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夏休みが終わって、今日から新学期が始まる。
心なしか夏休み前よりも、なんだか周りが勉強を意識している気がする。
まあ進学校だから当然なんだけど。
久しぶりの校舎に足を踏み入れると、昇降口で朝宮さんが友達と靴を履き替えていた。
夏祭りぶりだ。
「おはよ」
後ろから声を掛けると、振り返った朝宮さんが俺を目に止める。
楽しげに友達と笑っていた表情が、なぜかムッとした顔になった。
隣の友達は真っ赤になってるのに、一体なんだ。
「…おはよ」
言いながらフイと視線を逸らされた。
この俺がわざわざ挨拶してやったのに、何だその態度は。
ちょっとイラッとしたけど切り替えようと下駄箱を開けたら、どさっと一か月分の手紙が落ちて来てさらにイラついた。
仕方なく落ちた手紙を紙袋に突っ込んでたら、まだいたらしい朝宮さんが俺の手紙を拾いあげる。
どうやら手伝ってくれるらしいが、機嫌悪かったんじゃないのか。
拾い終えて、朝宮さんから手紙の束を受け取る。
「…あのさ、結城君てもしかして――」
何か言いかけたくせに、途中でやめられた。
何なんだよ。
中途半端に聞かされるとか余計に気になるだろーが。
「なんだよ。うぜーから言いたいことあんならハッキリ言えよな」
「…っそ、そんな言い方しなくたって」
「じゃあ何」
聞いても何か隠してるみたいに、いまいちハッキリしない。
朝宮さんはわりとハキハキ話すほうだと思ってたのに、これじゃ俺と顔合わせてモジモジしてる他の奴と一緒じゃねーか。
「…もういい。なんでもない」
よく分からないが怒ったようにスタスタと歩いて行ってしまった。
なんで新学期早々不機嫌な態度取られないといけないんだ。
これは有坂にチクり案件だ。
ムカつきながら廊下を歩いていると、もう一人夏祭りぶりの顔を見かけた。
壁際に女を押し付けて、朝っぱらから一体何してんだ。
「おい、ハルヤン」
声を掛けると、ちらりとこっちを見たハルヤンと視線が合う。
夏祭りの時に喧嘩別れしたまま、あれ以来一度も話してない。
というか携帯壊れてたから、連絡先も消滅してた。
まあ元々俺の携帯には数えるほどしか連絡先入ってないから、また教えて貰えればすぐに元通りだけど。
「この間携帯水没しちゃってさ、だからハルヤンの連絡先――」
言葉の途中で、フイと視線を逸らされた。
ビクリとしてしまう。
もしかして俺は今、無視されたのか。
ハルヤンは何事も無かったように再び女子と話そうとしてるが、でもその女子俺の方見て顔赤くしてるぞ。
もう見込みないぞ。
思わず固まって見守っていると、ハルヤンは飽きたように一つため息を吐いて自分の教室へ入っていった。
俺には目もくれなかった。
少し時間が経てば元通りになるかと思ったけど、ハルヤンはまだ怒ってるみたいだ。
つーかいつも何かあってもテキトーにかわすくせに、どれだけ根に持ってるんだ。
気持ちが落ち込んでしまう。
新学期から朝宮さんに嫌な顔されて、ハルヤンに無視されて、この俺が人に邪険にされるとか一体どうなってるんだ。
「おはよう。結城」
まさか有坂にまで嫌な態度を取られたらどうしようかと思ったけど、有坂はいつも通り声を掛けてくれた。
ホッと胸を撫でおろす。
今日は新学期だから全校集会やら進路説明会やらHR、あと席替えで学校は終わりだ。
――そう、運命の席替えがある。
単純計算だと隣になれる確率は逆隣りも含めて約5%程度だが、そこに前後、斜めが加わるともっと確率はあがる。
ともかくどこでもいいから近くがいい。
現状端と端だからこれ以上悪くなることはないけど、少しでも近くがいい。
あとともかく絶対に有坂が見える位置がいい。
授業中に有坂を眺めて過ごすのは俺の趣味なんだ。
これがなくなったら、何をして授業中過ごせばいいのか分からない。
つまり一番前だけは、何があっても絶対にダメだ。
そう思ったのに、引いたクジを見つめて愕然とする。
「……っ」
廊下側の一番前だ。
元有坂の席といってもいい。
しかも有坂は俺の列の一番後ろで、完全に姿が見えない位置だ。
確かに前よりは近いけど、こんなの超最悪だ。
俺はこの先の学校生活、授業中少しも有坂の姿を見れないという寂しい人生を送り続けるのか。
「いい席じゃないか。黒板が良く見える」
「嫌だ。有坂が見えないっ。もう無理だ、人生終わりだ…っ」
HRが終わって、全校集会で体育館に向かいながら有坂に必死に愚痴る。
「いや、かえって俺が見えない席で良かった。これから受験シーズンとなるのに、俺が視界に入って勉強の邪魔をしてしまうわけにはいかないからな」
慰めてくれるのかと思ったのに、酷い事を言われた。
やっぱり今日は朝から最悪だ。
唇を噛みしめて俯いていたら、ポンと有坂の手が髪に落ちてくる。
「…ふ、少し安心した」
「え、何が」
「ああいや、なんだかお前が少し遠くにいってしまうような気がしたからな」
「――は?」
聞き返すと、ハッとしたように有坂は「なんでもない」と言葉を濁す。
どういう意味だ。
俺の見えない位置に勝手に離れていったのは有坂の方だ。
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