもあの時は俺だってショックで必死だったんだ。
どうしてそんな気持ちを有坂は分かってくれないんだ。
「それに遊びには行かない。今日は受験勉強だ」
「えー…」
「結城、俺達は受験生なんだ。もう少し自覚を持ってくれ」
説教モードの有坂にはもう何を言ってもダメだ。
しょんぼりと視線を落としたが、不意にポンと髪に手が落ちてきた。
「…その代わり、夏休みの終わりに祭りに行かないか?」
「――えっ!」
「クラスメイトと一緒だが」
ぶわっと上がったテンションが、ぶわっと落ちていく。
なんなんだよその上げて落とすスタイルは。
そこは恋人同士なら二人で行くところだろ。
「…行かない。二人でならいいけど」
今しがた怒られたショックもあって、余計に気が乗らない。
そう答えたら、有坂が面食らったように俺を見る。
俺なら絶対行くって言うと思ってたって顔だ。
「なに。…そうか、それは残念だ」
「俺は有坂と二人がいい。みんなはいらない」
「だが先に約束をしてしまったし、その約束を断って二人でなど行けない」
「別にいーだろ。他の奴の事なんか」
「結城、その言い方はよくない」
また有坂に怒られた。
昨日の夜から眠れないくらい有坂に会いたくて、中々来ない運転手を朝から玄関でずっと待ってるくらい楽しみにしながら来たのに、こんなのあんまりだ。
「俺は有坂と二人じゃないと行かないからな」
「なら仕方ない。なかったことにしてくれ」
「――は…っ?ま、まさか有坂は俺を置いて行くつもりじゃないだろーな」
「行くに決まっているだろう。先に約束をしてしまっている」
「俺と約束どっちが大事なんだよっ」
思わず声を荒げてそう聞いたら、有坂の眉間の皺がグッと深くなる。
「約束事と人では比べる対象にならない。それに約束を蔑ろにする人間が、誰かを大事にすることが出来るとも思えない」
難しい言葉で誤魔化された。
つまりそれ、どっちなんだ。
「と、ともかく俺は行かないからな」
「…本当に行かないのか」
「行かない」
ここで譲ったら、また有坂は空気を読まずにどこかへ行くときにクラスメイトが一緒だ、とか言ってくるに決まってる。
なんならそのうち来年の夏休みはクラスメイトで旅館へ行こうとかまでなる可能性もある。
前に遊園地で同じことしたのに、全然反省してない。
これはもう、根競べだ。
有坂は優しいから、俺が折れさえしなければきっと俺の方を取ってくれる。
ガチで有坂が約束の方を取ったら困るけど、でもきっとそんなことはしないはずだ。
「…結城、怒られて機嫌を損ねてしまっているのは分かる。だがお前は祭りや催し物は好きだろう」
「で、でも行かない。二人じゃなきゃ嫌だ」
「結城。俺はお前と共に行きたいと思って申し出を受けたのだが…」
珍しく食い下がってくる有坂にあやすように髪を撫でられたが、断固拒否の姿勢だ。
しばらく押し問答を繰り返していたが、有坂が一つため息を吐いた。
「…分かった。そんなに嫌だというのなら仕方ない」
「ほ、ほんとか?」
「ああ。お前とはまた別の機会に都合をつける。不快な思いをさせてしまってすまなかった」
そう言って有坂はもう話は終わったように勉強道具をテーブルに広げ始める。
ちょっと待て。
それって俺と一緒に二人で夏祭りに行く方を取ったんじゃなくて、クラスメイト達と行く方を取ったって事だよな。
俺は一人っきりでぽつんと薄暗い部屋の中で体育座りで留守番してろってことだよな。
ありえない。
諦められた。
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