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水瀬とあんなに壮絶なバトルを繰り広げたってのに、それはもうあっさりと有坂はハルヤンに負けた。
完全に水瀬との戦いで力出し切ってんじゃねーか。
そんなわけでさっきまでのB級映画みたいな展開も飽きたようにギャラリーも萎えて、そろそろ閉会式の時間って事で人も散り散りになっていく。
最後に来たハルヤンがあっさり優勝して終わったが、こんな締まらない展開どーすんだ。
まさかのハルヤンと後夜祭過ごすことになったじゃねーか。
「…なかなかの腕前だった。必ずリベンジしてみせる」
「あー、はいはい。楽しみにしてるわー」
ガクリと膝をつく有坂にハルヤンがヘラヘラと言ってるが、もうリベンジはいいからそんな時間があったら俺に構ってくれ。
絶対それまたコツコツ練習し始めるやつじゃねーか。
有坂は複雑な表情で一度俺を見たが、何も言わずに教室を出て行った。
その背中には、敗者が語る言葉など無いとでも言いたげな哀愁が漂っている。
慌てて呼び止めようとしたけど、不意にガシリと水瀬に両肩を掴まれた。
「ら、ラインハルト様、さすがにこの男は危険ですっ。ゼタスは何も言いませんでしたが、僕はこの男だけは信用なりませんっ」
「全く水瀬クンは相変わらず昔の事根に持ってくれてるなぁ」
「貴方が忘れようと、僕はあの時の事忘れませんよ。今回の勝負にしても、完全にゼタスが疲弊したところを狙うなどさすがは盗賊ハイネ。なんと卑怯極まりない…っ」
「はいはい、敗者が何言っても負け犬の遠吠えにしか聞こえないけど?」
ハルヤンが上から目線で薄ら笑いを浮かべているが、まあ正直その通りだ。
負けたのにまだぐちぐち言ってる方がダサいぞ。
「水瀬、別に心配しなくても大丈夫だから」
「で、ですがラインハルト様…っ」
「つーかハルヤンの性格なら俺の方が良く知ってるし」
「…っなら尚更――」
水瀬が必死に訴えてくるが、まあそれだけ俺の事心配してくれてるんだろう。
有坂だってこれくらい心配して縋ってくれたっていいのに、何も言わずにあっさり出て行ってしまった。
やっぱりまだ怒ってるのか。
とはいえ俺の態度に仕方なく水瀬も踵を返すと、トボトボと肩を落として教室を出て行く。
あんなに賑やかだったギャラリーもいつの間にかいなくなっていて、オレンジ色の夕日が窓から差し込んでいる。
もう文化祭も終わりだ。
「水瀬」
ふと教室から出て行く水瀬を、ハルヤンが呼び止める。
まだ何か嫌みを吐くのかと、振り向いた水瀬の表情に警戒が浮かぶ。
「あの時は悪かったな」
「――え」
「大分遅いかもしれないけど、一応謝っとく」
ハルヤンの予想外の言葉に、水瀬がポカンと目を丸くする。
当然驚いているのは俺も同じだ。
なんだ、心を入れ替えたのか。
いや待て、それもまだ作戦の可能性もある。
水瀬も俺と同じことを考えたのか、複雑そうな表情と共に視線が戸惑ったように彷徨う。
だけど少しして、静かに言葉を発した。
「…なら僕も一応言っておきますが、僕は今日間接的に負けただけで、貴方とはまだ直接勝負をしていません」
「え?あ、そう」
「なので次回は必ず、ゼタスもろとも貴方を倒します」
そう言って教室を出て行ったが、水瀬意外に細かいこと気にするやつだな。
とはいえ次回があるってことは、ハルヤンとの繋がりを一応認めたってことだ。
なんかこの俺を差し置いて周りがどんどん仲良くなってないか。
俺以上に周り同士が仲良くなるのは絶対許さないぞ。
水瀬がいなくなると、ハルヤンと二人きりになる。
さっき手当てした傷は大きめの絆創膏一枚で隠れてるけど、やっぱりまだちょっと痛そうだ。
さっき俺と話すのはウンザリだって言ったくせに、一体何の話をするつもりだ。
「あれ、何ありちゃんみたいな難しい顔してんの?別にそんな心配しなくてもすぐ解放してあげるからさ」
「…え?」
「せっかくの後夜祭、マッスーだってありちゃんと過ごしたいでしょ」
あっさりとそう言われた。
マジかよ。
いや俺の気持ちを察してる辺り、さすがハルヤンだけど。
「べ、別に今はそんな心配してねーよ」
「あ、そう?まあありちゃんに一泡吹かせられたから俺はわりと満足してるけど」
「…はぁ?お前そんなことのために挑んだのかよ」
もしかして俺がキライだから嫌がらせしにきたのか。
と思ったけど俺の事すぐ解放するって言ってたし、そもそもハルヤンはそんなねちっこいことするタイプじゃない。
復讐はされてもしなそうだ。
ハルヤンは窓際に寄りかかると、俺を見てニシシと笑顔を向ける。
ムカつく笑顔だが、なんだかそんな顔久しぶりだ。
「ま、一言で言うと仲直りしにきたんだよね」
「っえ」
「まあ俺も言い過ぎたかなって」
「な、なんだよいきなり」
カッと顔が熱くなる。
なんでいきなりそんな気になったんだ。
もう俺と関わるのは嫌だったんじゃないのか。
「んー、なんかマッスーが成長してるのみたらさ、俺もそろそろガキくさい事は卒業しようかなって気持ちになったし」
「ガキくさいことしてる自覚あったのかよ」
「まあ自己中の自覚に芽生えたマッスーくらいには」
それあんまり自覚してねーな。
まだそんなことないって気持ちが捨てきれてないぞ。
「それにマッスーの成長眺めるのも面白そうだし」
そう言われたけど、俺はそんなに成長してるのか。
まあこの俺が常に成長して進化し続けているのは当然だけどな。
この俺ならそれくらい当然なんだ。
そう、この俺なら当然――だと思ってた。
「…成長、なんかしてない」
「いやめちゃくちゃしてるでしょ。ありちゃんのおかげだよね」
「でも俺はまだ、有坂に何も出来てないんだ。それどころか本当は…本当は言わないといけないことを、ずっと見て見ぬふりしてて…っ」
言いながら、なんだか泣きたい気持ちになってくる。
なんだろう。
もう無理だと思ってたのに仲直り出来て、久しぶりにちゃんとハルヤンと話が出来たからか、胸がめちゃくちゃ熱くなってくる。
張りつめていた気持ちが緩んで、ずっと誰かに聞いてほしかった言葉が溢れていく。
ずっと言えなくて、気付いていたけど必死に隠してた感情が溢れていく。
「そういうの全部ありちゃんに言えばいいんじゃないの?」
「…有坂に言うのは、自分の中で決めてからじゃないとダメなんだ」
有坂は優しいから、全部俺に譲ってしまう。
そうやって俺は有坂から全部奪ってきたんだ。
ハルヤンはクスリと笑って、どこか優しげに目を細める。
そんな視線を向けられるのは初めてだった。
「ならどうしたら伝えられるか、一緒に考えようか」
ハルヤンの言葉に、俺は力強く頷いた。
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