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「…無い」
進路資料室のパソコンで、画面を見て青褪める。
放課後、いよいよ進路の最終希望先を提出って担任に言われて、一先ず自分の大学を調べにきたわけだ。
と言っても有坂に決めて貰った大学だから調べたからところで変えるつもりはないけど、学部の件については知っておいた方がいい。
まあ帰りのHR終わったら有坂がいつも通り知らん奴に引っ張られていって、それを待つ間暇だからここに来たんだけど。
そして何が無いのかというと、弓道部だ。
有坂が大学では部活で弓道をやりたいみたいな事を言ってたから、一応調べてみたわけだ。
ここにある情報が全てじゃないけど、少なくとも調べた感じだと見当たらない。
向こうの大学でやりたかったことをこっちでも出来ないかと思ったけど、そうもいかないみたいだ。
まああったとしても、こっちの大学の場合有坂が部活をやるかどうかはそもそも分からないけど。
有坂は大学の事は気にするなって言ってたし、俺が一番大事だって言ってくれたけど、でもやっぱり気にしてしまう。
「あれ、珍しいな。結城がここにいるとか」
不意に声を掛けられて顔を上げる。
室内に入り込んできたのは担任で、げっと目を細める。
まあ進路資料室だから教師が来るのはおかしいことじゃないけど、なんでこのタイミングで。
「へー。ここも悪くないけど、お前の学力ならもっと上の大学目指せるだろ。なんでここ?」
そして勝手に人のパソコン覗いてきやがった。
なんでと言われても有坂が行くからとしか言えない。
「…まあ結城が決めたならそれでいいけど。結城には一流大学勧めろって上から言われてるんだけど、俺は別に生徒が行きたいところが一番だと思ってるしな」
それ言っちゃっていいのかよ。
相変わらず呑気な担任だけど、これでも有坂には慕われてるし、友達みたいに話せるって他の奴らの評判もいいらしい。
まあ俺はクラス委員押し付けられたり、授業中有坂ガン見してたら注意してきたり、この俺に対して失礼な奴だとしか思ってないけどな。
「俺も好きな人がきっかけで大学目指したし、そういう理由でもやる気が出せるならアリだからさ」
「――えっ」
突然の言葉にちょっと驚いたが、担任はニシシと意味深な笑顔を向けて資料が置いてある棚に向かった。
どうやら資料を返しにきたらしく、棚に戻している姿を後ろから見つめる。
つーか今『俺も』って言ったけど、俺と有坂のことまさか勘づいてるんじゃねーだろうな。
と思ったけど、そういや前に部室でイチャついてたのバレて説教されたんだっけ。
でも担任も好きな人がきっかけで大学を目指したってのは、ちょっとビックリした。
やっぱそういうのも全然アリなんじゃねーか。
「…あの、七海先生ってなんで教師になったんですか」
「え、俺?俺のかわいーお嫁さんが数学教師でさー、俺その時生徒だったんだけど――」
なんとなく聞いただけだったのにやたら話が長くなりそうだったから後悔した。
しかも途中からほとんど嫁自慢じゃねーか。
話半分で聞き流したけど、でも好きな人がきっかけってところは共感持てる。
やりたいことなんか一生見つからないって思ってたけど、もしかして有坂をきっかけにすれば俺もやりたいことが見つけられるんだろうか。
有坂のためになるような何か、って考えると、全く想像つかなかった未来もちょっとワクワクしてくる。
そういう意味でなら、俺も何か見つけられる気がしてきた。
「はい」
「え?」
考えていたら、不意に書類を差し出されて驚く。
「お前今までやる気ないから進路指導説明会とか全く聞いてこなかっただろ」
「…え?あ、はぁ」
「時期的に今年の三年のは終わっちゃってるから、二年のだけど。でも今からでもまだ間に合うし、参加許可するから行ってみろよ」
「えっと…」
貰ったのは進路指導説明会の資料で、この学校から卒業した色んな職業の人が話に来るらしい。
そういや夏休み前にやってたような気がしたけど、進路とか有坂と一緒ってことしか考えてなかったから全く内容を覚えてない。
つーかやる気ないとか人のことちゃっかり観察してんじゃねーぞ。
「色んな職業の人の話聞けば、その中に結城が目指したいものもあるかもな。やりたいこと決まれば大学選びもさらに幅が広がるし」
「あ、でも俺大学は…」
「まあまあ、ちょうど結城に勧めたい職業の人が今回来てくれるって言っててさ、あ、その人俺の先輩なんだけど――」
何かよく分からないけど、参加する流れになった。
とりあえず大学は変わらないにしても、目指す職業については聞いてみたいかもしれない。
有坂が俺のためにそうしてくれたように、俺だって有坂のためになるような未来を見つけたい。
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