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祭りの帰り道をとぼとぼと一人で歩く。
楽しそうな笑い声や、イチャイチャと歩く恋人達がそこら中に溢れている。
「――わ、あの人すっごいイケメン」
「一人なのかなぁ?声掛けてみる?」
「いやさすがにお祭りで一人ぼっちのイケメンとか絶対ないでしょ」
口々に勝手なこと言ってるが、もう怒る気力も沸かない。
ただ今は呆然としながら、家へ帰るべく祭りの通りを一人で歩く。
今頃有坂は朝宮さんに告白されてるのか。
どうして俺は朝宮さんが告白することを許したんだろう。
絶対にこの俺が許すはずなんてないのに、あの言葉を聞いた瞬間、何も言えなくなってしまった。
頭が真っ白になってしまった。
『好きな人のやりたい事なら、私が一番応援したいから』
有坂の事を一番大好きな自信はある。
いつでも有坂の事を考えてる自信もある。
だけど有坂のことを応援しているかと言われると…それはしてない。
それどころか、俺はずっと邪魔をしてた。
だってそんな気持ちになんて到底なれなかった。
応援したら応援しただけ、有坂は俺の側からいなくなる。
俺にとっては有坂と一緒にいることが何よりも大事で、遠くに行っても恋愛できるなんて、そんな風には到底思えなかった。
だから朝宮さんにその言葉を言われた瞬間、頭が真っ白になった。
こんなに大好きな有坂への気持ちが、なぜだか負けたような気持ちになった。
歩いているうちに涙が溢れてくる。
グスッと鼻を啜ったけど、でもどんどん溢れてくる。
「……うー…っ」
高校生にもなって歩きながら道端で泣いてるとか、この俺がありえない。
でもそんなのどうでもよくなるほど、もうワケが分からなくてグダグダだった。
「――い、イケメンが泣いている…」
「う、美しい…」
みっともないのは大嫌いだ。
ダサいのも、格好悪いのも全部大嫌いだ。
俺はいつだって完璧で、性格も良くて、心も広くて、みんなにちやほやされて褒められる。
悪い所なんて一つもなくて言ってる事は全部正しい。
世界の中心で勇者で主人公なんだ。
だけど、正しいはずなのに親しい人たちが次々に俺を否定する。
ハルヤンも俺を見限って、有坂ももしかしたら朝宮さんに取られてしまうかもしれない。
怖くて堪らないのにどうすることもできない。
こんなにただ有坂が大好きで、ただずっと一緒にいたいだけなのに、全然うまくいかない。
誰も俺の気持ちを分かってくれない。
涙は止まらず、グスグスと泣きながら夜道を歩く。
頭が真っ白で、ただ有坂に会いたい。
もう、それだけしかなかった。
――ドン!と不意に大きな音が上がる。
ハッとして音のする方を見上げれば、夜空に大きな花火が打ちあがっていた。
夏祭りに、花火大会まであったのか。
ちょうど橋の上を歩いていたところだったから、川の奥に上がる花火が良く見えた。
足を止めて手すりに寄ると、真正面に花火が打ち上がり、一つ、また一つと色を変えていく。
周りの人が口々に歓喜の声を上げて、楽しんでいる。
今頃有坂と朝宮さんも、二人でこの光景を見てるのか。
一緒に花火を見上げて綺麗だねって話して、感動したりしてるのか。
頭の中が酷い嫉妬でぐしゃぐしゃになっていく。
――やっぱり嫌だ。
有坂を取られるのだけは、絶対に嫌だ。
他の何を捨てたっていい。
有坂がいなくなるのだけは嫌なんだ。
突き放されても、邪魔者だって言われても、それでも有坂がいないと嫌だ。
慌てて携帯を取り出す。
もう涙で画面が見えなくて、手がブルブルと震える。
怖い。
電話を掛けたら、有坂に怒られるかもしれない。
あんな風に応援してくれる、朝宮さんの方と付き合うって言われるかもしれない。
こんなタイミングで電話して、邪魔者だって言われるかもしれない。
今までにない程俺はもう自信を無くしていて、有坂に好かれてる自信なんか欠片も残ってなかった。
「――っあ」
カツン、と携帯が手から滑り落ちて、橋の欄干に当たる。
少しの後、チャポンと遥か下の方で音がした。
サーッと顔が青くなる。
嘘だろ。
マジで最悪だ。
呆然としてしまう。
なんかもう全てが終わったような気がした。
これでもう有坂と連絡も出来ないし、なんならこのままもう二度と会うことも出来ず終わってしまうような気さえした。
ぼーっとしたままただ花火を見つめる。
流れ落ちる涙も拭う気になれず、ただずっと花火を見ていた。
綺麗だとか、心躍るようなワクワク感も、何も感じなかった。
「――結城」
ふと、どこかで有坂の声が聞こえた気がした。
いやありえないだろ。
有坂は今朝宮さんといて、そんな都合よく現れるわけがない。
携帯だってないのに、俺の場所が分かるはずもない。
ついに俺は有坂が好きすぎて幻聴まで聞こえるようになったのか。
「結城っ」
もう一度聞こえたような気がしたけど、もう疲れ切っていて顔を上げる気にもなれない。
もう何も信じたくない。
何も期待したくない。
「――益男っ」
一際大きな声で名前を呼ばれると同時、ガシッと肩を掴まれた。
熱く力強い手のひらの感触に、ビクリとして顔を上げる。
「…あ、有坂?」
視線の先に、息を切らして俺を見下ろす有坂がいた。
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