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「…っ有坂」
遠ざかる有坂を絶望した気持ちで見つめる。
すぐに追いかけようと思ったけど、案内しろって言われたことを思い出してグッと唇を噛んで押し留まった。
いつもだったら有坂以外を優先なんか絶対しないけど、でもこういうところちゃんとしないと有坂は怒る。
「…なるほど。甘えん坊、ねえ」
日比谷さんが何かぽつりと言った気がしたけど、もう引っ張るように職員室につれていく。
昼飯食ってた担任に構わず押し付けて、慌てて有坂を追いかける。
「こら、結城」
「な、なんだよっ」
すぐに行こうと思ったのに担任に呼び止められた。
俺は今世紀最大に今急いでるんだ。
他の事に構ってる余裕なんてない。
「ちゃんと礼は言ったのか?お前のために資料持ってきてくれたんだろ」
「え!?あっ、日比谷さん有難うございましたっ」
「あー、はいはい。可哀想だからもー行っていいぞ」
可哀想って一体なんだ。
でもともかく俺は今急いでるから、そんな細かいことに構ってる暇はない。
後ろから担任の「廊下は走るなよ」って声が飛んできたけど、もう聞こえないふりをして全速力でダッシュする。
俺は一番有坂が大事なんだ。
他は全部人生のおまけで、有坂が怒るくらいなら進路なんかどうでもいい。
もう全部なかったことにしていい。
息を切らして自分のクラスに戻ってくると、有坂は既に店番をやっていた。
すぐ話しかけようと思ったけど、予想外に人がいて混んでる。
しかも俺が来たとなると余計に人が押し寄せてきて、落ち着いて有坂と話すことも出来ない。
きっと有坂は仕事中に余計な話をするのは嫌いだから、ともかく話はこの時間を乗り切ってからだ。
慌ただしく動きながら、店番の時間を潰す。
結局交代の時間までずっと忙しくて、有坂と目を合わせることも出来なかった。
「――で、どこ行ったんだよっ」
ようやくクラスメイトと交代の時間になって見れば、肝心の有坂がいない。
なんでいつも目を離すとすぐいなくなるんだ。
焦りながら電話を掛けたが、まさかの有坂の鞄の中から振動音が聞こえてくる。
仕事中は携帯を持ち歩かず、しっかり鞄に入れとくとか真面目かよ。
いや真面目だけど。
ともかく探しに行こうと教室を飛び出す。
早く有坂と話して、ちゃんと誤解を解きたい。
きっと今有坂は、すごくがっかりしてる。
俺が他の大学のことを考えてたと知って、めちゃくちゃムカついてるしがっかりしてるはずだ。
有坂のために進路を見つけようと思ったのに、これじゃ何の意味もない。
「――結城君」
教室を出ようとしたら、不意に後ろから呼び止められた。
振り向くと朝宮さんがいた。
いつものロングの黒髪は珍しく三つ編みに結っていて、ふと田舎女を思い出す。
つってもあの昔ながらのガチガチ昭和女子の三つ編みじゃなくて、今時な感じに編み込みをルーズに引き出していてお洒落優等生っぽい感じにしている。
周りの男もどことなくいつもと違う朝宮さんの姿にソワソワしてるような。
「有坂君探してるの?」
「おー。今日はずっと俺と回るって言ってたのに、いきなりいなくなって――」
言いながらふと気付いたが、そういや朝宮さん俺の事ムカついてたんじゃないのか。
なんでいきなり話し掛けてくる気になったんだ。
「有坂くんなら道に迷ったって人を案内しにいったけど」
「はぁ?!」
なんでこんな時なのにお人好し発揮してるんだ。
俺以外の奴に優しくするじゃねえ。
カッと頭に血が昇ったけど、いや待て、そうじゃない。
そんな風に思ったら駄目なんだ。
有坂だって有坂の事情があるんだから――とか一生懸命自分の中で考え直そうとしたけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。
だって今日は文化祭なんだ。
有坂は俺だけのために時間を使うべきだし、俺だけを見てるべきだ。
「ど、どっち行った?」
「…実習棟の方、かな」
「分かったっ」
いつも邪魔者だと思ってたけど、たまには朝宮さんもいい仕事するじゃねーか。
言われた通り実習棟に全速力でダッシュする。
本校舎よりも賑わいが少ないその場所にたどり着くと、一先ず一階から屋上まで走り抜ける。
が、有坂の姿はどこにも見えない。
なんでだ。
有坂が見つからない事に焦りながら、仕方なく一つずつ教室を覗いていく。
実習棟は基本部活や同好会関係がメインに使っていて、あとは立ち入り禁止になってる場所も多い。
俺達ゲー研の教室もあるから、一応顔を出して有坂が来たか聞いてみる。
ちなみに水瀬と有坂のリベンジ対決は夕方からだから、まだ時間がある。
結局有坂を見つけられないまま、こうなったら使ってない教室の扉までガラガラと開けていく。
三階はほとんど使ってる教室もなく、空き教室ばかりだ。
さすがにこんなところに有坂がいるわけないか。
「――っ」
引き返そうと思ったが、不意にどこかから声が聞こえた気がした。
あれ、と周りを見回す。
耳を澄ましてみると、やっぱり聞こえてくる。
なんか去年もこんなことなかったか。
確かあの時はハルヤンが女子とコッソリエロいことしてて、まさかまたなんかしてんじゃねーだろうな。
ちょっとの呆れと、ちょっとのワクワクで声のする方に歩いていく。
声の聞こえるその一室の扉を、思い切ってガチャリと開けた。
「――っ誰だ」
「えっ」
ガンッと鈍い音がした。
誰かが吹っ飛んで、同時に部屋の中にいた数人の男と目が合う。
明らかにうちの学校の生徒じゃなくて部外者だが、一体こんなところで何してんだ。
が、ふと気付く。
その中心には明らかにボコられたような感じの奴が蹲っていて、思わず開けた教室をパタンと閉めた。
うん、今のは見なかったことにしよう。
なんか俺とは無縁の世界が広がっていた気がする。
そういう血生臭い話は俺の物語じゃない。
予期せぬ光景に閉めた扉の前でちょっとフリーズしてしまったけど、でも頭の中にさっきの光景が蘇ってくる。
――あれ、ちょっと待てよ。
もしかしてだけど、今あそこで蹲ってた奴って。
ハッとして俺は閉めた扉をもう一度開けた。
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