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「日比谷さん、遊びに来てくれたんですか」
「おー、たまたまこっち方面の仕事があったからちょい寄ってみた。お前に渡そうと思ってた資料もあったし」
「資料?」
「この間話した大学のさ。さすがにこの時期だから少しでも早い方がいいだろ」
日比谷さんに会うのは二回目だけど、ここ最近ちょいちょい電話で話してたから会ったばっかりって感じはしない。
それにこの人どことなく適当な感じがちょっとハルヤンっぽいんだよな。
「結城、知り合いか」
「っえ?あ、うん。えっと最近進路のことでちょっと相談してて、七海先生とサダ兄の友達なんだ」
「ああ…もしかして電話の――」
そう言って有坂が言葉を詰まらせる。
安定の仏頂面だが、日比谷さんの方が構わず有坂に歩み寄った。
「もしかして友達か?俺より背でけーな。落ち着き払ってるから教師かと思ったわ」
「…どうも、同級生の有坂です。益男が日頃より世話になっています」
「はいはい、どーも。高校生なのにしっかりしてんなぁ」
感心したように言ってるが、俺と初めて会った時と随分態度が違くないか。
つーか有坂はなんでいきなり益男呼びに変わったんだ。
名前は恥ずかしいから嫌だって言ってるのに。
「日比谷さん、俺のクラス遊びに来ます?おすすめはチョコとレモンクリームのアイスクレープと、あと…」
「あー、いや。これ渡したらすぐ行くわ。仕事のついでに寄っただけって言っただろ」
「えーっ、せっかく来たのに」
思わずそう言うと、クツクツと喉奥で笑われる。
サダ兄もそうだけど、これくらい年上だと何言っても笑ったりあやされたりして誤魔化される。
大人ってずるい。
「いやー文化祭とか懐かしい光景すぎて、見ただけでオジサンもうお腹いっぱいっつーか」
「別にサダ兄とタメなんだからオジサンって歳じゃないだろ」
「いやピチピチの高校生に比べたらオジサンよ」
「まー確かにピチピチとかその表現がジジくさ――」
言葉の途中でペシッと持ってきた資料で額を叩かれた。
自分で言ったくせに人に言われるのは嫌なのかよ。
「それよりお前進路の事よく考えろよ。いくら頭良いし金持ちって言っても医学部は基本的にどこもレベル高いぞ。受験勉強せずに行けるような場所じゃ絶対にないからな」
「わ、分かってるけど…」
「分かってるならいいけどさ。まあでも俺的にはお前はミュージシャンの道も…」
「それは絶対ない」
じとりと目を細める。
こっちは今まで生きてきて散々芸能人の道は勧められてきてるんだ。
売れないミュージシャンとは格が違うレベルで成功の道を用意されてきたけど、それでもやる気はでなかった。
それに俺のイケメンは有坂のためだけに使いたい。
「――医学部?」
不意に有坂がぽつりと呟く。
ハッとして口を噤む。
やばい、有坂に聞かれた。
「そうそう。もう有坂君からも言ってやってよ。コイツこんだけ頭よくてせっかく医者に興味持ったのに、医学部には行きたくないらしくて――」
「わあああっ」
そうこうしてたらさらっと日比谷さんが当たり前のように話すから、慌ててその身体を押す。
なんてこと有坂に言うんだ。
大学の話は有坂には絶対の絶対に禁句なんだ。
俺が間違えたせいで有坂は俺のためにたくさん捨てたのに、他の大学の話なんてしたら絶対怒るだろ。
どう考えたってそんなのありえないだろ。
「なんだよいきなり…」
「も、もう仕事行くなら早く行ってくださいよっ。邪魔っ」
「はぁ?邪魔ってなんだ。なら帰る前に七海に会ってくから案内してくれよ。あと可愛い女の子がいる教室なら見てやってもいいな」
「もーっ、案内ってこの間来たばっかだろっ。それに歳考えろっ」
アワアワしながら日比谷さんの背中を押す。
マジでこれ以上余計な事言われたら堪らない。
「益男」
不意に有坂が俺を呼ぶ。
ビクリと心臓が跳ねた。
おそるおそる振り向くと、めちゃくちゃ険しい顔した有坂が俺を見つめていた。
今世紀最大に眉間の皺が深い。
今ならこの手に持ってる資料も挟めそうだ。
「お前のためにせっかく仕事中にきてくれたのだから、案内くらいしてやれ。俺は先に店番へ行っている」
「…っえ!?」
「申し訳ないが、進路の件で今俺から言えることはありません。ただ益男にとって、どうか間違いのない道を示してやって下さい」
有坂はそう言って律義に礼をすると、すぐにツカツカと歩いていってしまった。
サーっと顔が青くなっていく。
まずい。
これは絶対やばい。
有坂を超怒らせた。
「いやー、お前とは全然比べ物にならない程しっかりしてるなあ。アイツ俺のバンドのマネージャーやらねーかな?」
そんな俺の心境とは反対に、めちゃくちゃ呑気な声が昼飯時の校内に響いた。
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