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次に有坂が向かったのは体育館で、どうやらこれから演劇をやるらしい。
俺達も去年やったし、今年は一体どんな劇をやるのか俺も興味がある。
有坂と並んで座って、ワクワクしながら貰ったチラシを見る。
劇は『星の王子様』をやるらしく、名前は有名だけどどんな話なのかは知らない。
「名作だから共に見たいと思っていたんだ。今度は結城が楽しめたらいいのだが」
今度は、って俺はずっと楽しみまくってるけど。
タイミング良く待つことなく照明が落ちて、ちょうど始まる。
ふと思ったけど、もしかしたら有坂も俺と回るところを考えてくれてたのか。
お化け屋敷とか絶対混むところも早めに行ったから待たずに入れたし、さっきのパンケーキも俺が甘い物好きだと思ったから連れて来てくれたのかもしれない。
まあ冷静に考えて、この俺を差し置いて猫耳メイドなんかに有坂が夢中になるはずがない。たぶん。
ともかくもしそうだったら、同じ気持ちみたいでめちゃくちゃ嬉しい。
ドキドキしながら幕が上がるステージに視線を送る。
「――結城、結城」
「……ふぁ?」
有坂の声でハッと気付いて目を開ける。
すぐ近くで黒い瞳が俺を覗き込んでいて、急激に意識が覚醒する。
やばい。
完全に爆睡してた。
しかも有坂にしっかりもたれ掛かって寝ていて、今更誤魔化すことも出来ない。
というか気付いたら劇も終わっていて、照明も明るくなっている。
「わ、悪い。寝てた」
「…いや、大丈夫だ。連日文化祭の準備や受験勉強で忙しかったからな」
「う、うん」
そう言ったけど、せっかく有坂が俺と一緒に見たいって言って連れてきてくれたのに。
体育館を出て2人で歩きながら、有坂が俺を見下ろす。
「劇はつまらなかったか?」
「えっ、えっとつまらないっつーか…ちょっと内容がよく分からなかった」
「ああ…確かに少し難しい話ではあるな」
爆睡したといっても最初からずっと寝てたわけじゃない。
途中までワクワクしながら見てたけど話の展開がいまいちよく分からなくて、おまけに王子役の生徒が大根役者すぎて余計に萎えた。
この俺の去年の王子クオリティとはエライ違いだ。
「あの話は少々解釈が難しくてな。純粋無垢な王子が紆余曲折を経て、本当に大切な事に気付くというストーリーだと俺は解釈している」
「へー。そんな話だったか?」
「解釈は自由だからな。他者から見ればまた違う考察もあるだろう」
「ふーん…」
途中までしか見てないけど、俺には自己中王子が周りのやつら全然分かってないって喚いてるようにしか見えなかった。
有坂の考えと違い過ぎないか。
たとえ劇でもこれだけ解釈に差があるって事は、有坂とはそれだけ考えてることが違うってことだ。
俺には有坂の考えてることが、全然理解できる気がしない。
「…こ、今度最後まで読んでみる」
「読むのなら俺の家にあるから持って行って構わないが…結城は小説も読むのか?」
「え?本は漫画とか雑誌しか読んだことないけど」
それでも有坂の気持ちが分かりたいし、さっき言ってた解釈を意識して読めばちょっとは分かるかもしれない。
そう思ったけど有坂はくしゃりと俺の髪を撫でる。
「寝たことを気にしているのなら、そんな必要はない。それより次こそお前の楽しめる場所へ行こう」
「そうじゃなくて――」
「ああ、そうだ。結城の好きそうなゲームをやっているクラスがあった」
有坂はそう言って俺を引っ張るけど、俺はもうずっと楽しんでる。
さっきちょっと寝たけど。
でもそれも有坂と一緒だから安心してウトウト出来たし、これが一緒にいなかったらずっとイライラソワソワしてて楽しむどころじゃない。
有坂はもしかして、俺がこんなに楽しんでる事を分かってないのか。
「…あ、有坂」
「なんだ」
「あのさ、言っとくけど俺は有坂といるだけで――」
言いかけた時、ふと視界の端にこの間ぶりの顔を見つけた。
「ああ、いたいた。益男」
向こうもちょうど俺に気付いたらしく、軽やかに名前を呼んで手を上げる。
誰かと思えば日比谷さんだ。
そういやこの間電話した時に誘ったっけ。
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