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カラッとした暑くもなく寒くもない良く晴れたその日。
今日は絶好の文化祭日和だ。
俺のクラスは模擬店ってことで朝から大忙しで、開会式に合わせて準備に追われる。
準備は万全だったはずだけど、それでも当日になると問題は色々出て来てバタバタと動く。
「ゆ、結城君、これこっちで大丈夫かな」
「おー、そこで。終わったらあっち手伝いに行ってやって」
「うんっ、分かった」
クラス委員だと全体を把握しないといけないこともあって、気付けば俺を中心とした流れが出来てる。
いつもは俺を遠巻きにしてる連中もさすがにきゃーきゃー言っているだけってわけにはいかず、オドオドしつつも俺に話しかけてくる。
まあ中心になってやるのは去年の演劇でも経験済みだけど、それでも今年の方が積極的に自分からクラスに関わっている気がする。
ずっとぼっちだった中学時代とはエライ違いだ。
朝から忙しないけど、それでも頃合いを見てウェイターの衣装に着替えたら、やっぱりテンションが上がる。
まあウェイターの衣装って言ってもワイシャツに黒サロンの簡素な格好だけど、今やカリスマ性も兼ね備えたこの俺が着れば今年の流行ファッションばりに決まって見える。
「やばー…王子、超カッコいい」
「結城君の写真コッソリ撮ってもいいかな。いいよね?今日文化祭だし」
「えー、盗撮まずくない?でも…やっちゃう?」
なんかコソコソ言ってる女子がスマホを取り出して俺に向けた瞬間、スッと有坂が俺の前に立ちはだかった。
伸びてきた手が俺の首に掛かり、ドキリとする。
「結城、襟が乱れている」
「あ、うん。ありがと」
直されながら、既に着替えている有坂の姿をまじまじと見る。
やばい。
どう見ても俺よりかっこいい。
この俺を超える者はいないと思ってたのに、もう有坂は今年の流行ファッションを超えて来年のファッションリーダーになってるレベルに似合ってる。
カーッと顔が熱くなるのを感じながら襟を正してもらっていると、俺を見下ろす有坂と視線が合う。
黒い瞳が優しげに細められて、心臓がギュッと詰まった。
どうしよう、超好きだ。
今日もめちゃくちゃ大好きだ。
世界一好きだ。
「今年の衣装もとてもよく似合っている。今日だけしか目に出来ないのが勿体ないな」
「ほんとか?それどれくらい?めちゃくちゃ俺に夢中か?」
「ああ。どれくらいと言われると…そうだな。愛月撤灯という言葉がふさわしいか」
「全然分かんねーぞ。もっと分かりやすい言葉で言ってくれ」
そうやってすぐ難しい言葉ではぐらかそうとする。
じとっと目を細めて言うと、有坂は少し考えるように視線を持ち上げてから、再び俺を見つめた。
「メロメロだ」
真顔で有坂の口から放たれたその言葉は想像以上の破壊力で、思わずぶふっと吹きだす。
予想外の一言だったけど、めちゃくちゃ分かりやすい。
とりあえず有坂をメロメロにできたなら上出来だ。
グッと拳を握って手ごたえを感じつつ、再び仕事に取り掛かる。
なんとか開会式前には落ち着いて、いよいよ体育館へと向かった。
校長の話やら教師からの注意事項だとかめちゃくちゃ長い話のあとに、ようやく文化祭が開幕した。
開幕と同時にすぐ一般公開も始まって、開店待ちばりに外にたくさんいたやつらがゾロゾロと中に入り込んでくる。
毎年の事だけど、俺目当てに来るやつも多い。
すぐに教室前には行列が出来て、あっという間に俺も取り囲まれる。
「…っあの、わざわざ隣の県から来ました。一緒に写真撮ってくださいっ」
「前に一度雑誌載ってるの見ましたっ。もうモデルはやらないんですか?」
「わぁ、雑誌より全然イケメン…っ」
相変わらずめちゃくちゃ話しかけられて鬱陶しい。
いつも通り気安くこの俺に話しかけんな、ってイラつくまま返そうと思ったけど、ふと思いとどまる。
少し考えてから、なんとか引き攣った笑顔を浮かべた。
「…あー、写真は芸能人とかじゃないんでやめて欲しいかな。でも来てくれてありがとう」
そう言うと俺の周りに集まったモブ女子達が耳に突き刺さるような黄色い声を上げる。
「えーっ、やだ、王子優しいー」
「なんかドSとか噂流れてたけど、全然違ったんだね。圧倒的白王子」
「同じ高校生とは思えない程すごい落ち着いてるー」
口々に褒めちぎられた。
なんで対応を変えてやったかというと、有坂に他人への態度を改めろって今まで何度も怒られてるからだ。
それに女将さんにも女性には優しくしろって言われたし、相手の立場に立って気持ちを考えろとも言われた。
俺はもっとちゃんとしてるところを、有坂に見せたい。
少しでも心配を掛けたくないし、怒られたり説教されてばかりの自分じゃ有坂のためにはなれない。
それに客の扱いは有坂旅館で慣れてるし、これくらい今の俺にはなんてことない。
きっとこの俺の大人すぎる神対応に有坂は喜んでくれる、と思いきや、めちゃくちゃ険しい顔で俺を見つめていた。
むしろいまだかつてなく眉間の皺が深い。
思わずビクリとしたら、ツカツカと有坂がこっちに歩いてきた。
そのまま取り囲む人を掻き分けて、グッと俺の手首を掴む。
「すまないがコイツは見世物でも商品でもない。商品の購入は廊下の端にきっちり等間隔に二列で並んでくれ。人が多いから拳二つ分程度に詰めて貰えると助かる」
愛想の欠片もない口調でそう言って、有坂は俺の手を引いて教室から連れ出した。
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