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陽が沈んでいく。
ハルヤンと話終えて教室を出ると、もう空に群青色が混じり始めていた。
廊下の窓からちらほらと校外に出る生徒の姿が見えて、どうやら閉会式も終わったらしい。
グラウンドに設置された後夜祭用のステージでは、既に催し物を始める準備も始まっている。
「じゃ、あとはありちゃんと頑張って」
「うん。ハルヤンはどうするんだ?」
「俺は…そうだなー。もう女子口説くのも飽きたしなぁ」
「さすがに報復されたばっかだしな」
「ホント男使って復讐とか、これだからガキはなー。やっぱ大人のおねーさん探しにいこ。家庭科の先生とか若くて可愛いよな」
うん、全然懲りてないらしい。
やっぱりハルヤンはどこまで行ってもハルヤンだ。
ハルヤンと別れて、有坂を探すことにする。
もう後夜祭の時間だ。
後夜祭は自由参加で、主にステージでの催し物がメインになる。
グラウンドに設置されたステージに生徒が集まってる姿を見下ろしながら、有坂に電話を掛ける。
出なかったらどうしよう。
少し心配したけど、今度はすぐに繋がった。
ちゃんと携帯を取りに行ってくれたらしい。
『どうした。春屋と何かあったのか』
「えっ?なんで」
『喧嘩していただろう。仲直りはできたのか?』
「…あ、うん」
そういやハルヤンと喧嘩したって有坂に話してたっけ。
だから何も言わずに時間を譲ったのか。
いや、有坂のことだから単純に負けたからかもしれないけど。
「有坂、今どこにいるんだ?一緒にいないと俺もう無理だ」
『…そうは言っても俺は勝負に負けた身だ。お前との後夜祭の時間を守れなかった』
「別に水瀬には勝っただろ。それにハルヤンなら有坂と過ごせって言ってもう一緒にいないぞ」
『なに?…そうか。春屋に気を遣わせてしまったな』
別にハルヤンとは仲直り出来たし色々話せたりもしたから、俺的には良かったけど。
有坂は律義に気にしてるけど、そんなことより俺はもう限界なんだ。
今すぐ有坂に構ってもらわないと、もう気が済まない。
「あ…有坂、まだ怒ってるのか?」
『…まだ、とはなんだ。別に怒ってなどいない。俺がお前に怒る理由がない』
「で、でも昼の時に――」
『ただ結城、俺はお前と話がしたい。お前が今何を考えているのか聞かせて欲しい』
「お、俺は別に悪い事は何もしてなくて…、い、いつもいい子にしてるし…っ」
『話は直接聞く』
言葉の途中でそう言われて、ビクリとする。
やっぱりこれちょっと怒ってんじゃねーか?
ドクドクと鳴る心音のまま、電話を切る。
とりあえずこの時間どこに行っても人がいるし、なるべく人のいないところを考えて後夜祭の様子も分かる屋上で待ち合わせることにした。
ちょっと怖いけど、でも有坂とちゃんと待ち合わせは出来た。
ともかく屋上に行こうと誰もいない渡り廊下を歩く。
窓の外にはステージを彩る煌々とした明かりが広がっていて、どうやら後夜祭も始まったらしい。
今は漫才をやってるのか、時たまワッと賑やかな声が校舎の中まで響いてくる。
そういえば有坂は朝宮さんといたんじゃないのか。
ゲー研に来た時は一人だったし、もしかしたら誤情報だったのかもしれない。
それにしては俺に全然連絡してこなかったけど。
そう思いながら誰もいない渡り廊下を歩いて教室棟へ入り、自分の教室の横を通る。
何気なくちらりと中に目を向けて、ビクリとした。
「――うわっ」
誰もいない教室で、窓際で一人ぽつんと立っている奴がいた。
長い黒髪が風になびいていて、幽霊かと思ったじゃねーか。
「…え、結城君?」
俺の声で気付いたのか、向こうも驚いたように振り向く。
今しがたちょうど考えていた本人、朝宮さんがいた。
「…ビックリした、一人で何してんだよ。後夜祭行かねーの?」
「あ、うん。帰ろうかなって。結城君は?」
「これから有坂と約束してんだよ」
「…そっか」
それきり会話が終わる。
まあ俺は早く有坂に会いたいし、さっさと屋上へ足を向けることにする。
「――わ、私が代わりに行っちゃダメかな?」
「はぁ?」
突然ありえない事を言われた。
コイツいきなり何言ってんだ。
「いや無理だろ。俺との約束だし」
「そ、そうだけど。でもほら、結城君私の気持ちずっと知ってたでしょ。有坂君と仲良いし、文化祭くらい協力してほしいなって…」
「何言ってんだお前」
「だってほら、修学旅行の時も私の話聞いてくれたし、元カノさんの事も私に教えてくれたでしょ?アレって協力しようとしてくれてたからだよね」
確かにそんなこともあったが、アレは朝宮さんが自分で勝手に話し始めただけだし、田舎女の事はムカつきを共有したかっただけだ。
まあそこは有坂にあとでバレて怒られたけど。
じとりと目を細めると、どことなく気まずそうに目を逸らされた。
コイツ一体どうしたんだ。
「なんかあったのか?お前変だぞ」
「――え、なんでよ。どこが…」
「約束と違う奴が行くとか、有坂が一番そういうの許さないだろ。朝宮さんならそれくらい分かると思ってたけど」
めちゃくちゃ認めたくないけど、朝宮さんは俺よりも有坂のためにって思ってた奴だ。
俺がやりたくない野球部の勉強を教えることとか、まあマネージャー業務もだけど、有坂のためになることをし続けてきた奴だ。
だから夏祭りの時だって朝宮さんに言われた一言に、俺は負けた気がした。
衝撃を受けて、何も言い返せなかった。
それなのに、なんでいきなり有坂を怒らせるようなアホな事言い出してんだ。
俺の言葉に朝宮さんが俯く。
有坂のところに急ぎたいのは山々だが、仕方なく様子の違う朝宮さんを見て教室の中へ足を向けた。
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