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「…ごめん」
ぽつりと呟く。
は、と朝宮さんが顔を上げた。
「なんで…結城君が謝るの」
男同士付き合ってるなんて言い振らされたら困るから、本当の事は言えない。
朝宮さんと俺はそこまで仲が良いわけじゃないから、さすがにそこら辺の信頼は無い。
「――ごめん」
だからそれ以上のことは言えない。
でも無性に謝りたい気持ちになった。
それは別に有坂と付き合ってることに後ろめたさを感じてるとか、そういうことじゃない。
当然だけど有坂を朝宮さんに譲る気は最初からないし、同情して謝ったわけでもない。
ただこんなに大切に思われている有坂に、俺が何も出来ていない。
俺と付き合ってることが、有坂のために何もなっていないことに苦しくなった。
当たり前だけど本来なら有坂が女と付き合った方がいいことくらい、俺にだって分かる。
世間的に見てもそうだし、旅館の未来のことを考えても絶対に女と付き合った方がいいはずだ。
この俺が圧倒的にイケメンで可愛いから今の感じになってるけど、でも本当だったらこんなのありえないんだ。
だからこそきっと俺達は、もっとお互いのためになる付き合い方をしなければいけなかった。
有坂はそのためにたくさん考えてくれていたのに、俺はそこが全然出来ていなかった。
「――ううん。私の方こそ、そんな風に謝らせてごめんなさい」
もっと詰められるかと思ったのに、朝宮さんは不意にそう言って立ち上がる。
泣いてたのに、その表情が突然クスっと微笑んだ。
一体なんだ。
「えっと…ごめんね。本当は知ってたんだ」
「え?何がだよ」
「有坂君と結城君が付き合ってる事」
「――はぁ!?」
思わず目を見開く。
マジかよ。
なんで。いつから。女の勘か?
「あ、ちょっと前に直接有坂君に聞いて…」
「は?有坂が言ったのか?」
「うん。そうかなって思って聞いたら、私だったら信用出来るって言って教えてくれたんだ」
信用できるほど仲良かったのかよ。
一瞬ショックを受けたけど、でもそれは朝宮さんが有坂のために頑張ったからだ。
去年くらいに朝宮さんのことを有坂に聞いた時は挨拶する程度だって言ってたのに、この一年朝宮さんはずっと有坂のために頑張ってた。
それは俺も知ってるし、だからこそ有坂の信頼を得ることが出来た。
「…だ、だから俺に不機嫌な態度取ったり、騙したりしたのかよ」
「んー…まあ結城君だって私の気持ち知ってたのに黙ってたから、それくらいしてもいいかなって」
「い、言えないだろっ。普通に」
「まあそこはそうだけど…」
変に心臓がバクバクしてしまう。
有坂が朝宮さんにまさか話してたとか、かなりビックリだ。
つーかソレを知っても告白って、だからこそ返事はいらないって言おうとしたのか。
「…なんかさ、男同士だとムカつくーってそこまで結城君を恨むような気持ちにもなれないし。他の女の子だったら嫉妬して悔しい、ってむしゃくしゃする気持ちにもなれるんだけど」
「でも俺に不機嫌な態度とっただろ」
「あれくらいさせてよ。結城君なんてもっと私の事無視したりしてるじゃん」
そう言われてみれば、確かに。
というか俺は朝宮さんとか田舎女とか女が相手だろうと、めちゃくちゃムカついてたけどな。
有坂に近寄るやつは性別関係なく全員敵だ。
「泣いたら下手くそだけどナデナデして男の子っぽく私の事慰めようとしてくるし。もうすっごく複雑な気持ちになっちゃったよ」
そんなに下手くそだったのか。
もしかしたら有坂が泣いた時のために、慰める練習もしといたほうがいいかもしれない。
「…ほんと、こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
朝宮さんはそう言って儚げに笑う。
笑っているのにその表情は苦しげで、全然気持ちの整理なんかついていないのが見て取れる。
とはいえこっちもバレてたことに焦っていて、なんて言ったらいいのか分からずソワソワしてしまう。
朝宮さんもだろうけど、俺だって今複雑な気持ちだ。
「…結城君、有坂君をあんまり困らせないであげてよね」
「っえ?えっと…」
「悩んでるみたいだったよ。私そういうの付け込むの得意だから、隙見せたらまだ分からないからね」
「ま、まだ狙ってるのかよっ」
「ふふ、有坂くんみたいな人は情に訴え続けるのが一番だと思うからなぁ」
やばい、コイツ分かってる。
有坂は優しいから、そういうの絶対弱い。
ずっと好きだって言い続けて泣いて泣きまくれば、ワンチャン可能性もある。
でもそうなったらそれ以上に俺も情に訴えまくるけどな。
有坂の情に訴え続けるという第二バトルの始まりだ。
「結城君と付き合ってるし、フラれたから諦めるね、なんて言ってスッキリ終わらせてあげるつもりはないから。私がいつでも狙ってる事、忘れないでよね」
「お、お前性格悪いぞっ」
「それが嫌なら困らせないであげてよ。私は好きな人に幸せになってほしいもん」
チクリ、と心が痛んだ。
まただ。
また朝宮さんは、有坂のためになるようなことを考えてる。
「…わ、分かった」
素直にそう言ったら、朝宮さんもちょっとだけ満足したようにコクリと頷いた。
いつの間にか涙は止まったみたいだけど、だからといって気持ちが晴れたなんてことはないはずだ。
だけどそれを俺が慰めるなんてことはもうありえないし、それこそ朝宮さんにとってもこれ以上俺と話すのは苦しいだろう。
それに俺の中でも、余計にやるべきことがハッキリした。
ハルヤンに相談して、朝宮さんから衝撃の事実を聞いて。
今度こそちゃんと有坂のためになることを、俺はしないといけない。
朝宮さんに別れを告げると、屋上へと急ぐ。
きっと有坂はもう待ってるはずだ。
ちゃんと有坂と話をしよう。
今度こそ、もう俺は間違えない。
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