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有坂がまさかの探しに行くとか言い出すから、慌てて止める。
どっかの女子も言ってたけど、有坂ならガチで川の中まで入ってしっかり探してくれそうだ。
でもさすがに携帯じゃ水没してて、もう使い物にはならない。
とりあえず親には有坂が電話してくれて、夏休みもあと数日で終わるって事で泊まることも許可してくれた。
色々と落ち着いたら、不意にぐーっとお腹が鳴る。
そういや祭りに来たはいいけど、結局何も食べてない。
「なんだ、腹が減っているのか?」
「…っあ、や、違くて」
「なぜ隠す。何か食べに行こうか」
お腹が鳴るとか恥ずかしい。
俺はカッコ悪いのは大嫌いなんだ、と思ったけど、もうそれより恥ずかしい泣き顔を何度も晒してしまっている。
今更だけどこんなに大好きな人に、今まで当たり前みたいに泣いて縋ったりしてきたのが無性に恥ずかしくなってくる。
「結城?」
「…っあ、えっと、ご飯な。俺が作ってもいい?」
「お前の手料理を食べられるのは嬉しいが、この時間からだと大変ではないか?」
「大丈夫。有坂に作りたいんだ」
そう言ってふふ、と笑ったらくしゃくしゃと髪を撫でられた。
スーパーで買い物して、寮に戻ったら料理を作る。
まあ時間も時間だし寮の簡易キッチンだからそんなに手が込んだ物じゃないけど、簡単にハンバーグとパスタとサラダを作る。
ちょっと作り過ぎたと思ったけど、有坂は綺麗に全部食べてくれた。
二人でご飯を食べたら、交代でお風呂に入って勉強道具を広げる。
俺もちゃんと勉強をする。
有坂の考えてくれた大学。
きっと有坂は一人でたくさん考えて、俺と有坂の二人がちゃんと意味のある場所を選んだ。
学部は別にしようって話になったけど、正直俺にはそれがなんなのかはまだよく分かってない。
多分クラスが違うみたいな感じだとは思うけど、いまいちピンと来ない。
そもそも俺は学校見学の時も有坂の選んだ場所にデートだと思ってついて行っただけで、特にここが良かったとか、悪かったとかの記憶もない。
ただ有坂と一緒にいられるのが嬉しくて、何も考えてなかった。
もしかしたら最初から二人でちゃんと大学の事を考えてれば、今回みたいに全部拗れることはなかったのか。
有坂に最初に打ち明けられたときに、嫌だって全部否定したとしても、それでも一緒に話し合っていればよかったのか。
「…どうした?手が止まっている」
「――あ、なんでもない」
邪魔してないのに、有坂に声を掛けられた。
慌てて手を動かしたけど、クスリと有坂が息を漏らす。
「なんだ。気になることがあるのなら何でも言ってくれ。そのままにしては集中できないし、返って勉強の効率も落ちる」
そう言われたけど、今まで邪魔してた時みたいな険しい表情を浮かべてるわけじゃない。
勉強中なのに有坂の目は優しげで、一緒に頑張るだけでこんなに違うのか。
少し考えてから、ぽつりと口を開く。
「…あ、有坂はなんで向こうの大学に行きたかったんだ?」
「え?」
「さ、最初の時に言っただろ。父さんとの約束があっただけか?」
なんとなく気まずくて、少し視線を逸らしながら聞いてみる。
きっとこの質問は、本当はもっとずっと前に聞かなきゃいけなかったんだ。
「…結城、まだ大学のことを気にしているのか。もう向こうの大学へ行くつもりはないから、何も心配しなくていい」
「き、聞いただけ。理由があったのかなって」
あの夜実家で聞き耳を立てた時、女将さんも言ってた。
有坂が向こうの大学に入りたがってたって。
ずっと見ないフリをしてきたけど、有坂を信用した今ならその質問の答えを聞いてみたい。
有坂は少し言い淀んでから、俺の様子を見て一つ息を吐いた。
「別にお前が気にするほどのことじゃない。ただ大学では、少し部活で弓道をやろうと思っていただけだ」
「…え」
「俺が目指していた場所は祖父の出身大学でな。それなりに強豪で、現在は俺の兄弟子にあたる方がコーチをしている。俺が高校では部活が出来ないと知ったとき、大学では共にやろうという言葉をわざわざ掛けて下さったんだ」
――チクリ、とまた胸を刺す痛みが走る。
何も知らなかった。
有坂は本当に、俺に自分の事を全然話してくれてない。
「だが別に気にしなくていい。弓道ならこっちでも十分出来る。お前がそれを気にして悲しんだ顔をする方が、俺は心苦しい」
有坂はそう言ってくれたけど、そもそもこっちでは自分で大学の金も払うのに、部活まで出来るものなのか。
俺には全然分からないけど、でも有坂は全く気にしてないみたいに優しくしてくれる。
きっと有坂は、俺にかなりのことを譲ってる。
知らなかった有坂の本音を聞くたびに、心がズキリと痛みを持つ。
俺が必死に有坂の気を引いてこっちの大学に繋ぎとめたのは、本当に無理矢理だったのか。
有坂に全部を譲らせて、本当は恋人なら半分こするべきだった痛みも、有坂が全部引き受けてくれたんだ。
勉強を終えて二人でベッドに入る。
すぐに有坂にピタリとくっ付いて、足もしっかりと絡ませる。
「…お前は。そんなに俺と離れたくないのか?」
「うん。大好き、有坂…」
そう言ったら有坂からもギュッと力強く抱き寄せてくれる。
俺より全然力が強くて息が詰まったと言うかもはや呼吸できない。
慌てて腕を押しのけて顔を持ち上げると、クツリと有坂が喉奥で笑った。
「俺も好きだ。お前を誰よりも愛している」
そう言って長くて深くてねちっこいキスをされた。
ベッドでお互い抱き合って、キスをして、また抱きしめ合う。
これ以上ないほど「好き」って言葉をたくさん伝えると、同じくらいたくさん好きだって言葉を返してくれる。
大好きなんだ。
こんなに、こんなに大好きなんだ。
それなのに俺は、間違っていた。
「…結城?」
布団の中で有坂にくっ付いていたけど、がばりと身体を起こす。
有坂がポカンとしてるが、布団を捲ると構わず目の前の身体に馬乗りになった。
「何を…?」
「…お、俺がする」
「――は?」
ポカンとした顔をされたが、こんなに甘々でいい感じの雰囲気で俺だって珍しく反省モードなのに、さっきからゴリゴリと主張する有坂のモノがうるさい。
全くこんな時なのに体が不謹慎だ。
「…あ、有坂は今日は、寝てていいから」
「なに?」
「じゃ、邪魔しないから」
俺の言葉に有坂はしばらく意味が分かってない顔で唖然としてたが、俺がジャージに手を掛けたことでようやくその意図に気付いたらしい。
またしても無表情崩壊の驚いた顔でガン見されて、ドカッと顔に熱が昇っていく。
だけど何かしたい。
有坂のために、なんでもいいから何かしたいんだ。
俺はこれから少しでも、有坂に喜んでもらえることをしていきたい。
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