アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
245
-
「あのマッスーが大人になって…っ」
「何言ってんだお前」
じとりと目を細める。
この俺がせっかく謝ってんのに、冗談で終わらせるつもりか。
とはいえ、言ってから妙に恥ずかしくなってくる。
手当を終えて救急箱を閉じると立ち上がった。
どの道ウザがられてるのは本当だろうし、それでも言いたいことはちゃんと言えた。
関係は戻らないかもしれないけど、謝ったことで自分の中でモヤモヤしてた気持ちも少しはスッキリした。
ハルヤンは珍しくそれ以上は何も言わず、どこか考えるように俯いていた。
空き教室を出て、とりあえず救急箱を保健室へ返しに行くことにする。
というか朝宮さんが実習棟に有坂がいるって言うからこっちに来たのに、有坂はいないしとんでもない目にあった。
ハルヤンに謝れたのは結果オーライだけど、でも有坂の誤解も早く解かないといけない。
いや、誤解なのか。
進路のことを考えてたのは本当だし、有坂のためになるものを見つけられればって思ってた。
でもそれで有坂と喧嘩したら意味がない。
有坂ががっかりして俺の事嫌いになるくらいだったら全部なかったことにしたほうがいい。
それは有坂に嫌われてまで叶えたいことじゃ絶対ない。
――だけど。
さっき初めてハルヤンに進路の事を口に出したら、なんだか胸が熱かった。
自分でなにか目指すものを見つけたのも、それを口に出したのも初めてだし、誰かに聞いてもらうのも初めてだった。
胸が熱くて、なんかワクワクした。
もしも。
もし有坂にそれを言ったら、どんな風に思うだろう。
もちろん怒ったのは分かってるけど、でもそれは違う大学に行くと思ったからだ。
俺がやりたいことが見つかったって言ったら、有坂はどう思うんだろう。
教室に戻ったけど、有坂はいなかった。
こうなったら目撃情報を集めることにして、手あたり次第取っ捕まえて聞いていく。
「――は?朝宮さんと?」
「えっ、うん。一緒に歩いてるの見たよ」
どういうことだ。
なんでこの俺を差し置いて朝宮さんと回ってるんだ。
というか朝宮さんは俺が有坂を探してるのを知ってるはずだし、なんなら今日は一緒にずっと回るんだってさっき言ったばかりだ。
それにもし有坂と偶然会ったにしても、俺が探してたって聞けば有坂だってすぐ連絡くれるはずだ。
怒ってたって有坂は俺を無視するような奴じゃない。
少し考えたけど、ふと気付く。
あれ、ちょっと待てよ。
まさかとは思うが。
もしかして。
――朝宮さんに騙された?
「…っアイツ」
カッと頭に血が昇る。
ひょっとして、だから実習棟に有坂がいなかったのか。
文化祭で有坂と回るのに俺が邪魔だから、時間を稼ぐために嘘ついたのか。
許さねえ。
この俺を騙して有坂と回るとか。
ハルヤンばりの詐欺師じゃねーか。
慌てて有坂に電話したけど、ブーンと安定の鞄の中から音がする。
だから有坂はいつも携帯持ってろ。
ともかく慌てて二人を探しに行く。
人混みが凄いし話しかけられまくるし、変な奴に名刺渡されたりもするけど、それでも有坂を探す。
だけどどこに行ったのか二人の姿は見当たらない。
考えたくないけど嫌な予感が浮かんでくる。
廊下のどこにも見当たらないってことは、二人でどこかの教室に入ってるって事だ。
つまり二人で遊んでるって事だ。
俺と一緒に回るって言ったのに、有坂は朝宮さんを取ったのか。
今日は俺とずっと一緒にいて一ミリも離れないって言ったのに、二人で楽しく遊んでるのか。
有坂がいなかったら俺が一人ぼっちになることだって分かるはずなのに、それでも連絡一つしてこない。
携帯だってそろそろ気付いて教室に取りに戻ったっていいはずだ。
それなのに有坂からは、何の連絡もない。
さっきめちゃくちゃ怒った顔してたし、やっぱり大学のことで愛想尽きたのか。
俺の事ハルヤンみたいに嫌いになったのか。
賑やかな廊下の片隅で、息を切らしながら呆然と立ち尽くす。
有坂の事を二度と疑わないって決めたのに、でも不安でたまらない。
いてもたってもいられないのに、もうどこを探したらいいのかも分からない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
260 / 275