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「…っあ、有坂――」
勝負の舞台へと歩いていく有坂に、思わず声を掛ける。
正直水瀬との勝負なんかより、俺に構ってほしい。
だって俺はもうずっと有坂を探して待ってたんだ。
水瀬は有坂の悪口言ってただけだし、俺のが優先されていいはずだ。
有坂に迷惑かけちゃダメだし、自己中はダメだって思ってるけど、でもずっと待ち焦がれてた気持ちが心をグズグズにする。
俺だけを見てほしくてたまらない。
だけど有坂はちらりと俺を見てから、再び視線を前に向けた。
「結城、待っていてくれ。すぐに勝負を終わらせる」
そう言って俺の前を通り過ぎて、水瀬の待つ場所へと進んでいく。
先に椅子に座っていた水瀬が、楽し気に口端を吊り上げた。
「すぐに勝負を終わらせる?あまりにも身の程を弁えていない口ぶりですね。――それはこちらの台詞ですよ、ゼタス」
もうバチバチだ。
俺を差し置いてめちゃくちゃ楽しそうじゃねーか、こんなのずるい。
とはいえギャラリーもいい感じに盛り上がっているし、もうこうなったら俺が一番有坂を応援したい。
この日に向けて受験勉強の合間に一緒に特訓もしたし、俺から見てもいい勝負になるんじゃないかって思ってる。
あのめちゃくちゃゲームが下手だった有坂が、一年間コツコツと頑張ってこのゲームだけだけど上手になっているのは本当に驚いた。
てかそんなに水瀬に負けたのが悔しかったのか。
「――有坂、頑張れっ。超頑張れっ」
ともかく全力で後ろから応援すると、有坂はこちらを見ずにコクリと頷く。
水瀬の背中から一気に殺気が立ち昇った気がしたけど、ここは絶対に有坂に勝ってもらわないと困る。
試合は予想以上に壮絶な戦いになった。
前回は完全に大人と子供みたいな戦いで、勝った水瀬が逆に卑怯って思われるくらいの試合だった。
でも今回は善戦してるなんてもんじゃない。
一本取って取られての、手に汗握るめちゃくちゃいい勝負だ。
「…なるほど。しっかりと練習してきたようですね。想像以上の実力で驚きました」
「水瀬こそブランクがあると言っていたが、そう衰えてはいないようだな」
「当然でしょう。試合を申し込まれてから今日まで、再びこのゲームをやり込んできましたから」
「ふむ、この日のためにお互い準備は万全にしてきたと言う事か」
「そのようですね」
お互いに相手の実力を認め合い、気付けばクスリと顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべている。
おい待て、なんかちょっと仲良くなってねーか。
俺を差し置いて仲良くなるのは絶対禁止だ。
俺はハブられるのが一番嫌いなんだ。
いよいよ大詰めとなり、両者一歩も引かぬ試合展開のまま最終局面を迎える。
次の勝利を掴んだ方が、俺の後夜祭を勝ち取る権利がある。
実力は完全に互角で、どっちが勝っても全くおかしくない。
「…っゼタス。ここまで来たらもう出し惜しみするものはありません。僕の全てをぶつけて、貴方をこの世界から打ち滅ぼします」
「――いいだろう。掛かってこい、水瀬」
運動もしてないのにお互いじわりと汗をかいていて、息も上がっている。
最後の力を振り絞る様に水瀬が険しい顔でコントローラーを握り直し、さすがの有坂も苦しげに…いや、有坂は安定の真顔だ。
とはいえここにきて有坂も、ついに魔王の風格が出てきた気がする。
ギャラリーも俺も固唾を飲んで見守る、ラスト一戦。
栄光の勝利を掴んだのは――。
「――っ有坂!やったっ」
有坂の画面にWINが出た瞬間、テンションが上がってそのまま背中に飛びつきにいく。
後ろからギュッと有坂の首に手を回したら、ドッと今日一番の声援でギャラリーが盛り上がる。
「…っく、ラインハルト様を…っ守れな…かった」
優勝したのに真顔の有坂の横でガクリと水瀬が膝をついたが、きっと水瀬の敗因はアレだ。
勇者じゃなくて、賢者だからだ。
魔王を倒せるのは、勇者しかいないからな。
心の中で間違いないと確信してたら、スッと有坂が水瀬に手を差し伸べる。
「とても熱い試合だった。今回は俺の勝ちだが、総合的にはこれで一対一だ。次こそは本当の決着をつけよう」
「――ゼタス…っ」
ハッと水瀬の目が見開く。
少し戸惑った末、おずおずと有坂が差し伸べた手に水瀬が自分の手を重ねる。
「…いいでしょう。次回は僕がリベンジマッチを仕掛けます」
「ああ。だが次も俺が勝つ」
「ふふ、僕も負けません。…ああ、ですがなんだか負けたのに清々しいです。僕もまだまだということが分かりました」
と、なんかもはや安っぽいドラマどころか茶番を見せられてるようなリベンジマッチだったが、水瀬との話を終えると有坂がようやく俺を見つめてくれる。
待ち焦がれてた黒い瞳と目が合って、顔がどうしようもなく熱くなる。
やっとだ。
やっと、俺と有坂の時間だ。
「結城、待たせたな」
「…っ有坂」
有坂と話さないといけないことがたくさんある。
進路の話はもちろんだけど、朝宮さんと何してたのかも事細かに聞きたい。
決して有坂を疑ってるわけじゃないけど、一応確認のためだ。一応な。
ワイワイとギャラリー大盛り上がりの声援の中、ともかくこれでようやく有坂のリベンジマッチも感動のフィナーレを迎えた。
――かと思いきや。
「ちょーっと待ったぁ」
呑気な声が教室に響く。
俺も有坂も水瀬も盛り上がってたギャラリーも「えっ?」とキョトンとしながら声のした方へ顔を向ける。
完全にエンドロール始まってるレベルの雰囲気の中、ツカツカと教室に入り込んできたソイツはドカッとさっきまで水瀬が座ってた席に腰掛ける。
それから俺の顔を見上げると、ニッと相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべて見せた。
「これに勝ったらマッスーとの時間貰えるんでしょ?俺、話したいことあるんだよね」
まさかの新たな挑戦者、ハルヤンが現れた。
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